130.第19話 4部目 鑑定眼


1週間後。

村の枯れ井戸は復活を果たした。

一先ず、釣瓶つるべ井戸とした枯れ井戸には、元素魔法を使えない転換魔法使い達が喜んで集った。

それだけではなく、レオンくんが年子姉妹のメルとリラに温泉水の説明をした影響か、2人に合わせてリズも積極的に井戸を訪れる様になった。

やはり女性にとって美肌効果と言うものは大きい影響を受けるらしい。

井戸から一番近い所に住んでいるおばばも、何やかんやと言いながらも井戸の水を飲む様になっている。

その流れでレオンくんが、同じ効果を持つ温泉を掘り当てると吹聴しているため、既に村の中では温泉に入れる事が確定事項になってしまった。

見つかるかも分からないものが、既に見つかったかの様に捉えられるのは困ったものだ。

つくづく転移者の言葉は影響力が強すぎると実感した出来事だった。

一方、僕はと言うと…。

この1週間。壺の中に入っている水が、冷たいか熱いかを見極める訓練をしていた。

最初は手間取っていたが、どの様に考えながら見れば判断が付くか感覚が掴める様になり、冷たさと熱さの違いは分かる様になった。

なってしまった…と言うのが、正直な僕の感想である。

お袋さんの指摘通り、卵の黄身を見極めるのと同じ様な感覚になったため、壺の中身にどんな液体があるかも成分で分かる様になったのが、より人間らしさから離れていて自嘲してしまった。

その内、動物や人間の中身も正確に鑑定出来る様になってしまいそうだ…。

最初は何て事ない、誰でも持ちうる能力だと思っていたのになぁ。

それとも、エヴァンも箱の中身を鑑定する事ぐらいは出来るのだろうか?

…今度聞いてみようか…?

「いや、妙に思われるから止めた方が良いか…」

「何が?」

僕の1人言を聞き、レオンくんが怪訝そうに聞いて来た。

そういえば、レオンくんと「温泉源を見つける村探索」を開始したんだった。

「何でも無いよ」

「あっそ。っつーかさ、早く見つけよーぜ?熱源探知出来る様になったんだろ!?」

そう言ってレオンくんは輝く目で僕を見つめた。

「まるで人を蛇か何かの様に言うのはよしてくれないかなぁ…」

「え、それって、機械よりマシじゃね?」

「…」

反論の言葉も浮かんでこない。

お袋さんの為にも温泉源を見つけたいとは思うものの、やはり気が乗らない。

一体、僕は何処へ向かおうとしているのだろうか…と遠くを見て思った。

すると、そんな僕を見たレオンくんは気を揉んだらしく声を張り上げた。

「あーもー!うだうだしてねぇでさー!ちゃちゃっと見つけろよ!

俺は早く温泉に入りてぇの!早くしないなら、テッちゃんの秘密バラ…」

そこまで聞いて、僕はハタと我に帰った。

「レオンくん。それは…」

忠告しようと口を開いたが…遅かった。

「ひゃーっははははっはははっっは!!ひ~!や、やめ!ひ、ひひ、ひははっ!」

「あぁ…」

僕の秘密をバラそうとしたレオンくんの言葉は、思った通り脅し文句を言ったとして拘束魔法の権限に引っ掛かった様だ。

単純に秘密をバラすだけなら脅しなどには含まれないが、それをすると宣言するのは脅しと認定される。

例え秘密をバラしたとしても、誰かに対して著しく悪事を働いた訳では無いので恐らく拘束魔法は発動しないだろう。

問題なのは脅したり、暴力を奮ったり、盗みを働いたりと悪事に直結する行動なのだ。

その点も含めて、拘束魔法を施す時に説明したのに…。

それから1分間、レオンくんは笑い転げ続けた。

「ー…ひー…ひー……」

「…大丈夫?」

ようやっと「くすぐりの刑」を終えたレオンくんは、苦しそうに息をしながら横たわっている。

レオンくんが笑い転げている間、何人かが近くを通りがかったが、レオンくんの奇行を見て信じられないものを見る目をして通り過ぎて行っていた。

その中には、元盗賊の子も居た為、即日中にレオンくんの奇行は村中に広まるだろう。

それを聞いた親父さんが怒り狂う姿も目に浮かぶ様で、僕はどう宥めたものか考えを巡らせる。

「こ、この罰ってさ…」

「うん?」

「て、テッちゃんが、考えたろっ…!」

「うん。…良く分かったね?」

「こんな、えげつねぇのアメちゃんが考える訳ないじゃん!」

「それでも考えつくのは親父さんじゃなく、僕なんだねぇ」

「あの人なら直接殴って来るじゃん!」

「…良く分かってるね」

そんな会話をしながら、レオンくんの体力が復活するのを待って僕達は温泉源探索に赴いた。

僕は鑑定眼で地中を覗く。

最初の内はやはり手こずって、土の成分ぐらいしか分からなかったが、何度か繰り返す内に土の中に居る虫の姿が薄ボンヤリ分かる様になって来る。

30分ほど経つと、土の中に点々と水たまりが存在するのが僕の目に映った。

…これは、半ば成功したと言っても良いのではないだろうか?

どうやら、僕は本当に地中の水を鑑定出来る様になってしまったらしい。

その事を嘆きながら、僕は地中を覗き続けた。

地中を覗いている間の僕は、他の視覚情報が遮断されている状態で歩く事もままならない。

故に、レオンくんに手を引かれながら村の中を歩き回った。

傍目には、この姿も奇妙に映っただろう。

レオンくんが落ち込む僕を何故か連れ回している。と言う誤情報が親父さんの耳に届く前に、何とか見つけなければ…。

そう思いながら、僕とレオンくんは村の中を歩き続けた。

地中を探索し始めて1時間後。

井戸の水が青寄りの緑色をしていた事を参考に、僕は地中の水溜りを色で判断していった。

それで分かったのは、井戸のある辺りの水源は同じ様な色をしており、東側に離れるほど青っぽくなっていくのだ。

つまり、東側にある川方面には、温泉源は先ずないと言う事だった。

それが分かった後で、僕とレオンくんは再び井戸の方へ向かった。

井戸の周りには、年寄り達が固まって住んでおり、一番近くはおばばの家だ。

もし、温泉源が見つかるなら、年寄り達の家から近いと良いのだが…。

そんな僕の願いが通じたのか、年寄り達の家周りの地下水は、やはり温いものが多かった。

段々と黄色味が多くなって来る地下水を追いながら、僕はどんどん歩いて行った。

レオンくんを引っ張る様にして歩いていく僕の目には、黄色から橙色に変わっていく地下水が見えている。

そして、遂に赤く見える地下の水溜まりが見えた…!

「テッちゃん危ねぇ!」

「え?」

レオンくんはそう言って、僕の腕を思い切り引っ張った。

何事かと思った僕は慌てて鑑定眼を解くと、木肌が視界を覆っている。

「森の方に歩いていくからマジ焦ったー!もーちょっとで木にぶつかってたぜ?」

「あ…うん。ありがとう、レオンくん。助かったよ」

あわや木にぶつかりそうになった所を、レオンくんが止めてくれたようだ。

僕は場所を確かめる為に、周囲を見渡した。

どうやらウェルス村の西側で、少し村から外れた場所の様だ。

しかし、そう遠い訳でもない。年寄り達も十分に通える距離である。

「で?途中から、ずんずん歩いてったけどさぁ見つけたの?」

「あ、うん。見つけたよ」

「…マジ?」

「……ははっ。うん、まじで」

僕が言うと、レオンくんは歓喜して飛び跳ねながら喜びを表現した。

「で?で?何処!?何処な訳!?」

「えっとね…ここ、僕が今立ってる辺り」

真下に見える赤い色に見える水を指差して言うと、レオンくんは僕をどかして早速魔法で地面を掘り始めた。

「テッちゃんは休んでろよ!後は俺に任せとけ!」

そう言いながら嬉々として地面を掘り続けている。

あの様子なら、今日中に掘り当てるかもしれないなぁ。

「あ、レオンくん。熱く見える水っぽいものを見つけただけだから、十分に気を付けてね?」

山から離れているし、流石にマグマ源を見つけたとは思わないが…念の為だ。

「大丈夫、大丈夫!俺はテッちゃんの目を信じるぜー!」

うーん。温泉源が見つけたと信じ切ってハイになってるなぁ。

…まぁ、これで外れだったら、ガッカリはさせるが僕の目も信用ならないと言う証明になるだろう。

それが良い事なのか、悪い事なのかはさておき…。

ともかくレオンくんの申し出通り、僕は少し休ませて貰おう。

僕は少し離れた木に寄りかかって、レオンくんの姿を見守った。

しかし、予想以上に気力を使っていたらしく、僕直ぐに眠りにつくのだった…。

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