132.第19話 6部目 新たな可能性

いつの間にか隣から騒ぎ声が聞こえなくなった頃、お袋さんが湯から出て湯船の縁の腰掛ける。

「ねぇ、テオ。お願いがあるの」

「ん?お願い?」

何だろう?

石鹸が欲しいとか…だろうか?

作れるだろうとは思うし、作った方が病気予防には良いけど…。

不思議に思いながらお袋さんの”お願い”の内容を待って居ると、とんでもない事を告げられた。

「えぇ。テオの…鑑定眼で私をみて欲しいの」

「…え!?か、鑑定眼で!?い、いや、僕、人を鑑定眼で見るのは…!」

僕は、人をまともに鑑定した事がない。

乳飲み子の時に鑑定眼を制御出来ず、常に情報が見える状態だった時でさえ

碌な情報は見えていなかったし、お袋さんを見ても、名前程度しか分からなかったのだ。

だが、今は違う。

地中にある温泉源を見つけてしまう程の鑑定力を身に付けてしまった今、お袋さんのどんな情報を読み取ってしまうか分からない…!

それこそ、2人が隠したい事まで見えてしまうかもしれない…。

しかし、お袋さんの顔にはそんな憂いも迷いもなく、ただただ僕の目を信じている様だ。

「お願いよ、テオ。あなたに…みて、欲しいの」

「で、でも母ちゃ…」

嫌だ。と言いたかった僕は、お袋さんの不自然な手配りを見て、ハッとした。

まさか…!?

もう一度、お袋さんの顔をじっと見ると、お袋さんは優しく微笑み返す。

それを見て、僕は決心する。

「…分かった」

「お願いね」

僕は、慎重に。これまでに無いほど慎重に、お袋さんのお腹を鑑定した。

お袋さんのお腹を見ながら、僕はこれまでのお袋さんの様子の変化を思い返していた。

仕切りに眠そうにしていたり、疲れやすくなっていたり…。

卵の有精卵と無精卵の見極めについて、急に気にしたり…。

つまりは。

「母ちゃん…」

「どうだった?」

つまりは、そう言う事なのだ。

「…いつから…いつから気付いていたの?」

「うーんと…丁度、テオとレオンくんが温泉を探し出した頃から…かしら?」

僕が予想した時期と丸かぶりして居る。

と言う事は、その時点で2ヶ月目に入っていた可能性が高い訳で…!

「と、父ちゃんには…?」

「まだよ。テオが忙しくなくなったら、診て貰おうと思ってたの」

ケロっとそう言われて、僕はガクッと肩を落とした。

「ど、どうして直ぐに…!」

「だって…気のせいだったら…ガッカリさせるでしょう?」

困った様に笑いながら言うお袋さんを見て、急いで湯船から出た。

「あんまり長湯するべきじゃ無いし、父ちゃんにも早く知らせなきゃ!

母ちゃん!もう出よう!」

「あらあら」

僕はお袋さんの手をしっかり握って、足元に気を付けながら風呂から出た。

早く親父さんに知らせなければ…!

身支度を整えて銭湯を出ると、オマケで作ってあった木製の長椅子に親父さんが参った様子で横たわって居る。

その側で氷を作り出し頬張るレオンくんの姿を見て、ハタと気が付く。

流石にレオンくんが居る場で知らせるのは酷だな…。

「お、アメちゃん!テッちゃん!どうだったよ、温泉はー」

「うふふ。とっても気持ち良かったわ。レオンくん。頑張ってくれて、ありがとう」

宣言通り、レオンくんにもお礼を言うお袋さんを見て、レオンくんは噛み締める様にして言った。

「…っくー!風呂上りプラス髪上げモードのアメちゃんの笑顔!サイコー!!」

「まぁまぁ。本当に凄く喜んでくれたみたい」

「う、うん…」

こんなに喜んでいるレオンくんを即座に地獄へ叩き落とすのは、やはり憚られるな…。

僕は長椅子に横たわる親父さんにそっと近付いた。

「…父ちゃん。大丈夫?」

「あ?あー…テオか……長湯し過ぎた。こいつの所為で…!」

そう言って、力無い腕を持ち上げてレオンくんを指差した。

「何だよー。長湯対決しよーって言ったら、ノリノリでノッたの村長サンじゃーん!

しかも、俺が氷あげるって言ってるのに、全ッ然食わねぇの!」

「誰がお前の施しなんか…!」

そう言いながらも、親父さんの気力や体力は底を尽きかけている様子。

これは、完全に逆上せているな。

「あらまぁ…ネッドったら、また無茶して…」

親父さんの様子を見たお袋さんは、そっと氷を作り出して親父さんの口に押し当てた。

「はい。私の氷なら食べられるでしょう?」

すると、親父さんは渋々と言った様子でお袋さんの氷を口に含んだ。

これは、お袋さんの氷が嫌なのではなく、今の様子を天敵であるレオンくんに見られるのが嫌なんだろうなぁ。

そしてお袋さんは手を冷やした状態で、親父さんの額に手を当てがった。

熱を出していた僕に、レオンくんがやった方法である。

「……髪」

「え?」

「………上げたのか」

「…。えぇ。あなたのくれたリボンよ。どうかしら?」

「…………」

「うふふっ…」

完全に2人の世界である。

レオンくんがやってられねーと言いたげに、顔を顰めているのを見て、僕は益々家に帰ってから話したくなった。


ー…お袋さんが、双子を妊娠している事を…ー





ー…同時期。

神国アロウティ、首都アルベロにて。

国家騎士団御用達の武器屋【オー・イクォーズ】の店主である、

ウッディ・レッドメインは久々に目通りが叶った侯爵に、金貨2枚で入手した打刀を差し出した。

「ー…こちらがお知らせした武器でございます。今度こそ、侯爵の条件に見合うかと…!」

「…」

侯爵はウッディから打刀を受け取り、鮮やかな手付きで鞘から刀身を抜いた。

じっと刀身を眺め、検分を施す侯爵。

固唾を飲んで見守るウッディ。

侯爵は部下に用意させておいた、試し斬り用の巻藁を目の前に姿勢を正した。

一度刀身を鞘へと納め、左腰に打刀を差し、右手で柄をしっかりと握る。

そして、目に止まらぬ速さで抜刀し、侯爵は1回、2回、3回と巻藁を切り伏せた!

試し斬りを終えた侯爵は、刀身をもう一度じっくり検分する。

暫く、刀身を眺めた後、侯爵は静かに刀身を鞘へと納めた。

一挙一挙が、ため息の出る様な美しい身のこなしにウッディは毎度の事ながら感心する。

いや、この方に対して”感心”などと言う感情を持ち合わせるとは、不遜極まりない。

流石、と言うべきだ。

侯爵は打刀を部下の1人に預け、ウッディに向き直り言った。

「…誰だ?」

「…職人の名前はパーカー・スミス。売りに来たのは、グレイスフォレストの行商人です」

「そうか…」

短い言葉から察してウッディは正確に侯爵の欲しい情報を告げた。

すると、侯爵は部下へと向かい言い放つ。

「聞いたな?…探せ。必ず見つけ出し、私の前へ連れて来い」

「…はい!」

侯爵からの命を受け、打刀を持った部下だけが残り、他はその場を後にして行く。

侯爵の命を聞いたウッディは目を輝かせた。

ようやっと…!ようやっと侯爵の望む、日本刀が見つかったんだ…!

もう直ぐに侯爵の望みが叶う…!




ー…幻の武器「日本刀」を探し求める、謎の侯爵。

復興を果たし、着実に未来を描き始めたウェルス村。

遂に、2つの存在が交差する時が迫っている…ー




第19話 完



第1章 ウェルス村・復興編 完

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