7. 第1話 7部目 ミラー夫妻の悩み事

テオが眠りについた、ミラー宅にて。

眠りについた我が子の寝顔見て、アメリアは幸せを噛み締めながら微笑み、扉を閉めた。

居間に戻ると、物思いに耽るネッドが居りアメリアは心配そうに声をかける。

「どうしたの?ネッド。あなたも疲れたの?」

「あ?これくらいどうって事ねぇよ」

4時間の遠征くらいでへばる様な男だと思われるのは不本意だとばかりに、

ネッドはアメリアを睨みつけて言葉を返す。

しかし、アメリアはまるで怯まない。

既にネッドの目つきの悪さには慣れている様だ。

「そう?……なら、どうしてそんな顔をしているの?」

再びアメリアが問うと、ネッドは目線を落として複雑そうな顔をする。

「…テオの事を…考えてた」

「テオの事を…?。…どんな風に?」

優しく、ネッドの心意を聞くアメリア。

ネッドはまたも不本意そうにしながら、考えを口にし始めた。

「…やっぱり、あいつは”転生者”なんだなと思うと…複雑なんだよ。

あいつには前世の記憶がある。

それはつまり、前世のあいつの親父の記憶も持ってるって事だろ?

親父だけじゃねぇ。お袋だってそうだ。

村の連中は、あいつが転生者である事を喜んでるけどよ…。

俺たちからすりゃ、あいつはただの子供だ。俺たちの子供だ。

けど…あいつから前世の記憶が垣間見えるたんびに…気になっちまってしょうがねぇ。

あいつが前の親と、俺たちを…」

苦悩しながら言葉に詰まるネッドの代わりに、アメリアが言葉を繋げる。

「…比べるんじゃないかって?」

「……まぁ、な」

不安に思う事自体が嫌だとばかりにネッドは吐き捨てるように肯定した。

それに対し、アメリアは優しく応える。

「私も、そう思う事はあるわ。

でも、あの子は私たちの子供であろうとしてくれてる。

私たちを信頼してくれてる。前世がどうであれ、今は私たちの子だもの。

あの子がこの世界で大人になるまで、目一杯子供扱いしてあげれば良いの。

今のあの子の親は私たちなんだから」

にっこりと微笑むアメリアを見て、ネッドは深いため息を吐く。

「あぁ、そうだな。今のあいつの親は俺たちだ。気負う必要はないな」

そう言って、ネッドはにやりと笑う。

テオの前世の親に文句は言わせないとばかりに。

「ふふ、そうよ」

2人で我が子を思いながら、笑い合う時間はとても優しい。

笑いあっていると、アメリアがフと呟く。

「ただ、周りが大人ばかりだから、余計にあの子を大人びさせている気がするけれど…」

テオが子供でいる理由が、この村には少ない。

何しろ、同年代の子供と遊ぶ事が出来ないのだから。

いくら前世の記憶を持っていても、やはり同年代の友は必要だろうとアメリアは考えている。

アメリアの意図を汲み取ったネッドは頷いた。

「あぁ、確かに。妹分か弟分でも作るか」

なんて事ない風に言われた言葉を聞き、アメリアは目を点にして驚いて固まってしまった。

顔を真っ赤にさせてアメリアは何とか言葉を返す。

「…そ、それは…同年代とは言えないと思うけれど…?」

「ん?そうか?子供の話し相手がいるだけ、違うんじゃないか?」

「そ、そうかしら…?」

全く意識していないネッドの言葉に、アメリアはどんどん肩身を狭くさせて困った様に笑う。

そんなアメリアを見てネッドはフと我に帰り、遅れて自分の言葉の破壊力に自滅するのであった。

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