24. 第3話 4部目 藁を綯います
翌日。
親父さんとウィルソンさんは麦の収穫作業へと入った。
4枚ある畑を2人で麦を刈り取って回るのは、結構な重労働になるだろう。
しかも、今年はキリキリムシ達からの被害を殆ど受けていない麦であるため、収穫量も例年の倍は見込める筈。
ともなれば、収穫に伴う時間と労力も倍以上…もっとかもしれない。
何しろ、僕が考えている金稼ぎの手段を実行するためにも、麦を一箇所に纏めて貰う必要があるからだ。
「テオ。これで良いの?」
既に運び込まれている麦を見て、考え事をしている僕にお袋さんが呼びかけてきた。
刈り取ってきた麦を穂から取り外す作業をして貰っている。
いくつかの穂を手に取り、買ったボロ布2枚ほどで穂を挟み込んで茎から穂先にかけて、捩りながら麦を落とす方法だ。
「うん。大丈夫。上手く出来てるよ。…手は痛く無い?」
「チクチクするけど、平気よ」
そう言って、にこにこ笑いながらお袋さんは作業を続ける。
この穂から麦を取り外す作業、去年までは麦を地面に叩きつけて取り外していた。
力はさほど込めていないものの、叩きつける前に風圧で麦が穂から取り外れてしまい、何処かへ飛んでいってしまうなんて事もあった筈。
だからこそ、ボロ布を手に入れた今、もっと麦を残せる方法で穂から取り外している。
何本かの穂を素手で捻ると、穂先が針の様に鋭いため手のひらに刺さってしまい痛い思いする。
ゴム手袋でやるのが最も良いのだが、贅沢は言えない。
多少、痛みを軽減出来る事を良しとして、ボロ布2枚重ねた物を代用して貰っている。
穂から外れた麦が、ポロポロと落ちいく。
麦が無くなった穂は傍によけて貰い、ある程度溜まってきたところで僕も作業を始める。
これから、僕がやろうとしているのは穂を纏めて縛り、日干しにして藁にする作業だ。
エヴァンから買い取った糸で、穂を纏めていき、日当たりの良い場所に立てかけておく。
硬い茎である麦は一纏めされた状態だと自立しやすい。
これで1日放置して、早くて明日にはこの藁を縄にする作業を予定している。
お袋さんが麦を取り外す作業をして、僕が藁を作っていく。
その横で、親父さんとウィルソンさんが定期的に麦を置いていく。
ひたすらに同じ作業を繰り返しているうちに、あっという間に日が暮れていった。
そして、翌日。
藁が乾燥しているのを確認して、僕は早速作業に取り掛かる。
藁を使って縄を
そのために、親父さんに伐採して貰った木の一部を削り取って、木べらと木槌を作っておいた。
木べらで藁の細かい茎を削り取って、石塊を台にしつつ木槌で打って硬い藁を柔らかくするのだ。
その後で藁の芯を抜き取り、更に木槌で打って柔らかくし、縄を綯っていく。
藁を適量手に取り、2本に分けて交差させつつ、手のひらで押しつぶす感覚で捻る。
この作業を繰り返していく事で藁の繊維が絡まって縄となる。
「ー…すご~い。本当に縄が出来ちゃった」
僕が縄を綯っているのを傍で見ていたお袋さんが感心して呟く。
「はい。母ちゃんもやってみて?」
ない途中の縄をお袋さんに手渡す。
すると、お袋さんが楽しそうに笑った。
「えぇ。…こうかしら?」
ウキウキとした様子で縄を綯っていくお袋さん。
「うん。それで出来てると思うよ」
「本当?ふふっ、昨日と続いて楽しい作業ね~」
「それは良かった」
楽しんでくれているなら何よりだ。
こういう単純作業は向き不向きがあるし、何より根気がいる作業である。
楽しみつつ長く続いてくれると良いのだが…。
まぁ、暫くは続いてくれるだろう。
長らくウェルスでの働き手は2人とされていたが、その理由は他に出来る作業が無かったからである。
そのため、お袋さんは日中、ウェルスの年寄りたちの家に通い雑談をする係を担っていた。
これも大事な仕事ではあるが、話し相手になるだけの生活は段々と張り合いも無くなっていく。
何しろ、閉鎖的な村での話題は限られてしまうのだから。
しかし、これからは違う。
お袋さんには縄のない方を覚えてもらい、更には草履などを作れる様に綯って貰う。
更に、それらを村の年寄りたちに教えて回って貰うのだ。
そうすれば話題も僅かながらに増えるし、年寄りたちも仕事を与えられて活気付くはず。
僕がウェルスに生まれた当初は、村の中を歩き回っていた年寄りも数人居たが、現在では足を痛めて家から出られなくなってしまっている年寄りしかいない。
その原因も何となく察しは付くが現状では解決できない。もう少し先になるだろう。
だが、歩き回れる様になるまで待っていては、ウェルスの年寄りたちは死んでしまう。
肉体だけではない。心が死ぬんだ。
お袋さんが話し相手に通っているから、辛うじてこの世に繋ぎ止めて入られているだけ。
いずれはそれすらも届かなくなるだろう。
その前に手を打たなければ。
年寄りはいずれ死ぬものだ。僕自身がそれをよく理解している。
どれだけ長生きした所で死ぬときは死ぬんだ。
だが、僕の死の瞬間は家族たちや友人たちのお陰で実に幸せだった。
死ぬ事に未練も無かった。
だからこそ、僕はウェルスの年寄りたちにも死を迎える瞬間は、出来る限り幸福に満ちていて欲しいのだ。
少なくとも、今のまま死なせては駄目だ。
これらは、僕をこの世に迎え入れてくれたウェルスの年寄りたちへの恩返しでもある。
今後のウェルスの事を考えても、必ずやり遂げなければならない。
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