23. 第3話 3部目 通貨の計算

夕飯時。

僕は机の上に置いている、この世界の硬貨を見て思う。

前回の買い物にて、僕たちの手元に残った銑鉄は普通の鉄と玉鋼を合わせて15.5kg。

そして、お釣りとして手渡された銅貨3枚だ。

このお釣りの銅貨はどの程度の価値があるのだろうか?

「ー…ねぇ、父ちゃん。この世界のお金って…どうなってるの?」

「あ?どう?」

また唐突に何を言い出すのか…と言いたげな顔で親父さんは僕を見る。

だが目が合った瞬間、親父さんは特に何かを聞いてくるでも無く、この世界のお金の事を教えてくれた。

この世界の通貨は3種類。銅貨、銀貨、金貨、である。

あとは銅貨よりも、低い価値の金として塩が相当するが殆ど使われない。

大抵は銅貨数十枚で取引するか、少し大きい買い物をする時は銀貨を1枚、2枚出して取引するそうだ。

そして、前回の買い物で入手した物品のこの世界に置ける一般的な値段が以下の通り。


・鉄斧   銅貨55枚

・鉄ナイフ 銅貨42枚

・金槌   銅貨32枚

・植物の種 銅貨3枚

・巻き糸  銅貨1枚

・古布   銅貨1枚


それぞれ単価にあたる値段だ。

これらを踏まえて、前回の買い物で必要だった銅貨は227枚になる。

親父さんが言うには、銅貨が100枚を越えると銀貨1枚に変換されるそうなので、実際には銀貨2枚と銅貨27枚での買い物だったのだろう。

そして、これらを僕なりに円換算すると…。


・塩1g  1円

・銅貨1枚 100円

・銀貨1枚 1万円

・金貨1枚 100万円


…となる。つまり、前回の買い物を円換算すると、22.700円の買い物をしたと言う事だ。

まぁまぁ妥当なのではないかと思うのだが…。

それにしては、手元に残っている銑鉄の量が可笑しい様に思えるのだ。

そもそも、銑鉄がどれくらいの価値を持っていたかを計算すると…。


・たたら鉄塊 20kg


内役が以下の通り。


・鉄  13kg

・玉鋼 7kg


たたら場で製鉄した銑鉄の1/3は玉鋼になるため、大体これで合っている筈だ。

そして、これらを円換算にすると…。


・鉄  1kg 200円×13kg

・玉鋼 1kg 8.000円×7kg

・合計58.600円


これだけの価値があると考えて良いはずなのだ。

しかし、僕たちの手元に残った銑鉄の量は…。


・鉄  13kg=2.600円

・玉鋼 1.5kg=12.000円

・合計14.600円


である。

しかし、本来ならば僕たちの手元には35.900円分の銑鉄が残らなければ可笑しい。

半分以下の銑鉄しかないのでは、ぼったくりと考えてもおかしくない。

この考えは親父さんにも理解してもらえた。

しかし、エヴァンがこんなぼったくりをするとは思えないとも言っている。これには僕も同感だ。

何故ならエヴァンは大した儲けにもならない取引を、十数年もの間ウェルスで行なっていたのだから。

ふた月に一度、ウェルスを訪れるエヴァンは麦15kgとの引き換えに、塩5kgをウェルスに卸していた。

麦15kgは凡そ銅貨48枚。4.800円相当。

それに対し、塩5kgは銅貨50枚。5.000円相当になる。

高々、銅貨2枚、200円の違いなれど、チリも積もれば…。

この様に儲けにならない取引を、哀れみからか続けてくれていた男が、銑鉄を目にした途端、ぼったくりな値段で取引するとは思えない。

そもそも、ウェルスで製鉄された事自体に目玉が落ちるほど驚いていたのだから。

まさに青天の霹靂だっただろう。

同情していた村人から、突然銑鉄を差し出されてマトモな取引相手になろうとは、つい数ヶ月前までは考えもしていなかったはずだ。

しかも、今後も製鉄していきたいと公言したのだから、下手な取引をすればエヴァンの儲け自体がなくなり、他の商人にお株を奪われるかもしれない。

そんな危険性を考えたら、とてもじゃないが、ぼったくり価格で取引など出来ないだろう。

…と言う僕の淡々とした考えを親父さんに伝えたら、怪訝そうな顔をされた。

まるで、僕の言っていることが理解できない様だ。

ともかく、エヴァンが僕たちを謀ったのではないのなら、そもそもの前提である鉄塊の価値が、僕が思っているほど高くはなかったと言うことだ。

通常の鉄の値段が幾ら低かろうと、それほどの影響は出ないことを考えると、恐らく玉鋼の値段設定に誤りがある筈。

そこで僕は、玉鋼の値段を半分以下として考えてみた。


・鉄  13kg  2.600円

・玉鋼 7kg  28.000円

合計30.600円


・手持ち金額 30.600

・購入金額  22.700

・残高     7.900


購入後の手持ち銑鉄価値

・鉄    13kg 2.600

・玉鋼    1.5kg 6.000

・お釣りの銅貨 3枚 300

合計8.900


となる。殆ど差額がない。

こうしてみると、むしろ1.000円分多い様に思えるが、浮いている1.000円は、恐らく金槌のオマケ分だろう。

エヴァンは金槌をオマケしておくと言っていたし、十中八九間違いない。

それにしても、元値が3.200円の金槌を1.000円引きするとは…かなり思い切った値引きだ。

やはりエヴァンはぼったくり価格で取引が出来る男ではないのだ。

その事を再確認出来たことに安堵しつつ、同時に玉鋼の商品価値がどれほどの物かを思い知った。

どうやら製鉄で得られるお金は期待通りには行かないらしい。

それでも、現状では製鉄以上の金稼ぎの方法は無いが、人手が絶望的に足りないため、製鉄以外での金稼ぎの手段も作っておきたい所だ。

それも親父さんやウィルソンさんの手を煩わせない金稼ぎの手段を。

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