123.第18話 3部目 キリキリムシの生態


僕の考えを伝えると緑丸くんは考え込んでから口を開いた。

「…俺様の前の長が麦食い始めるって言い出したのと同じか」

「え?」

緑丸くんの前の長?

「前の長は年寄り達に言われて、樹液じゃなく別の物を食い始めた方が良いって命令したんだよ。俺様が生まれるより前だったな」

「えっ。キ、キリキリムシ達は樹液を食べてたの!?」

地球で言うカミキリムシに似ているのに、食べるものは麦だから似て非なる虫かと思っていたら、キリキリムシ達も元々は樹液を主食にしてたとは…!

「俺様は麦しか食べた事ねぇけどな!俺様の群れに居る年寄りの中には、樹液を食べてた奴も、まだ居るぜ」

「ど、どうして麦を食べ始めたの?」

「知らね」

キリキリムシの元々の生態を知れると思いきや、あっさりと知らないと答えられ僕はガックリと項垂れた。

緑丸くんは続けて言った。

「でも、お前の判断もそう言う事だろ?別の選択があれば群れは生き残れる。

前の長が麦を食い始めるって命令した時も、嫌がる奴らは居たし、群れから離れてった奴も居る。

でも俺様達は麦を食って生き残ってる。お前は盗賊連中が今の俺様達みたいになる事を企んでるって事だろ!」

緑丸くんの見解を聞き、僕は目を見張る。

自分達の事情と、僕達人間の事情を置き換えて考える事が出来るなんて、相当に高等な知力を持っていなければ出来ない事だ。

まるで人間の様に。

緑丸くんはキリキリムシ達の中でも本当に特別な個体なのだなぁ。

…そうなったのも、麦だけを食べ始めた事が理由なのかもしれない。

「僕達と緑丸くん達が共生出来ているのも、そういう選択をしたからだしね」

「…ふんっ」

それも緑丸くんの理解力が高かったおかげだ。

…しかし、不思議だ。

緑丸くんの前の長だったキリキリムシは、何故麦を次の主食に選んだのだろうか?

野生の麦はあるかもしれないが、主食にするほど豊富に見つかるだろうか?

主食に選択出来るほど麦が豊富に実っている場所を見つけなければ…。

「そうか…見つけたからこそ麦を主食に決めたんだ」

「あ?」

緑丸くんが生まれるより前から、キリキリムシ達は麦を主食にし始めた。

それは、僕達ミラー一家がウェルス村に来るより前の事。

丁度、ウェルス村が虫害に悩まされ始めた頃と時期が重なっているのだ!

それより以前のウェルス村は人手不足に悩む事がなく、毎年多くの麦を栽培していた事だろう。

その様子をキリキリムシ達が見ていたからこそ、主食に足り得ると緑丸くんより前の長と、年寄りキリキリムシ達は判断したのだ。

次の世代が生き延びていくために。

…だが、そこまで切羽詰まった選択を選ぶと言う事は、よほどの事情があったはず…。

「…あぁ、何てこった…。この国の事情がキリキリムシ達の生態にまで影響を及ぼしたって事なのか…!」

「さっきから何言ってやがんだ!テオてめぇこの!」

現在、母国アロウティは樹木不足に頭を悩ませている。

土地は砂漠化していき、徐々に樹木を育む環境が失われつつある。

この現状を解決するために、国は次から次へと異世界人を呼び込み、事態の解決を望んでいるのだ。

そして、その樹木激減が原因でキリキリムシ達は主食を変える選択をした!

樹液を主食としていたキリキリムシ達は、樹木の減少に伴い主食を変えなければ種として生き残れないと判断したのだ。

でなければ、近い将来キリキリムシは樹木と共に全滅せざるを得ない。

そして、恐らく、樹木と共に種を繋いでいる動物全般に言える事だ。

人間だけの問題ではないと言う事が如実に分かり、僕は戦慄する。

やはり、植林技術はどうあっても国中に広げなければ…!

そう決意した瞬間、無視され続けた事に怒った緑丸くんに鼻を噛まれた。

「痛い痛い痛い!」

「無視してんじゃねぇぞ!俺様をコケにするのもいい加減にしろ!」

「そんなつもりは…。緑丸くん達の話を聞いて植林の重要さを再確認してただけだよ…」

「あぁ?…そういや俺様が寝る前に妙な事言ってたな」

去年の秋口にギスの種を集めてた時の事を言っているのだろう。

そういえば、あの時の緑丸くんも植林が何なのか分かっていない様子だったな。

まさか、この世界の人達にも植林が伝わらなかったとは思わなかったが…。

僕は緑丸くんに植林について説明した。

そして、緑丸くん達が麦を食べ始める様になったキッカケも樹木の減少によるものだろうとも話す。

すると、緑丸くんは威嚇顔になって飛び跳ねながら言った。

「それじゃあ、俺様達キリキリムシが麦食わなきゃならなくなったのも、てめぇら人間の所為かよ!

ふざけんな!俺様達が麦食い荒らしてた事、人間のてめぇらが責められる事じゃねぇじゃねぇか!!」

…ご尤も。ぐうの根も出ないとは正にこの事だ。

自然の恵みを頂いておきながら、自然には何も返さないなど道理が通らない。

そして、それは自らの首をも締める行為だ。

だからこそ、これからでも植林を始めなければならないのだ。

「人間も自然の一部なのにねぇ…。せめて、僕の世代から樹木を増やす事を目標に掲げるから、許してくれないか?」

「ふんっ。人間の言うことなんざ信じられっか!」

「…それもそうだね」

本当に植林が上手く実を結ぶかも分からない現状では、信じられないのも無理はないな。

正直、砂漠化した地域に再び樹木を生やす事が出来るかは自信がない。

地球でも砂漠に緑を取り戻す事には苦心していたと言うのに…。

「砂漠地帯には灌漑かんがい工事を敷かないと無理だろうしなぁ…」

「また訳の分かんねぇ事…」

「カンガイ?何それ、深いとかってそういう意味?」

「いや、それは感慨深いじゃないかと…」

…ん?緑丸くん以外にもう1つ声が…?

「お、それそれ!で?カンガイ工事って何よ。チビ」

僕は沸沸と嫌な予感を覚えながら、恐る恐る声がした方へ振り返った。

そこには…。

あくどい顔で笑うレオンくんが居た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る