8. 第1話 8部目 殺虫剤出来ましたが…!?

数日後。

草原に自生していたコタバの葉を茹でた汁を、

親父さんが管理している畑の1つに振りて、数日が経過した。

この村にはスプレー機やシャワーと言った類の道具が無いので、

適当にコップに掬って畑に撒くことにした。

茹で汁にはコチニンと言う成分が溶け出しており、大凡予想通りの代物となった。

これは、鑑定眼で茹で汁を鑑定した結果である。

どうやら鑑定眼を何度も使っていたおかげで、名称と簡易説明以外の部分も見える様になって来たらしい。

アナグラム的に名前を変えた、ニコチンが茹で汁に溶け出ているのなら

殺虫剤の役割を果たす筈だ。

そして、今日。その効き目を確認する。

殺虫剤を振りかけた畑と、何もしなかった畑の害虫被害を見比べるのだ。

すると、劇的な変化が得られた。

「全然、虫がついてねぇ…」

「うん!歯型もないね!」

信じられないものを見る様に麦を見つめる親父さん。

殺虫剤を振りかけた畑の害虫被害は、無しと言っても過言ではなかった。

対して、何もしなかった畑は結構な範囲を食い荒らされていた。

これは予想以上だが、僕は殺虫剤の効果を得られた事を確認出来て大満足だ。

もしかしたら、この世界の虫は殺虫剤などへの耐性がまだ低いのかもしれない。

だから、コタバの茹で汁程度の殺虫剤でも効果を成したのだろう。

あまり多用すると、殺虫剤が聞き辛い個体が将来的に生まれ始めるだろうが…。

それまでに、更に強力かつ人体には安全な殺虫剤を作り出せる事を目標としておこう。

あとは臭いをもう少し抑えられれば尚良い。

効果を強めるよりも、そちらを優先するべきかもしれない。

やはり、どうしてもコタバの独特な臭いが茹で汁からするし、

その茹で汁をかけた麦からも臭いはしてくるのだ。

別の活用方法を考えるのも良いかもしれないな。

「…よし、他の畑にも撒くぞ」

麦を見ていた親父さんが立ち上がって言った。

「効果は確認出来たけど…臭いとか大丈夫かな?」

「あ?別に大丈夫だろ」

親父さんは元喫煙者だから、コタバの匂いもそんなに気にならないのかな?

タバコから離れて久しい筈だけど…鼻って結構ニオイを記憶してるものなのだろうか?

そんな事を考えつつ、僕はコタバの茹で汁の入れ物を持って親父さんの後ろを付いて歩いていく。

すると、唐突に僕の顔に向かってくる虫の姿が一瞬見えて、激突した。

「〜っ」

あまりに突然の事に驚いたのと、思いの他痛かった事に僕は声も出さずに痛がって顔を抑える。

入れ物を地面に置き、虫が顔にぶつかった違和感を拭おうと摩っていると、近くで声が響いた。

「やい、てめぇか!畑に毒、撒き散らしたのは!これ以上はさせねぇぞ!!」

「うん?」

僕の周りには誰もいないのに、妙に近い所から声がして僕は辺りを見渡す。

親父さん?いや、そんな筈はない。

毒だの、これ以上はさせないだのと言う筈がないのだから。

と、なると。一体全体、誰が僕に話しかけて来ているんだ?

「おい!人間ごときが俺様を無視してんじゃねぇぞ!」

「……うんん??」

眼前でぴょこぴょこと跳ねるキリキリムシが1匹。

そのキリキリムシは、何故か怒っている様に見えた。

まさか、声の主は…このキリキリムシなのか!?

「えっと…さっきから僕に話しかけているのは…君?」

「他に誰がいるってんだ!惚けた事、言ってんじゃねぇぞ!」

親父さん並に口の悪いキリキリムシ。

いや、そもそも…どうして虫であるキリキリムシが言葉を発しているんだ?

以前、話しかけた時は無視されたのに…。

虫だけに。

「おい…。今、くだらねぇ事、思い浮かべたんじゃねぇだろうな!?」

不思議な事に目の前のキリキリムシの顔の血管が、怒りマークで浮き出ている様に見えてくる。

「えっ、君、人の考えてることも読めるの?」

「この…!なめ腐りやがって!!」

そう言って、キリキリムシは突如、僕の鼻に噛み付いて来た!

「痛ッ!痛い痛い!ちょ、ちょっと、や、止めて…っ!」

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