148.第22話 6部目 口撃

僕の注意に気が付いたのか、レオンくんは苦笑しながら話を切り替えた。

「ぁー…ま、いいや。コーシャクさまの使いが、ウチの村まで来てさー。

この真打ち見て、すげー盛り上がってたんだよね。でも、買わずに帰っちゃったからさー。

もしかして、コーシャクさまに直接持って行ったら、買ってくれっかなー?と思って、持って来たんだよ。

でも、コーシャクさまの家とか分かんねぇから、ここに来たって訳」

レオンくんの長々とした説明を聞き、店主は更に顔を顰める。

「…何が言いたい?」

「あんたからコーシャクさまに連絡取ってよ」

実に軽々しいお願いの仕方に、エヴァンは気が気じゃ無い様子で縮こまっている。

僕も危うく頭を抱えそうになったが、レオンくんに頼んだ時点で大体こうなるだろう事は予測していた。

エヴァンに頼む事も考えたが、気の小さいエヴァンでは店主の勢いに飲まれてしまう。

レオンくんならば店主を怒らせる事はあっても、勢いに飲まれる事は無いだろうと判断したのだ。

しかし、思った通り店主はレオンくんに怒り心頭のご様子だ。

「…侯爵様にお前の様な無礼な男を取り次ぐ訳にはいかん!帰れ!二度と来るな!!」

店主の激しい怒声に店内にある商品がカタカタと震えた。

衝撃波が出るほどの怒声を浴び、エヴァンは今すぐにでも店から出て行きそうだ。

だが、レオンくんは恐れる所か、その言葉を待ってました。と言わんばかりに意地悪く笑った。

「へぇー?マジで言ってんの?」

「…何?」

青筋立てて怒る店主に対し、レオンくんは飄々と続ける。

「あんたが勝手に俺達を返して良い訳ー?

後から知ったコーシャクさまが、今のあんた見たいに怒り狂うんじゃね?」

「…礼儀も知らぬ男から物を買うなど侯爵様が望まれる筈がない!」

「んなの、あんたん中のコーシャクさまが。だろ?

実物のコーシャクさまは俺が無礼だろうと何だろうと、

日本刀を買わせてくれんなら買ってやる!って器の大きい男かも知んないじゃん」

レオンくんの言葉を聞き、店主は顔を真っ赤にして更に怒りを募らせていく。

「…お前…侯爵様が器の小さいお方だと言ったか!?」

「あんたん中のコーシャクさまは、そうかもね」

「…ふざけるな!!侯爵様は決して器の小さいお方では…!!」

「器が大きいってんなら、俺が幾ら無礼でも許してくれんだから会わせてよ」

店主の中で葛藤が生まれる。

レオンくんを侯爵に会わせたくない。

しかし、会わせなかったら、それはそれで後々に問題が生じそう。

そもそも、日本刀を探し求めていたのは侯爵自身であり、その手伝いをしていたであろう店主がその機会を無くす事は裏切り行為に当たる。

そう考えているのであろう店主をレオンくんは更に追い詰める。

レオンくんはゆっくりと打刀・真打ちを抜刀し、刃紋を店主に見せつけながら言う。

「別に良いんだぜ?”あんたが”俺達をコーシャクさまに会わせたくないってんなら、それでもさー。

コーシャクさまが買わないってんなら、他の金持ちに買って貰うだけだし?」

「…っ。最低でも金貨2枚の代物を易々と買う者が、そうそう居る訳が…!」

負け惜しみの様に反論する店主に対し、レオンくんは更に畳み掛ける。

「あー、まぁ、確かに?でもさ、コーシャクさまと同じ貴族でー、

コーシャクさまを毛嫌いしてる貴族とかだったら、買い取ってくれっかもよ?

…コーシャクさまに倍の値段で売り付けるために、とかさ」

「…な…っ!」

最早、嫌がらせとも取れる様な言葉の数々に店主は酷く狼狽した。

万が一、レオンくんの言う様な事態にでもなったら、店主は侯爵からの信頼を失うのだから当然の反応だ。

貴族の世界ともなれば序列は色濃く出るだろうし、敵対関係も当然あるだろう。

…少なくともカムロ侯爵家を嫌厭している貴族に心当たりはある。

お袋さん…アメリア・ミラーのかつての婚約者だった”マイク”なる人物の家系だ。

婚家になるはずだった家同士にも関わらず、令嬢が婚約発表前に逃亡したとなれば、嫌厭していたとしても可笑しくない。

不本意ではあるが、そう言った手が有る事を店主に提示し逃げ道を着実に塞いでいく。

どうなる事かと思ったが、レオンくんは作戦通りに話を運んでくれた。

店主が快く侯爵に目通りの手配をしてくれたなら、それまでだったが、

まず簡単には行かないだろうと踏んだ僕は、脅しとも取れるやり方をレオンくんに指示した。

…まぁ、態々店主を怒らせる必要は無かったのだが…。

結果的に逃げ道をより多く塞ぎ、選択肢を1つに絞らせる事が出来ただろうか?

怖いのは、却って意固地になられる事だが…。

果たして…。

「…っく。…分かった。俺から侯爵様に話を通す」

その一言を聞き、僕達はそれぞれに心の中で作戦成功を喜んだ。

「…但し。会う事を決めるのは侯爵様だ。侯爵様が会わないと返事をして来た時は…」

「あー、はいはい。分かってるって。そん時はそん時っしょ」

そう言いながらレオンくんは抜刀していた打刀を鞘に納め、布袋に仕舞う。

始終生意気な態度を貫き通したレオンくんに、店主は下唇を噛んで悔しそうしている。

…恐らく、侯爵が僕達に会わないと言う選択は取らないと思っているのだろう。

だからこそ、最初から連絡を取る事を拒んでいたのだ。

店主にとっては会わせても会わせなくても、少なからず侯爵からの信頼を失うと思っているらしい。

出来れば、そうならない様になって欲しいが…。

交渉人がレオンくんである事と、僕と言う爆弾がある以上、難しいかもしれない。

…ともかく、これで侯爵に僕達が来た事が伝わる。

問題はここからだ。

日本刀をエヴァンの荷馬車に戻した後、僕とレオンくんはエヴァンと分かれた。

エヴァンには【オー・イクォーズ】付近で行商しながら待って貰う事にし、僕達は首都観光。

…と言う建前だ。

「ー…行くぜ。テッちゃん」

「うん。…上手い事、親父さんの居場所が分かれば良いけど…」

小声でそう話しながら、【オー・イクォーズ】の店の裏口から出て行く店主の後を追う。

…返事をただ待っている訳には行かない。

万が一、侯爵が会うのを拒んだ場合の行動を起こす為にも、僕達は侯爵の居場所を知る必要がある。

その過程で親父さんが収容されている場所を特定し、本人に会って事実を確かめなければ…。

僕達は気付かれない様に観光を装いながら店主の後を追って行く。

親父さんを連れ戻すために…ー。




第22話 完

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