162.第25話 2部目 年齢の差


食堂に到着すると、先にエヴァンが来ており席を確保してくれていた。

先を越された事が不満だったのか、レオンくんは面白くなさそうな反応してエヴァンを困らせている。

その横で神代が席に着くのを見てから、僕も席に着いた。

少し離れた席にヘンリーさんと数名の護衛らしい私兵が居る。

「いらっしゃ…神代さん?」

水を運んできたリョウくんが、驚いた様子で神代の名前を呼んだ。

「あぁ。久しぶりだな」

「え、えぇ……エヴァン達と知り合いだったんですか?」

どうやら二人は面識が有るらしい。

それも真面目なリョウくんが”神代さん”と呼ぶのを許すくらいの間柄の様だ。

「この子が私の孫でな」

そう言いながら、ぎこちなく僕の頭に手を置いた。

「え。…えぇ!?テ、テオが?神代さんの!?」

神代の言葉を聞いてリョウくんは、目を開いて僕と神代を交互に見た。

我ながらに思うが、僕は神代に似ていない。

それはお袋さん自身が母親似であり、そんなお袋さんに僕が似ているからだろうと思う。

日本人のクォーターとは言え、僕は神代の女系の血が濃いらしい。

今回の件に関しては却って助かった点だ。

「リョウさんとお祖父様はどう言ったお知り合いなんですか?」

純粋な疑問を投げると、困惑しているリョウくんの代わりに神代が答える。

「ロールルは領地から首都までの通り道でな。よく利用してるんだ」

神代が答えたのを聞いて正気に戻ったのか、リョウくんも話に加わった。

「俺が来る前からロールルの宿屋は利用されてましたよね」

「あぁ。だが、お前がここに来てからは、一層ロールルは潤ってる。

やはり、美味い食い物は人を惹きつける力があるな」

そう言いながら出された水を口に含む神代。

すると、リョウくんが顔をしかめて呟く。

「美味いって言われるのは悪い気しないんですけどね…」

意味深な呟きを聞き怪訝に思っていると、神代が言葉を返す。

「何だ?まだ不満か?」

「不満に決まってるでしょう。こっちは首都で店を出したかったんですからね」

一昨日、ロールルに初めて訪れた時にリョウくんが言っていたな。

【異世界人連盟】の支援が受けられなかったから、店を出せなかったと。

その事情を神代は知っているらしい。

知っている所か何か関わっていそうな様子すら窺える。

リョウくんの不満を聞き、神代は言う。

「今以上に安価な値段で上等な料理を提供されては、利益独占に成りかねん。

首都での夢はそろそろ諦めるんだな。そうでなければ、何処ぞの貴族に召抱えられる事を考えろ」

幾度と同じ説明をした。と言いたげな口振りに、リョウくんは益々不満そうに顔をしかめる。

「貴族に抱えられるなんて冗談じゃ無いですよ。俺は立場関係なく色んな人に俺の料理を食べて貰いたいから、店を出したいってのに…」

不満を垂れ流すリョウくんを見てか、レオンくんが口を開いた。

「え、何?リョーちんが首都で店出せないのって、貴族が平民に美味いモン食わせたく無いからって事?」

身も蓋もない言い方だが、大凡の筋は合っている。

リョウくんもその言葉に同意らしく、静かに頷いた。

すると、それに対し神代が反論した。

「そうじゃない。無用に異世界の文化を広めないための処置だ。

アクマでも異世界人はこの世界にとっての部外者であり、この世界に及ぼす影響は少ない方が良いと言う考えの元での事だ」

神代の反論がカチンと来たのか、レオンくんは喧嘩腰になった。

「はー?何それ、意味分かんねー!俺達呼び出してんのはこの世界の人間じゃん!

そいつらが助けてくれって求めてんだから、異世界の文化とやらをくれてやれば良いじゃん!」

「そう単純な問題では無い。求められたからと言って、何でもかんでも与えていては世界が壊れる事だってあるんだ」

喧嘩腰で話すレオンくんに対し、神代は顔色一つ変えずにどっしりと構えたまま言葉を淡々と返していく。

それが余計にレオンくんを苛立たせる。

「そんなん俺達呼び出したこの世界の人間の責任じゃん!勝手に呼び出したからには、俺達のしたい事させるのが筋ってもんじゃねぇの!?」

「異世界人の好きな様にさせたら世界が崩壊しかねないからこそ、異世界人を管理する【異世界人連盟】があるんだ」

「崩壊ぃ!?リョーちんの料理の何処に世界を崩壊させる力があんだよ!」

「場合によっては有り得るかもしれないな」

「アァ!?」

凄むレオンくんを真っ直ぐ見て、神代は淡々と答える。

「リョウが自身の料理を食べるのに莫大な富や権力を要求したならば、それを巡って権力者同士の争いが起きる…かもしれないな」

神代の言葉を聞いたリョウくんがムッとして言う。

「…俺はそんな事、望んでません」

「今は、な。…人は変わる。良い様にも、悪い様にも」

そう答えた神代の表情から、言い知れぬ雰囲気を感じ取ったのか、リョウくんとレオンくんは揃って口を噤んだ。

自分達よりも人生経験のある男の言葉と言うのが効果覿面だったのだろう。

何とかして見返してやりたいと言いたげな顔をして考えを巡らせているレオンくんと、

何度も同じ事を聞かされて来たらしいリョウくんは諦めている様子で俯いている。

気まずい沈黙が流れる中、どうしたものかと僕は考えた。

「…確かにリョウさんの料理は人を変えちゃうかも」

神代の言葉に同意する雰囲気を醸し出した僕を見てか、レオンくんが慌てた様子で顔を上げた。

「は!?テッちゃん、何言ってん…!」

僕はレオンくんの言葉を遮って言う。

「あんなに美味しい料理、僕、初めて食べたんだ。

毎日食べられるなら、どんな事でも頑張れそうだよ」

努めて笑いながら言うと、その場の空気が柔らかくなる。

レオンくんもリョウくんも困った様に笑っている。

「あーあー。良いの?そんな事言ってさー。アメちゃんにチクるぜ?」

「それは困る。今の母ちゃんには内緒にしてて」

「えー、どうしよっかなー」

そう言いながらも、言う気で居るレオンくんの意地悪い顔を見て僕は安堵する。

いつものレオンくんに戻った様だ。

そして、リョウくんも…。

「そこまで言われちゃ作らない訳にはいかないな。…で、ご注文は?」

「僕はチーズリゾットでお願いします!」

手を上げながら勇んで注文すると、リョウくんは呆れた様に笑いながらも嬉しそうに注文を取り始めた。

この場に於いて、唯一の子供として少しは役に立てただろうか?

子供の存在は、それこそ良くも悪くも場の空気を大きく変えられる。

子供らしく演じるのは恥ずかしさも伴うが、その犠牲の甲斐があったなら良いのだが。

…しかし、今の3人の攻防を聞いていて思った事がある。

異世界の文化を無闇矢鱈に広める事を食い止めるために【異世界人連盟】は存在していると神代は公言した。

なら、何故この国には”植林”が伝わっていない?

植林が世界を崩壊に導く。と言う事こそ考えにくい。

人が自然に飲まれる事はあれど、世界を崩壊させる事があるだろうか?

むしろ今のアロウティにとっては、なくてはならない技術である筈なのに何故伝わっていないのか?

神代の様な人間が居れば、植林が未知の技術である筈が無い。

【異世界人連盟】の言い分には一定の理解を示せるが、こればかりは理解出来ない。

砂漠化が刻一刻と進んでいるアロウティを救うためには、それこそ異世界の技術があるべきなのに…ー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る