41. 第5話 4部目 戯れ

筋肉痛や左手に出来た豆などに悩まされながら、毎日弓矢の練習をし続けて2週間が経過した。

今日は、親父さんとウィルソンさんで麦畑を整える日だ。

来年の麦の種を蒔くための準備である。畑に残った麦の根っこや、雑草を取り除きつつ土を休ませるのだ。

ちなみに、この辺りでは麦の種を蒔くのは冬に入ってからでも間に合う。

一度、冬の寒さを経験させる必要がある麦ではあるが、この辺りは比較的暖冬が続くため、種蒔きの時期も遅い。

ともあれ、僕は親父さんに言われてミラー宅の裏庭に設置されている、立てた丸太に矢を放つ練習をしている。

作成した10本中の矢の半数2本から3本が、丸太に命中する様になってきた。

力がないからだろう。まだまだである。

10本打ち切った所で、矢の回収に向かい矢筒に収納して、暫しの休憩を取る。

「ふうー…」

「へっ!へばってて、ざまぁみろだな!」

いつもの悪口が耳に響く。声がした先に視線を向けると、飛び跳ねている緑丸くんが居た。

「へばりもするよ。今日は一日、弓の練習をしてろって言われてるからね」

足を伸ばして休憩している僕の膝に緑丸くんが飛び乗った。

「そういや、あの親父たち畑に居たな」

「緑丸くんたちの所には真っ先に行く様に言っておいたけど…来た?」

後回しにしたら文句を言われそうな気配がしたため優先して貰ったのだ。

僕の言葉を聞いて、緑丸くんは急に踏ん反り返った。

「あぁ、来たぜ!多めに蒔いとけって言った!これで、来年はお前たちより麦が多くなるぜ!」

種蒔きは緑丸くん達が冬眠した後になるのではないかと思うのだが…。

ふふんと鼻を鳴らして喜んでいるが、種蒔きよりも重要な事が抜け落ちていることに僕は思わず笑いを漏らす。

「ふっ…僕しか君たちの声が聞こえないのに?」

「…そうだった!チッ!」

盛大な舌打ちと共に、緑丸くんは僕の足を何度も踏みつける。

僅かな布の動きを感じられる程度の変化ながら、緑丸くんの悔しさが伝わってきて、余計に笑いが込み上がってきそうだった。

「何、余裕ぶった顔してんだ!この野郎!」

そう言って、緑丸くんは僕の顔目掛けて飛んできた。

完全な八つ当たりだが、見事に命中。油断してた。と言うか、避けられる気がしない。

そして、体当たりされると同時に僕は後ろへ倒れこんだ。

視界をぼんやりと占拠する緑丸くん。あまりに近すぎて造形が確認できない程だ。

「うわー、やられたー」

「あぁ!?舐めてんのか、てめぇ!」

悪態をつきながら、緑丸くんはゲシゲシと僕のおでこやら頰やらを飛び跳ねながら踏みつけてくる。

僕は緑丸くんの気が済むのを待とうと目を瞑った。

そして、フと直視したくない現実が頭を掠め、思わず大きな溜め息が漏れる。

「何、溜め息ついてんだ!?」

馬鹿にされたと思ったのか、緑丸くんは溜め息に言及してきた。

僕は慌てて弁解する。

「違うよ。ちょっと、考えたくない事を考えちゃっただけだから」

「…お前が考えたくない事?何だそれ」

飛び跳ねるのを止めた緑丸くんは僕のおでこを定位置に決めたらしく、おでこに座り込んだ。

緑丸くんが興味を持ってくれるとは思っていなかったな。

てっきり誤魔化すな!と言われて噛みつかれるかと…。

しかし、緑丸くんならば僕の悩みも下らないと一笑に付してくれるかもしれない。

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