10. 第2話 1部目 次の一手
キリキリムシの緑丸くんと和平契約を結んでからと言うもの、
ウェルス村の麦畑は平和そのものであった。
この調子で行けば、今年の収穫は例年よりも多くなるだろう。
コタバの葉を燃やして灰にしたものを肥料として畑に撒いた事で、
麦の生育も良くなって来て居る様だ。
これで、1つ問題が解決したと言えるだろう。
そして次の問題解決のために動こうとして、僕はキリキリムシたちの麦畑の前で思案し始めた。
「てめぇ、なにを考え込んでんだ?」
僕の頭の上から緑丸くんの怪訝そうな声が降りてくる。
「うーん…どう考えても、足りない」
「はぁ?何がだよ」
やはり、どうあってもぶつかってしまう壁がある。
それは…ウェルス村の財政難。
現在ウェルス村では、ふた月に一度、徒歩2時間の距離に位置する町から商人がやってくるため、その商人と麦で取引を交わして何とか命を繋いでいる。
麦と塩を交換し、人間には絶対必要な成分を塩で補給して居るわけだが…。
「麦食ってりゃ十分だろ。てめぇら人間は色々と求めすぎなんだよっ」
そう言って、緑丸くんは僕の頭を足で踏んづけてくる。
「あははっ。僕たち人間は緑丸くんたちと違って、栄養素を自分で作る器官が無いからね。
その分、食べる種類を増やして補わなくちゃいけないんだ」
「人間って図体だけはデカイくせして、大したことねぇな!」
フンッと鼻を鳴らして、文字通り僕を見下す緑丸くん。
小さい体で横柄な態度を取られても、可愛いの一言に尽きてしまう。
しかし、それを本虫に伝えては、また齧り付かれてしまいそうなので
そっと胸の中に留めておく。
それはそうと…。
やはり、どうしても僕たち人間は肉によるタンパク質や野菜によるビタミンなどを摂取する必要がある。
これがなくてはマトモな体も作られないからだ。
かく言う僕も、肉を食べる機会に恵まれないために、殆ど骨と皮の様な体型をして居る。
親父さんも旅を続けて居た時と比べると、筋肉が落ちてきて居るそうな…。
しかし、財政難を抱えるウェルス村では、商人から塩以外のものを買う事は出来ない。
塩以外のものを買うとなれば、それだけ麦が減るうえ商人も良い顔はしないだろう。
端的に言えば、麦とは別のお金に変わるものを用意出来なければ、ウェルス村はこれ以上には潤わないと言う事だ。
ウェルス村は一度滅びかけて居たこともあり、残って居る道具の殆どが手入れが必要不可欠であり、
その手入れをするための道具を手にいれる手段がなく、
商人から買おうにも麦では対価が足りないのだ。
故に、どうにかしてお金に変わる何かを手に入れなければならない。
「ー…うん。やっぱり、この方法しかウェルスを発展させる方法は無いと思う」
「何だ。もう解決策は見つけてんじゃねぇか」
緑丸くんは僕の発言を聞いて、少しつまらなさそうにして牙をカチカチ鳴らす。
「上手くいくか分からないから、他に方法が無いか考えてたんだ。
けど、どう考えても今の僕たちに出来る方法は限られているし、
その中でも出来るこの方法に着手するよ」
「で?何するんだよ?」
「その前に、親父さんとお袋さんに相談だ!」
そう言って、僕は立ち上がって緑丸くんと一緒に帰路を辿っていった。
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