42. 第5話 5部目 テオの悩み

僕は言葉を躊躇いながらも、悩みを打ち明けることにした。

「うーん…僕、緑丸くんたちと話が出来てるでしょう?それがちょっと悩みのタネなんだ」

「はぁ?俺様たちと話がしたくないってか!?」

「違う違う。緑丸くんたちと話せるのは凄く楽しいよ。そうじゃなくて…他の動物の声が、ね」

キリキリムシたる緑丸くんたちの言葉が理解出来ると言う事は、他の動物や虫たちの言葉も分かってしまうと言う事になる。

そして、それは狩りの対象となる動物や、家畜とする動物にも適応されるだろう。

言葉が通じる事は概ね便利であると考えるが…こう言う場合は余計なものとしか思えない。

端的に言えば、非常にやり辛いのだ。

狩りをする事も、家畜を育てて絞める事も、人間にとって必要な事であり、やるべきだと思う。

その考えは変わらないが…言葉の分かる動物相手を絞めるのは、お袋さんでなくても嫌になる。

しかし、緑丸くんたちと話せる様になった事で、麦の不作が解決した。

言語理解能力があるお陰で解決した事がある手前、邪険に扱うのは違うだろう。

ならば、甘んじて受け入れる他ない。その考えに達した途端に、僕の気持ちは鬱々としてしまったのだ。

分かっては居るが、どうにも気持ちの整理がつかない。

この前のお袋さんと同じである。

本格的に狩りや養鶏を始める様になるまでに、気持ちの整理をつけなければ。

「ー…って言っても、あんまり考えない様にするのが精一杯なんだけどね」

しかし、緑丸くんと話していると、どうしても考えてしまう。

だからこその溜め息であったと、緑丸くんに説明した。

すると、緑丸くんは怪訝そうに首を傾げる。

「お前ら異世界人は、同じ異世界人でも殺し合ったりするんだろ?何を鳥如きに悩むんだよ」

痛い所をグサリと刺された。

何処で仕入れてくるんだか分からない情報を、憂いも躊躇いもなく言われると否定しようにも辛いものがある。

「…そうならないための会話なんだけどねぇ」

今回に限っては言葉が分からない方が都合が良いと考えるのは、やはり僕が人間だからだろうなぁ。

…やはり、甘んじて受け入れるしかないか…。

「ふーん…どうせ殺し合うなら、会話した所で無駄じゃねぇの?」

これまた、地味に真理を突く様な事を言ってくれる。

会話をした所で解り合えない相手と言う存在は、どうしたって居るものだ。

そう言うのを価値観の違いと言う。

その違いを会話ですり合わせる事が出来れば問題はないわけだが、叶わないなら武力でぶつかる事があるのも事実である。

緑丸くんも縄張り争いやら、餌場争いやらで戦った事があるのだろう。

だからこそ、会話は無駄だと言ったのだと思われる。

「それを言ったら、僕たちと緑丸くんたちの間に交わされた協定はどうなるの?話し合いで解決した数少ない事項なのに無かったことにするのかい?」

そう。僕たちの関係も会話が成り立ったからである。

そうでなければ、未だに争い続けていたかもしれない。

そう考えると、この言語理解能力と言うのも良し悪しがあるのだと実感して止まないのだ。

「そう言やそうだった。なら、あれだ。聞きたくない言葉は聞こえないフリしちまえば良いんだ。そしたら、無駄な会話せずに済むだろ!」

名案とばかりに胸を張って言う緑丸くんが想像出来て、僕は微笑ましく思いフと笑った。

「ははっ。それで平和で居られるなら幾らでも聞こえないフリするけど、そう上手くいかないのが…」

人生と言うものだ。と、年寄り臭く続けようとした瞬間だった。

僕の脳内に閃きが起こったのだ。

思えば、僕が緑丸くんの言葉を理解出来る様になったのは何故だったか?

緑丸くんたちと会話出来る様になれば、殺虫剤を撒かずに済むのにと思ったのがキッカケだっただろうか。

もし、あれがキッカケで言葉が分かる様になったのなら、その逆もあるのではないか?

聞きたくない。と思えば、聞こえなくなるのではないか?

何て、実に御都合主義な考えを思い浮かべて、僕は苦笑した。

「上手くいかないのが…何だよ!?」

言葉の続きを気にした緑丸くんの言葉で我に返った僕は、続きの言葉を伝えた後で黙った理由を話した。

聞きたくないと念じたら、その言葉が聞こえなくならないかな?と言う希望である。

もし、可能であるなら、家畜となりうる動物の言葉は分からない様になっておきたい。

都合の良い時だけ、言葉が分かる様にすると言うのは何やら摂理に逆らっているかの様な印象を受けるが、操作出来るなら出来る様になりたいものだ。

「なら、試してみれば良いだろ。お前の目も四六時中、鑑定してる訳じゃねぇんだろ?」

「まぁ、確かに…鑑定したいと思った時にしか、物体の情報は可視化されないけど…」

鑑定眼は割と早くに制御出来る様になったんだよなぁ。

まだ、赤ん坊で身動きが取れない頃に、目に映る世界の全てが文字だらけだった。

最初は物珍しかったが、段々鬱陶しくなって来たと同時に文字列は見えなくなっていたのだ。

それを思うと、言語理解能力とやらも思い1つで制御出来るのかもしれないのか…?

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