122.第18話 2部目 寝起きの友(虫)


盗賊達を村に引き入れて3日が経過した。

あちこちでちょっとした言い合いはあるものの、大きな衝突もなく実に平和な日々が流れている。

…まぁ、親父さんはレオンくんと一緒に行動している事に嫌気がさしている様だけど…。

レオンくんと一緒に行動する事を決めたのは親父さんだ。

最も信用ならない相手だからこそ、側に置いておく事を決めたのだろう。

しかし、双方共に良い結果を得られそうにないのだが…大丈夫だろうか?

そう思いながら、僕は地面に掌くらいの大きさである手製の木札を差し込む。

木札にはそれぞれに数字が彫ってあり、その溝に墨を流し込んで乾かしてある。

これを地面に差しておく事で、何処に種を植えたのか分かる様にしておくのだ。

今、僕は植林作業を行なっている。

去年の秋口に集めておいたギスの種を一箇所に1粒ずつ植えて回っている。

予め休眠状態から覚醒させる作業は終わらせているため、粋の良い種を選びながらぽんぽん植えていく。

とりあえず、50箇所に植えて様子を見たい。

10箇所目を終えてから、僕は一息つくためにその場に腰を下ろした。

「ふー…1人で50箇所は中々に辛いけど…今後を見据えると、それでも足りないだろうなぁ…」

年々木々が失われていく国で、年50本ずつ植えて行った所で焼け石に水だ。

しかも、成長に時間がかかる樹木では、無くなっていく速度の方が圧倒的に速い。

こればかりはどうしようもないが、何とか木の成長を早められないかと思う程には焦っている。

あるいは、樹木を伐採する期間を10年ほど無くすとか…。

…なんて、無理だろうなぁ。

「何だこれ!?テオ!てめぇ!ちょっと見ねぇ間に更に変になりやがったな!?」

「元々、変だったみたいな言い方は心外…」

聞き覚えのある声と口の悪さに僕はハッとする。

きょろきょろと辺りを見回すと、顔面に衝撃が走った!

「あたっ」

「てめぇは元々変だろうが!俺様が寝てた所に変なモン建てやがって!その所為で少し起きんのが遅くなっちまったじゃねぇか!余計な事しやがって!」

そう言いながら、何度も何度も僕の顔に向かって執拗に激突してくる。

この懐かしさすら覚えるやり取りが出来る相手は、1人…いや1匹しかいない!

「み、緑丸くん!ちょ、痛い痛い!ごめんって!謝るから!」

「地面に埋まって謝れ!」

「それは、正に土下座って事?」

「はぁー!?また訳の分かんねぇ事言いやがって!」

「うわぁ!」

その後、僕は暫くの間緑丸くんからの攻撃を受け続けた。

顔の所々がひりひりするぐらいには痛手を負った辺りで、緑丸くんの攻撃が止まった。

「ー…ったくよぉ!何なんだよ!俺様の寝てた場所に建ってたアレは!」

「あ、あぁ…アレは、緑丸くんの寝場所が分かる様にしておこうかなぁって思って建てておいたんだけど…」

緑丸くんが冬眠に入った直後。

僕は緑丸くんが眠った場所を囲う様にして木の棒を地面に突き刺し、その上に木の板を置いた。

寝場所がわかる様にと、緑丸くんが安らかに眠れる様にと思っての事である。

「余計な事すんじゃねぇ!俺様はてめぇと話せる様になる前までは、普通にそこらに潜って寝てたんだ!あんなもん無くたって寝れんだよ!

むしろ、アレの所為で寝過ごしたじゃねぇか!どうしてくれんだ!」

「…それって、寝心地が良すぎたって事?」

「んな訳ねぇだろ!春になったんだか、まだ冬なんだか分かんなかったんだっつーの!」

「そっかぁ…それは悪い事をしたねぇ。申し訳ない」

そう言って僕は深々と頭を下げた。すると、緑丸くんは鼻を鳴らして言う。

「ふんっ。分かりゃ良いんだよ!分かりゃ!」

どうやら一先ず、許してくれた様だ。

…それにしても、久々の友との再会が説教になるとは。

いや、秋の段階である程度は予測していたが、ここまで怒り心頭になるとは思わなかった。

今年の冬眠時期には気を付けねば。

「他の皆も、もう起きてるの?」

「おうよ。俺様の群れは殆ど起きてたぜ!新入りも居たしな!」

誇らしげに言う緑丸くんを見て、僕は和んだ。

「そっかぁ。後で畑に行って見ようかな」

「そういや、俺様達の畑に見慣れねぇのが居たぞ!?あいつら何だ!?」

「あぁ。彼らは…」

それから僕は、緑丸くんに冬の間に起きた出来事を話した。

緑丸くんは時々茶々を入れてきたものの、概ね興味深そうに聞いてくれた。

一番驚いていたのは、やはり人が増えた事に対してだった。

そして一番呆れられたのは、盗賊を村に引き入れる決断をした事だ。

「やっぱりお前は変だ!敵を縄張りに入れるなんて普通考えねぇだろ!」

うーむ。やはり縄張り意識がしっかりしている動物からすれば、僕の提案は受け入れがたいんだなぁ。

緑丸くんはこの辺り一帯のキリキリムシの長である事もあり、敵との接触は抵抗があるのだろう。

無理もない。群れの命が掛かる問題なのだから。

「反対した人間と、お前の親父の反応が普通だろ!頭おかしいんじゃねぇのか!?やっぱりおかしいんだな!」

「随分な言われ様だなぁ…」

自己完結までされて非難された事に僕は苦笑する。

しかし。

「…でもねぇ。この世界の人たちの在り方から考えて、彼らは盗む事以外での生き方を知らないんじゃないかなぁと思うんだよ」

「それがどうした!当たり前のことだろ!だから、敵は縄張りは入れないんだよ!」

「うん。緑丸くんの意見も尤もだね。でも、盗む事以外での生き方を知ったら、また違うと思うんだよ」

「はぁ?」

この世界の人達は基本的に一子相伝で生き方そのものを教えられていく。

故に、盗賊などの悪党も一子相伝で悪事を教えられ、それで生きて行く事を選ぶ。

それ以外の生き方を親も子供も知らないからだ。

だが、それ以外にも生きていく術はあると教えれば、態々盗む事で生計を立てようとするだろうか?

盗みだけで生計を立てるのは無理がある。

盗みが上手くいく保証がなければ、盗賊団全員の食い扶持を稼げるとは限らない。

だが、ウェルス村で仕事を与え、食事と住居を分け、人との繋がりを持てば、考え方が変わるかもしれない。

盗まずとも、ウェルス村で真面目に働けば生きていく事が出来る、と。

そう考えられる様に、受け入れた側である僕達は、元盗賊である彼らを遠巻きにしてはいけない。

彼らを再び悪道に放り込まないために。

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