43. 第5話 6部目 解決策
…いやいや、そんな都合のいい事…。
自らの考えを否定しながら頭を振ると、緑丸くんは僕のおでこから近くの石に飛び移った。
目線が合う形になると、緑丸くんは言う。
「だったら、俺様の言葉が聞きたくないって念じてみれば良いだろ。但し!直ぐに分かる様にしろよ!」
「…無茶な事を言うなぁ。聞こえなくなったら、それっきりかもしれないのに?」
そう。また緑丸くんの言葉が分かる様になるとは限らない。
聞きたくないと念じたら、それきり…何て可能性も十分にある。
緑丸くんの言葉が分からなくなるのは非常に困る。
素で話せる貴重な話し相手が居なくなってしまうではないか。
ようやっと馴染んできたと思ってきていたのに…。
「てめぇ!異世界人の癖に怖気付いてんじゃねぇぞ!」
尻込みする僕に腹を立てた緑丸くんが理不尽な怒声を飛ばした。
緑丸くんは続けて言う。
「異世界人は、この世界の人間と違って、元素も転換も使えるんだぞ!?そんな奴が1回聞きたくないって言ったくらいで、それっきりになる訳無いだろ!もう1回、聞きたいって言やぁ良いんだよ!いいから試せ!!」
…僕は転生人であって、緑丸くんが言う所の異世界人とは少し違う気がするのだが…。
今それを指摘した所で、緑丸くんに鼻を噛みつかれるだろうから黙っておこう。
暴論の様に聞こえる緑丸くんの主張に、僕は一縷の光を見ることにした。
うん、そうだな。聞こえなくなったら、また聞きたい話したいと願えば良いんだよな。
「…うん。あ、もし、これきり聞こえなくなっても…」
「きぃいいい!いいから早く試せぇえええ!」
…約束は守るから、安心してね。と続けようとしたのだが、緑丸くんに遮られてしまった。
僕の小さい友達は実に短気だ。しかし、僕の悩みを解決するのに一役買って出てくれるなんて、嬉しいものである。
僕は緑丸くんの厚意に甘えて、緑丸くんの言葉が聞こえなくなる様に念じた。
実際、どうすれば音が聞こえなくなるだろうか?と考えた時に、そのまま耳に栓が入る感覚を思い描いた。
果たして、こんな事で思い通りにいくのだろうか…?
疑心暗鬼に囚われながらも、僕は耳栓で塞がる様に念じ続けた。
塞がれ…塞がれ…。
キュッと何か耳の感覚が変わった。山などの高い場所に登った時の耳の感じによく似ている。思わず耳抜きしそうになった。
そして、音の捉え方…だろうか?
聞こえてくる音の種類が少し減った気がしたのだ。
しかし、その感覚は一瞬であり、凄く僅かだった。
少しすると、この感覚に慣れてしまい、もはや変わったのか変わってないのかも分からなくなってしまった。
「…うーん。変わった様な変わってない様な…緑丸くん、何か喋ってみてくれる?」
ー…キィー!キィキィ!
「…緑丸くん?」
目の前を飛び跳ねているはずの緑丸くんが、酷く小さい虫に見えて、何故か姿を捉えることも難しく感じる。
…と言うか、今、僕…緑丸くんの言葉が聞こえなくなってる!?
マズイ。冷や汗がどばっと出る感覚が全身を覆う。
このままでは本当に緑丸くんが分からなくなる!
何か、本能的に危機を察知したのか僕は凄く慌てた。
困惑しながら、僕は必死に耳栓が外れる様に念じた。
外れろ…外れろ…!
「ー…~!まぬけー!嫌味野郎!てめぇなんか腹壊して苦しんじまえ!」
耳栓が外れた感覚が訪れる同時に、思いもよらなかった言葉の数々が耳に入ってきて、僕はげんなりした。
「…聞こえないのを良い事に、呪詛の言葉を吐きかけるのは止してくれないか」
「何!?てめぇ!もう聞こえる様にしやがったのか!」
「お陰様でね…」
面白くなさそうに緑丸くんは地団駄を踏んでいるのに対し、僕は脱力してしまった。
緑丸くんの言葉が本当に分からなくなってた。
その事にこれほど焦ったのと言うのに、緑丸くんは相変わらずだ。
少しは仲良くなれたと思っていたのだが、どうやらそう思っていたのは僕だけだった様だ。
ともかく、再び聞こえる様になって安堵した…。
しかし、何となく言葉を聞こえなくする感覚は分かった。
後は、これをもう少し精密に使い分ける様に出来れば、僕の悩みは解決するだろう。
時々、お袋さんと親父さんの言葉を聞こえなくして見るのも良いかもしれない。
ー…。
ちぇ。何だよ!テオの奴、あっさり、能力使い分け出来る様になりやがって!面白くねぇ!
…次に、あの目で俺様の事を見下ろしやがったら、鼻に噛み付いてやる!
クズを見る様な目で見やがって…!
俺様を何だと思ってんだ!俺様は!
……。
ふん。あんなゲス野郎と会話出来なくなったくらいで、何だってんだ!
俺様が気にする事じゃねぇやぃ!
…けど、また、聞こえなくしたら鼻にもう1個の穴開けてやる!
ききっ。覚悟しとけよ!テオ!
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