63.第8話 2部目 傍若無人

その人物は突然やって来た。

…以前来た時のように。

「いやぁ。予定より遅れての到着になってしまった!すみませんなぁ!」

「…そうなのか?」

「そうですとも!予定より3日も遅れてしまった!それもこれも、ウチのバカ息子どもが…」

朝早くからミラー家の玄関の扉を乱暴に叩き鳴らしたのはパーカーであった。

迎えた親父さんは早速げんなりしている。

パーカーの愚痴が始まる前にひとまず家の中へ招く。

エヴァンも一緒である。

「ー…とまぁ、後は面倒になったんでね。ぜーんぶ、放っぽり出して来ましたわ!」

「そうかよ…」

散々、上の息子2人の愚痴を聞かされた挙句、パーカーは豪快に口を開けて笑い飛ばした。

もうこの時点で親父さんは疲労困憊である。

ジョンで多少慣れて来たものの、やはりパーカー自身と対峙すると疲れるようだ。

「ところで!玉鋼!あれは出来ましたかな!?ジョンたちは上手くやっとりますか!?何なら、俺から一発ガツンと…」

次から次へと話が変わっていく中、末息子に親方節を効かせようとする素振りを見て、親父さんは慌てて割り込んだ。

「ジョンたちは良く働いてくれてる!心配すんな!あと、玉鋼はまだだ!」

「何ッ!?玉鋼はまだですと!?ジョンめ…あいつ、一体何して…!」

製鉄をさせようと送り込んだジョンたちが、まだ玉鋼を作っていないと聞きパーカーは椅子から立ち上がって、玄関へ向かおうとしている。

今すぐにジョンの首根っこを捕まえて怒鳴りつけるつもりのようだ。

僕は急いでパーカーの前に立ちふさがる。

「ジョンさんたちは、鶏小屋を作ったり、水車小屋作ったりしてくれてたんだ!それに、麦の種蒔きだって手伝ってくれたし…製鉄してないのは、村のために冬支度してたからなんだ!だから怒らないで!」

僕の必死の説得を聞き、パーカーは途端に静かになった。

さっきまで騒がしかったのに、今になって大人しくなった様子を見ると却って心配になる。

気に触る事を言ってしまっただろうか?

すると、パーカーは僕の頭に手を伸ばした。

「おお!そうかそうか!そういえば冬支度があるとか…そんな事言ってたなぁ!そうでしたなっ!?ネッドさん!」

「あ?あ、あぁ…」

またも豪快に笑いながらパーカーは僕の頭を撫で繰り回してくる。

目が回りそうだ。

親父さんは、僕が殴られるものと思って立ち上がったらしいが、拍子抜けした様で息を吐くような返事をして、また椅子に座った。

どうもこの人、考え事になると途端に黙る様だ。

そして自己完結すると、また騒ぎ出す…。

これは慣れている人でないと、この人の相手をするのは大変だろうなぁ。

その後、親父さんはジョンたちの働きっぷりをパーカーに報告した。

事実、ジョンたちは本当に良く働いてくれて、冬支度も早くに終わったのだ。

何せ今年は各家の修繕しつつ、小さい暖炉が設置出来たのだから。

日干しレンガで組み上げた炉で焼きレンガを作り、家の壁に穴を開けて暖炉と排気口を取り付けたのである。

このお陰で今年の冬はどの家も暖かく過ごせている。

急な事だったとはいえ、ジョンたちは快く引き受けてくれて、本格的に冬になる前に暖炉が設置出来た。

その上、鶏小屋と水車小屋まで建ててしまったのだから、途轍もない勢いでウェルス村の復興が進んでいると言っても過言ではない。

こんなにもウェルス村に貢献してくれている彼らを、暴君の怒りに晒すのは余りにも理不尽だ。

だが、パーカーも分からず屋ではない。

ジョンたちの活躍を話すと、また豪快に笑って喜んでいた。

その上、後で褒めてやる!とも言い出す。

しかし、パーカーの褒め方を想像すると、やはり手加減して貰った方が良いのではないだろうかと思った僕たちは、一応程々にする様に忠告しておいた。

後は受け取るジョンたちに任せる事にしよう。

大方、ジョンたちが来てからの2ヶ月間に起きた事を報告し終えると、それまで空気と化していたエヴァンが控えめに手を挙げた。

「…そろそろ、わたしからも良いですかね?」

「おお!そうだそうだ!エヴァン、何してる!ほら!早く持ってこい!」

バシバシとエヴァンの背中を叩くパーカー。

「パーカーさんの独壇場だったのに、あんまりじゃないですかっ」

「良いから!早く持ってこいってんだ!」

抗議らしい抗議をしたものの、パーカーはまるで聞き入れず、何やらエヴァンを急かす。

今度は一体何事だ?

急かされたエヴァンは不満をぶつくさ言いながら、外にある荷馬車へと向かっていく。

その間にパーカーが、こちらから聞く前に説明し始めた。

「実はですね!お土産がありまして!ジョンたちには持たせて送り出したんですが良ぉく考えたら、

こちらには無いんじゃないかと思い立ちましてね!?移住する身としては手土産持って行きたいってんで、

こりゃあ丁度良いと思いまして、エヴァンに持って来させたんですわ!」

パーカーはまるで、落語でも話してるかの様に次々と言葉を繋げていく。

良くもまぁ息と言葉が続くもんだなと僕は感心するが、親父さんは辟易した様子で聞き流している。

しかし、それだけ矢継ぎ早に話されても、お土産。という単語は分かったものの、中身がまるで伝わって来ない。

ジョンたちに持たせて、ここには無いもの…となると、一体何になるか?

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