27. 第3話 7部目 教育が必要ですか…!?

子供の僕の手だと、4本分の指で幅が大体5cmくらいだろう。

この5cm分の幅で両手を使って、足のつま先から踵までの長さを測る。

5回と3本分の指の幅が親父さんの足の縦の長さで、大体28cmの様だ。

足の幅は大体12cmである事が分かり、これで鼻緒の長さも決まった。

草履本体の縄の長さは、輪っかの部分が28の倍56cmで、中心の縄分は片方20cm分なので、まぁ大体80cm分あれば良いだろう。

もう少し大目に見るなら90cmから1mと言った所。

これらを2足分用意すれば、親父さんの草履は作れる。

「はい。これと藁をありったけ用意すれば作れるよ」

…うん?よくよく考えたら、鑑定眼で見てしまえば足の大きさは直ぐに分かったのでは…?

そう思って、鑑定眼で親父さんの足を改めて見ると、あっという間に大きさが分かってしまった。

どうやら、親父さんの正確な足の大きさは27.7cmらしい。

最近の僕の鑑定眼は、正確な重さから大きさ、名前などが見える様になっている為、わざわざ指で測る必要は無かったのだ。

その事を忘れて、物差しが無い前提での測り方をしてしまった。

必要のない行動をしてしまったなぁと思っていると、親父さんとお袋さんはポカンとしているのが目に入る。

僕が意味不明な行動をした事に驚いているのだろう。

鑑定眼を使えば直ぐに分かったものを…。

「…テオ、何をしたの?」

怪訝そうにして質問するお袋さん。

居心地の悪さを感じながら、反省の言葉を口にする。

「うん、鑑定眼で見れば良かったよねぇ…」

どうにも新しい技術は身体に馴染むまでに時間がかかる。

ついつい、頭が昔のやり方を選択してしまいがちだ。

己の古臭い体質が、若い2人に嫌厭されなければ良いのだが。

「鑑定眼でも分かんのか!?」

…んん?

「え?…鑑定眼で見なかったから呆れてたんじゃないの?」

「は?何言ってんだ。今、お前が何をしたのかも分からねぇのに、呆れるも何もねぇだろ。で。お前、今、何して俺の足の大きさが分かった!?」

……。

ハッ!?予想外の反応に思考が一時停止してしまった。

しかし常々思っていたが、敢えて考えまいとしていた事が、否応なしに頭を過ぎる。


ー…この世界の教育はどうなってるんだ!?


2人共、文字の読み書きは出来る。

と言うことは最低限の教育を受けているのだろうと思っていた。

何故なら教育を全く受けていない人間は、文字の読み書きが出来ないからだ。

これ自体は何も不思議ではない。

教育を受けられる人間が僅かである時代は何処の世界の国にもある問題である。

だからこそ、文字の読み書きが出来るのは重要な能力の1つなのだ。

それだけで高級官職に就いていた人間が居る時代だってあったくらいに、文字の読み書きは重要だ。

その重要な能力を有している2人は、ある程度の教育を受けたのだろうと勝手に思っていたのだが…。

どうやら、その認識は間違いの様だ。

「~っ…と、父ちゃんと母ちゃんは文字の読み書きは出来るよね?それは何処で教わったの?」

頭を抱えながら2人に尋ねると、2人は不思議そうにしながら答えた。

「俺は昔、世話になった人に教えて貰った。文字くらい読める様になれってな」

今、その人に感謝の念を送りたい。

その人のお陰で、これからの僕の苦労が1つ減ったのだから。

「私は子供の時に先生に教わったわ」

お袋さんの答えを聞いて、僕は直ぐ様に顔を上げた。

「そ、その先生からは他に何を教わった?」

少なくとも親父さんよりは教育を施されただろう事に、僕は一縷の望みを託すが如くお袋さんにがぶりよった。

「他に?うぅん…礼儀作法とか、刺繍とか、お花の生け方とか…だったかしら?あ、後は魔法の使い方ね」

何だ?この、ご令嬢教育の羅列は…。

まさか、お袋さん…元はお嬢様だったのか?

「す、数学とかの勉強は?」

「知らないわ。だって、女性に学は要らないのでしょう?」

一縷の望みが絶たれた瞬間に僕はガックリと項垂れた。

これは、もう誤魔化しようがない。

この世界は…いや、この辺りの人たちは、碌に教育を受けないのが普通なのだろう。

文化的な違いがあるものの、まるで戦国時代以前の世界に迷い込んでしまったかの様な気分である。

…いや、そう考えれば、もはや諦めも付くと言うもの。

はなから、教育を受けていない事が分かっているなら、教えれば良いのだ。

…先ずは足し算からか…。気が遠くなりそうだ。

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