124.第18話 4部目 転生者と転移者の対面


レオンくんと目が合った瞬間、僕の脳裏を横切ったのは逃げの一手だった。

僕は現実から目を逸らす様に、そおっと顔を背けたが…時はすでに遅かった。

「おーいー。その虫とは楽しそうに話す癖に俺は無視かー?…あ、これ、オヤジギャグじゃねぇからな」

そう言いつつも、レオンくんは楽しそうに笑う。

…これは困った事になった。緑丸くんと話している所を見られていたとは。

いや?僕の独り言だと言えば、まだ事態の挽回が…。

「何だお前!変な毛の色しやがって!俺様をそこらの虫と一緒にすんじゃねぇ!」

「そもそも人間の言葉喋れる時点で普通じゃねぇから安心しとけって!」

「俺様は人間なんかの言葉なんて喋らねぇ!」

「マジ?じゃあ、俺らが虫の言葉分かるって事?ヤベーじゃん!なぁ?チビ」

「おい!テオ!何なんだコイツ!!」

緑丸くんがレオンくんと目を合わせて会話したのを聞いて、僕は逃げ道を塞がれ、頭を抱えた。

あああぁ…。緑丸くんに、僕が転生者である事を隠していると説明しそびれてしまった所為か…!

いや、そもそも、緑丸くんとの再会を喜ぶ余り、注意散漫になっていた事が原因だ!

ここはミラー宅の裏庭であり、すぐ近くには川側の作業場に続く道もある。

その道は誰しもが通る可能性があり、レオンくんでなくとも誰かしらに聞かれてた可能性があるのだ。

住人が増えた事を考慮しつつ、ミラー宅へ戻り屋内で会話するべきだったのだ…!

何たる失態!何と無様な失敗を…!

「おいテオ!!」

失態に嘆く僕に緑丸くんが喝を入れる様に顔に向かって激突してきた…!

「あたっ!」

「何、頭抱えてんだよ!」

「……。いや、やらかしてしまったなぁと思ってね…」

「はぁ!?どう言う意味だ!」

僕の言葉の意味を理解出来ないからか、緑丸くんは苛立っている。

すると、レオンくんが口を挟んできた。

「なぁ。チビって俺と同じで転移者なんじゃねぇの?しかも、日本人だろ!?」

「転移者ぁ!?お前見たいな変な毛の色した奴がか!やっぱり、異世界人ってのは碌なもんがいねぇな!」

「髪色の事は言うなってー。俺だって染め直してぇって、ずっと思ってんだからさぁ」

…不味い。このままでは、緑丸くんとレオンくんの言い合いが始まってしまう。

堂々巡りしている内に、他の村人が来ないとも限らない。

僕は一息吐いた後、すくっと立ち上がり言った。

「…とりあえず、僕の家に行こうか。緑丸くんも来てくれる?色々、話しておかなきゃならないからね」

「何だ、チビ。お前、結構喋れんじゃん。全然喋らねぇから根暗なのかと思ってたぜ?」

実に楽しそうにあくどく笑うレオンくんに言われ、僕は言う。

「下手に喋るとボロが出そうで怖かったからねぇ。ともかく、僕の家においで。…全部話すから」

一方的にそう言って、僕は家に向かって歩き出す。

緑丸くんは僕が歩き出すと同時に僕の頭に飛び乗る。

レオンくんは少し驚いた風だったが、直ぐに僕の後を付いてきた。

帰宅すると、お袋さんが土間で昼食の用意をしてくれていた。

「ただいま、母ちゃん」

「あら、テオ?随分、早かった……あらあら、レオンくん!いらっしゃい」

「ちーっす!アメちゃん!」

レオンくんの姿を見ると同時に、お袋さんは穏やかに迎えた。

迎えられたレオンくんは嬉しそうに返事をする。

この様子を見るに僕や親父さんが知らない内に、2人は随分と友人として親しくなったんだなぁ。

おっと。いつもの調子で観察している場合ではない。

「母ちゃん…」

「あら、なぁに?」

僕はお袋さんの側まで行き、言い辛い事を言わねばならない状況に口籠もっていると、お袋さんが優しく笑って僕の顔を覗き込んでくる。

「…レオンくんに、秘密がバレちゃったよ」

「……あらあら、まぁまぁ…」

僕のこの一言だけで伝わったらしく、お袋さんは驚いた様子で目を見張った。

そして、レオンくんに僕の事を話すと説明してから、僕はレオンくんに席に着く様に促した。

「ー…で?結局、テッちゃんは転移者なわけ?」

…僕の呼び方はともかく、席につくなり早速本題に入ってきたレオンくんに僕は苦笑して返した。

「ううん。僕は転移ではなく転生。一度死んで、前世の記憶を持ったまま、この世界に生まれ落ちた存在だよ」

「…マジ?」

心底驚いた様子でレオンくんは僕を見つめる。

そこから、僕は転生者としてミラー家に生まれたものの、移住組やエヴァンと言った”外の人間”には、転生者である事を伏せていると説明した。

すると、レオンくんは意外そうな反応を示した。

「ー…何で、んなメンドクセー事してんの?転生者だって言えば、好き勝手出来るじゃん?

俺がヴァル達に襲われた時、転移者だっつってしたらカシラになってくれーって言われたってのにさ?

この世界じゃ簡単にトップになれんのに、何で態々村長サンの陰に隠れてんの?」

ふむ。これが、この世界に転移してきた異世界人の普通の感覚なのだろうか?

だとしても、僕はレオンくんの言う様な考えにはどうしてもなれない。

「だからこそ、僕は転生者である事を隠してきたんだよ」

「は?」

目を丸くするレオンくんには僕は誰にも語って来なかった考えを告げた。

「この世界の人々は必要以上に異世界人に頼りすぎる傾向がある。

レオンくんが経験した様に転移者だと言うだけで恐れ慄かれ、祭り上げられる。

僕はそれが怖い。異世界人に任せておけば、何もかも上手く行くと言う考え、そのものがね。

それはつまり、僕が居なくなれば簡単にウェルス村は滅びるって事だよ。

僕の生まれ故郷をそんな目には遭わせたくない。

…だから、親父さんを村長として育てて、ウェルス村の存在を確固たるものにしたいんだ。

僕がこの村を去った後でも、ね」

長々と語った後、レオンくんの様子を伺うとレオンくんは小難しい顔をしながら思案している。

そして、納得いかない様な顔をして僕を見た。

「…つまり、テッちゃんはその内、村を出て行くから村長はやりたくねぇって事?」

「……」

僕は無言で返す。

直ぐ後ろで僕達の会話を聞いているお袋さんに明確な意思を伝えない為に。

だが、無言で答えようが明確に答えようが、察せられるだろう。

レオンくんが言った結論は極論ではあるものの、僕の意思を完璧に汲み取っている。

僕はいずれウェルス村を出て、国を見て回るつもりだ。

僕はもっとこの世界のあらゆる事を知りたい。

そのためにはウェルス村に居るだけでは駄目なのだ。

恐らく僕はこの世界にある学校に通う事も出来ないだろう。

親父さんやお袋さんの話を聞く限り、平民の子である僕には学校に通う権利が与えられていない。

だとするならば、余計に世界を知る為に旅に出たいのだ。

だが、僕はウェルス村を離れた途端に村が無くなってしまうのは嫌だ。

僕は、僕の帰ってくる所を残して置いて欲しい。

その役目は親父さんやお袋さんに託したい。

あるいはジョンさん達の世代か、僕と同じ世代に。

…極論を言ってしまえば、全ては僕が安心して旅に出たいが為の我が儘なのだ。

「ふーん…。まぁ、テッちゃんの言いたい事も分かるぜ?

俺もさー、こっちに来て、まだ一ヶ月しか経ってねぇって時に盗賊のカシラにされたんだぜ?」

「…え!?い、一ヶ月!?」

余りに短い期間で盗賊のカシラに成り上がった事を聞き、僕は耳を疑った。

だが、レオンくんは平然と話を続ける。

「そーそー。何だっけ?アー…アロビロ?だっけ?でっけー城に呼び出されてさー」

「えぇっと…首都アルベロの事かな?」

「そーそー!アルベロ!そこの城に呼び出されてー、王様?に国を救ってくれーとか言われてー…」

僕が興味を示した事にレオンくんは嬉しそうにしながら、これまでの経緯を語り始めた。

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