62.第7話 7部目 前進

ネッドは良い思いも出来るかもしれないが、その分責任が重く伸し掛かる。

また、それに見合う人間でいなければ、化けの皮が剥がされた時、何を言われるか分かったものではない。

それだけ危険な身代わり行為だが、テオが望むなら叶えてやる事が親であるネッドの役目だ。

「あぁ、分かった分かった。あいつと見劣りしない男になれば良いって事だろ?難しいな、この野郎」

投げやりに言うが、その顔にはもはや罪悪感は無い。

吹っ切れた様子のネッドにアメリアは嬉しそうに笑った。

「あら。ネッドは今のままで十分、素敵よ?貴方は貴方。テオはテオよ」

そう言って、アメリアはネッドの額に口づけをした。

「私の旦那様と息子は世界一、素敵よ。これまでも、これからも」

心底幸せそうに笑うアメリア。

ウェルスに住む様になってから…いや、ずっとその前から、苦しい生活を強いて来たにも関わらず、アメリアはいつでも幸せそうに笑う。

それにどれだけ救われて来たか、ネッドにも分からない。

これからもアメリアとテオを笑顔で居続けさせるためにも、ネッドは更に精進すると誓った。

しかし、その前に。

「…何で、でこなんだ」

「え?」

突然、ネッドが不満そうに言った言葉に、アメリアはきょとんとする。

言葉の意味が分からず、アメリアはネッドをじっと見つめる。

すると、ネッドは溜め息を吐いて、アメリアの首に手を回し強引に自分へ寄せた。

恋人時代の様な感覚にアメリアは困惑して目を泳がせる。

口を塞がれては、突然の事へ抗議の言葉も発せられない。

暫く、口を塞がれ続け、ようやっとネッドの顔が離れていく。

「い、いきなり、どう…んっ!?」

行動の意味を問おうとしたアメリアだったが、再び口を塞がれてしまった。

その後も何度か同じ事を繰り返し、アメリアから問う気力が無くなって来た所でネッドの攻撃は静まった。

息切れするアメリアを膝に乗せながら、ネッドは満足そうに息を吐く。

したり顔をするネッドを見て、アメリアは抗議した。

「はぁ…何だか…ネッド、攻撃的になってない?」

アメリアは悔しそうに顔を真っ赤にさせながら言った。

それに対しネッドはアメリアの髪をいじりながら、しらっと答える。

「あー…肉食い始めたからじゃねえか?」

「えぇ…。関係あるのかしら…それ…」

熱くなった顔を冷ますために、アメリアは手で扇ぐ。

照れるアメリアを見ながら、ネッドは悩みなど無くなった様にスッキリした顔で笑うのであった。




2週間後。

無事に小屋が竣工した!

ケイとヘクターが作ったノミは大活躍し、見る間に木材に穴や溝は作られていった。

そして、それらを組み上げて、壁材にひたすら作った日干しレンガを積み上げる。

接着剤として、モルタルもどきを作り日干しレンガ同士を繋げて、壁が完成した。

屋根は藁葺き。屋根の骨組みを行き交う様に、縄を巡らせ網を張った。

その上に藁の束を敷き詰めて屋根も完成。

こうして、簡易的ではあるが資材置き場兼休憩所として小屋は完成した。

ついでに、たたら場を設置する場所を決めてしまい、その場所には背の高い木組みを作り、雨を凌げる様にモルタルと混ぜた藁を敷き詰めておいた。

周りの木組みにもモルタルを塗り込み、燃えにくい様にしておく。

これで、たたら場の炉を作り、製鉄することが可能となった!

ジョンたちは小屋とたたら場の設置場所が完成した事に、声を上げて喜んだ。

「うおっしゃー!作り上げたぜー!」

と、ヘクターが咆哮の様な声を出す。

「やれば出来る」

と、静かに喜びを噛みしめるケイ。

「やったー!これで製鉄が出来るー!」

と、小屋建設が完了した事よりも、製鉄出来る事へ喜びを爆発させるジョン。

「ぅおい!お前は、最初から最後までソレか!?」

「小屋建設に喜んで」

「いやいや!喜んでるよ?これが出来たから、いよいよ製鉄出来るんだし!ねっ!ネッドさん!」

そう言って、親父さんに同意を求めるジョン。

ジョンとは見据えてる目標の違いがあることに、ケイとヘクターは呆れ顔で首を横に振った。

親父さんはと言うと…。

「あぁ。これからがキツいぞ。精々、気張れ」

「はい!」

親父さんの言葉を聞いて、ジョンは目を輝かせて嬉しそうに返事をした。

2週間前と違って、親父さんの言葉に迷いが感じられなくなった。

苦手意識を持っていたはずのジョンを弟分の様に扱っている。

慕われる事に違和感を覚えていた様だが、どうやら吹っ切れたらしい。

お袋さんが親父さんを励ましてくれたのだろうか?

ともかく、嬉しい変化を噛み締めながら、僕は皆と小屋の竣工を喜んだ。

これからは、ウェルスで定期的に製鉄が行われる事になるだろう。

大きな資金源が出来ると言う事になるのだ。

そうして稼いだ金で、ウェルスを復興させ、更に発展させていければ僕の今世における、第一目標は達成される事になる。

だが、そうなるには最低でも10年はかかるだろう。

僕が大人の年齢になるまでは、この村の存続はまだまだ危うい。

これからも気を引き締めて事に当たらなければ。

と、言う事で、今後することは大凡決まっている。

まずは鶏小屋の建設!これは設計図なしでも出来る筈。

鶏小屋が出来た暁には、セイショクノケイを養鶏するぞ!

そして、次は水車小屋の建設!これは設計図を描く予定だ。

小屋の設計図の裏面に書けば、羊皮紙も節約できる。

更に、ウェルス村全体の地図の作成!これから人が増えた場合、新たに民家を建設する必要が出てくる。

その時に地図が必要になる筈だ。

1つ1つ課題を達成していけば、このウェルスはもっと良くなる。

来年の今頃には、もっと人が増えている事を願って僕は突き進む。

ウェルス村、復興及び発展の道を!


第7話 完

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