11. 第2話 2部目 鉄、作れますが…?

帰宅して直ぐ。

「たたらば?何だそりゃ」

僕の提案を聞いて、親父さんは真っ先に怪訝とする。

「鉄を精錬するための手法の一種だよ」

”たたらば”の言葉の意味を説明すると、親父さんは目を飛び出す勢いで驚いた。

「あ!?おいおい、待て待て!お前は何を言い出すんだ!?鉄を…何だって!?」

説明を求められた僕は、親父さんを宥めつつ話し始めた。

麦の次にお金に変わる何か。その候補に僕は銑鉄を考えたのだ。

コタバを手に入れた草原の奥地に大山が見えたのが、これを考えたキッカケになる。

推測の話だが、あれだけ大きい山となれば湧き水もあれば、雨水で出来た溜池も出来て居るだろう。

そして溢れ出た水が滝となり、山肌を降りていき川となる。

願わくば、その川が村付近に有れば良いのだが…。

未だ、その手の川を見つけていないのは、現在は水の魔法で飲み水を補給しているため、必要性がないからだ。

僕としては、その川から水を汲み、木炭で濾過したものを飲みたい。

魔法のお陰で水分に困る事はないが、僕としては自然の水を飲みたいと思っている。

更に言えば、その川付近からは粘土が採取できるだろうし、

その粘土を繋ぎ目として石を組み上げて簡易的な炉を作る事が出来る。

炉を組み上げたら、大山付近から鉄鉱石を掘り出すなり、

川で砂鉄を集めるなりして、火に焚べて精錬し銑鉄を作る腹づもりだ。

あるものを入手出来たなら、鉄鉱石より砂鉄を精錬する方が良いので先ずはそれを見つけたいものだ。

時間も手間もかかる作業ではあるが、上手くいけば麦以外の取引物を手に入れる事が出来る。

ちなみに、タバコを取引物に加えようと言う話が出たが…。

取引物として商人に売りつけられるほど、質の良い物が出来るとは思えず、早々に諦めたのだ。

これで一番ガッカリして居たのは親父さん。

お金をかけずにタバコを吸えるかもしれない期待を持って居たのだが、

結局の所コタバの葉は灰になるまで燃やし尽くして肥料にしてしまった。

当分のコタバの葉の扱いは、殺虫剤か肥料としての役割となるだろう。

その上で、銑鉄の取引物としての価値を考えると、悪く無いのだ。

手間と時間を気にせずに精錬すれば先ず手に入るし、

クズ鉄だろうと、麦での取引よりは遥かにマシな物と取引できる筈。

勿論、これらは全て推測に他ならないので、それを確かめるためにも

もう一度コタバの草原方面へ行き、その奥地の大山に向かわなければならない。

大山から滝が流れ出て居る箇所を見つけ、そこから川が出来て居るか確認し、川を辿りながら村に向かって帰る。

その際に、あるものを入手出来れば砂鉄を集める事も容易になる筈。

しかし、それらの前に用意するものが有る。

「ー…たたら場で精錬する場合、木炭が必要なんだ。

長時間、焚べる必要があるから木炭は作るべきだよ」

「木炭か…だが、斧が無ぇからなぁ…」

そう言って親父さんは顔をしかめる。

斧が無ければ木を切り倒す事は難しいのは最もだ。

未知の力である魔法を使う手立てもあるのだろうが、

何故か親父さんもお袋さんも使おうとはしない。

何か考えがあるのかもしれない。

僕が使える能力と言えば鑑定眼と言語理解の2つしか無いし、

魔法を扱う様になる方法が思いつかないのでは、どうしようもない。

ならば、今ある知識を元に動く他ないのだ。

少なくとも、木炭の件は解決の目処がある。

「斧が無くても、石さえあれば木炭は作れるから大丈夫だよ」

「ん?何でだ?」

斧が無ければ木は伐採出来ない。延いては木炭も作れない。

だが、それは思い込みに過ぎないのだ。

伐採出来ないならしなければ良い。

いや、そもそも伐採する必要はないのだ。

「森の中で寿命を迎えた倒木を見つければ良いんだよ。そう言った木は必ずある。

倒木を見つけて、木炭にするだけの木材を石でかち割れば、手に入れる事が出来るよ。

それに、却って生木を伐採して木炭にするより楽だと思う」

「聞けば聞くほど信じられん話だな…。伐採するよりも楽に木炭を作れるだと?」

「うん。ここ最近は雨も降ってないし、明日にでも森の中に入って倒木を探そう?

今の内なら、乾燥した木材が簡単に手に入ると思うから」

寿命の尽きた木は水分を失い脆くなり、何かのキッカケで倒木する。

それは地震であったり、雷であったり、強風であったりするだろう。

そう言った理由で倒れた木が、今回の狙い目なのだ。

枯れ木となった倒木ならば、鋭い刃物でなくとも分解する事は可能だ。

勿論、そう簡単ではないが、石などの硬い物を用いれば難しくもない。

「そうか…。既に乾燥してる木なら、即日木炭にすることも可能って事か?」

納得した様に頷きながら話す親父さんに僕も同調した。

「うん。だから、生木を伐採するより楽って言うのは、そう意味だよ。

生木だと伐採した後に、整形して数日置く必要があるからね」

「なるほどな…。なぁ、テオ…1つ聞きたいんだが…」

順調に話が進む中、親父さんの顔の表情が急に暗くなった。

「なに?」

「そもそも、木炭ってのはどう作るんだ…?」

「…え?」

んん?

ここまでの話し方でてっきり木炭の作り方は知ってるのだと思っていたけど…。

まさか、知らないのか!?

「え、えっと…父ちゃんはこれまでに木炭を作った事は…」

「無い。作られる所を見た事もない」

はっきりきっぱりと言われた答えに、僕は思わず脱力してしまった。

一体全体、この世界の知識基準はどうなっているんだ…!?

「そ、そっか…えーーーっと、ね…。

難しい原理を説明するのは僕も出来ないから、方法だけ教えるね?」

「あぁ、頼む」

こうして僕は親父さんに木炭の作り方を説明し始めた。

まず、一番簡単な木炭を作るのに必要な材料は3つほど。

木炭に変わる木材、燃える原料となる藁、空気を遮断するための籾殻、である。

これら全ては、今の環境でも問題なく手に入れる事が出来る。

まず木材は、明日倒木を見つけ出して手に入れる。

倒木が全くない事はまず無いから、心配はしていない。

藁は麦藁を使用し、籾殻も麦のを使用する。

これらは大量に村の食料庫に袋詰めされて保管されて居る。

いつか絶対使えると思って、取って置かせた甲斐があったものだ。

あとは、木炭を作る準備を整える。

まず、麦藁を地面に敷き詰め、その上に木材を置き、更にその上に大量の籾殻を被せるのだ。

そして、麦藁に着火し木材を燃やす。この場合は弱火が好ましい。

空気に触れない状態であれば、木材は灰になる事なく炭へと変化するのだ。

暫く焼いた後、1日ばかり放置すれば木炭が完成する。

以上の説明を親父さんは真剣な表情で聞き入ってくれ、木炭作りに意欲を出してくれた様だ。

「よし、分かった。なら、まずは明日倒木を見つける事からだな?」

「うん!」

こうして僕たちは、製鉄のための第一歩。

木炭作り計画を発動したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る