171.第26話 6部目 2つの能力


発端は去年の夏場にレオンくんがアイスを食べたいと言い出した時である。

牛乳でアイスを作ろうと、砂糖なしで卵と混ぜ合わせて作って、レオンくんに食べさせた所、甘く無いと不評だったため、

砂糖を入手する手段を僕とレオンくんで講じ始めたのだ。

結果、地中の中から甜菜を見つけ出そう。と言う話になり…まぁ、見つけたのである。

その道中でじゃがいも…ガジャイモを見つけたのは副成果だ。

ガジャイモも根菜畑の中の一部で、コンダイ、サトウコンダイに続いて栽培されている。

まぁ、品種改良のされていない野生種のガジャイモだから、味はそれほど美味しく無い。

サトウコンダイもガジャイモも、ミラー一家とレオンくんとで味見をしたのだが、サトウコンダイはともかく、ガジャイモは評判は良くなかった。

それでも、非常食としては優秀なため栽培を続けている。

と言う様な事を神代に説明すると、今度は別の理由から目を見開いて僕を見て言った。

「テオ…どうやって、じゃがいもと甜菜を見つけたと言った…?」

「地中を鑑定眼で見て回って、見つけ出しました」

自身の目を指差しながら答えると、神代は頭を抱えてしまった。

…どうやら、不味い事を言った様だな。

「ええと…頭を抱えられている理由をお聞きしても?」

「…異世界人…いや、転移者以外で2つもの能力を持っている事も問題だが…」

「…だが?」

言い淀む様子を見せる神代に、僕は神代の言葉をオウム返しして聞いた。

すると、神代は周りに目を配った後で、何やら片手で印を描く様な動きをしてから、顔を上げた。

「…中隊長の鑑定眼は、最早鑑定眼の域を超えています」

上等兵としての口調で答えられ、僕は怪訝な顔をして無言で神代を見た。

「ご心配なく。今、我々の会話が聞けるものは居りません。

外からの干渉を阻害する魔法を、我々の周りに掛けましたので」

そう言われ、僕は鑑定眼で周囲の様子を視た。

すると、薄ぼんやりとした結界の様な物が、僕達の周りに張られている事が分かった。

この結界が神代の言う魔法の正体なのだろう。

「…なるほど。確かに、その様だね」

「俺が施した魔法の正体も視えるのですか?」

警戒するかの様な表情を見せる神代に、僕は答える。

「視えると言っても、薄ぼんやりとしか見えないよ。どう言う仕組みでそうなってるかまでは見えない」

「…そうですか」

僕の答えを聞いて一先ず安堵した様子で、神代は先程の言葉の続きを言った。

「鑑定眼とはそもそも物体の情報を可視化する能力であり、地中の状態を鑑定出来る様な大層な能力ではありません」

「うん。だろうね…」

それは薄々僕も勘づいていた。もはや、人並外れた目になってしまっている事は自他共に認める。

神代の能力の説明を聞いてからも、僕の鑑定眼は成長しすぎてしまった結果なのだろうと思ったのだ。

「いつから、鑑定眼を使われ始めましたか?」

「赤子の時からだね。その時は見えない様にする事も出来なくて、苦労してたよ」

お袋さんや親父さんの名前が一々表示されていて、大変だった事を覚えている。

ただ、幸いなのはその頃の僕に見えていたのは名前だけで、二人の詳細な情報までは見えて居なかった。

徐々に見える情報が増えて行った辺りから、特に二人を鑑定眼で見る事は止めようと思って居たのだ。

そう思って居ても、結局、アインとスミレを身籠ったお袋さんを見てしまったけど。

僕の答えを聞き、神代は考えを巡らせてから口を開く。

「と言う事は先天的な能力…。中隊長は最初から2つの能力を所持していた事になりますが…」

「うん。それで間違い無いよ」

神代の考えを肯定すると、神代は目頭を抑えながら吐き出す様に言う。

「…中隊長。率直に言うと、それは異常です」

「異常と来たか」

散々、緑丸くんやレオンくんに変だ変だと言われて来たけど、神代に異常と断言されるとはなぁ。

よっぽど僕は異端児なのだろう。

僕が動揺しない様子を見てか、神代は溜め息を吐いてから能力について更に説明してくれた。

「能力とは、基本的に後天的に得られる物であり、複数所持しているのは基本は異世界人しか居ないとされて居ます」

言語理解能力と言語伝達能力の2つの事だな。

「中隊長も転生者ですから、異世界人と言えば異世界人ですが…生まれがイモンディルアナなら、普通の赤ん坊と同様で、通常は能力を持たずに生まれると思われます。

しかし、我々転移者と同様に、能力を得やすい特権を与えられていると考えれば、

後天的に2つの能力を得て居たとしても可笑しくは無いのですが…」

「僕は最初から、2つの能力を持っているね」

「はい。それが異常なんです」

何も二度も言わんでも…。

密かにショックを受けている僕を他所に、神代は言う。

「転生者は神子…つまり、女神ティアナの遣い、あるいは申し子と言われて居ますから、

もしかしたら中隊長は女神ティアナの加護を多く受け取ったのかも…」

ふむ。神社の家系に生まれた神代に言われると不思議と説得性が増す気がするな。

しかし、女神ティアナから加護を多く受けていると言われても、やはりピンと来ない。

「うーん…女神ティアナに気に入って頂く様な事をした覚えはないのだがなぁ…」

そもそも、僕の能力が先天的と言う事なら、生まれる前…いや、前世の行いまでもを見られて居た可能性があるな。

別世界に住んでいた僕の行いの何処に惹かれる物が合ったのか。

「何を言いますか!女神ティアナと言えど、中隊長の素晴らしさを目にすれば、加護を多めに与えたいと思っても不思議では…!」

「つくづく思うけど、神代の中の僕は、まるで神にも等しいかの様だねぇ」

神代が目を輝かせながら言う言葉を遮って言うと、きょとんとした表情で見られた。

僕の言う言葉の意味が分からないかの様な反応だ。

…いや、あるいは当然だと思っている可能性すらある。

うーん。世界を渡った結果、故郷恋しさから僕に対する評価がヤケに向上している様に見受けられるなぁ…。

「…ともかく。僕が”異常”である事は理解したよ。下手に能力を他で話さない様に気を付ける事にするよ」

異常と言う単語をわざと強調させながら言うと、神代は罰が悪そうに目を逸らした。

僕が気にしている事を察したらしい。

「…話が大分逸れてしまったけど、ウェルス村の砂糖事情はサトウコンダイを栽培する事で解決しようと思ってる。

市場に売りに出せれば、良い金稼ぎになると思うしね」

僕が話を戻すと、神代は即座に反応した。

「是非とも栽培を続けて頂きたい!現在のアロウティの砂糖は輸入品で占められていますから、アロウティ国内で栽培が可能となれば、

その分の輸入品が減らせますし、平民達にも普及しやすくなる。

砂糖も貴族だけの物と言う時代は、いい加減に終わらせなければ」

日本での生活を思い出してか、砂糖を入手出来ない平民に神代は親近感を覚えているらしい。

そして、普及したいとも思っている。

ここで、国を揺るがす様な問題だから見過ごせないと言われなくて良かった。

…尤も、国を巻き込む問題は他にあると僕は思っている事があるのだが…。

その問題に対する疑問を解消すべく、僕は場所を移動する事を提案する。

「それじゃあ、次は一旦ミラー宅の方に戻ろう。見せたい物があるんだ」

「?。分かりました」

本当は、いの一番で見せたかったのだが、砂糖の入手元を説明すると言う目的があって出て来たのに、無理に裏庭へ案内する事も出来なかった。

まぁ、その前に緑丸くんが来たのだが。

暫く歩いて、ミラー宅まで戻って来た所で僕は裏庭に神代を通す。

一見、何もない様に見える裏庭だが…。

「…ここでは、ギスの木を植林をしている」

「!」

反応を見るために説明すると、神代は砂糖の時ほどでは無いにしても、驚いてみせた。

ただ、砂糖の時と違って深刻さを身に纏っている。

少しの沈黙が流れた後、神代が口を開く。

「中隊長、これは…」

「どうして、この国では植林の技術が伝わっていない?」

…が、神代が言い切る前に僕が遮って疑問をぶつけた。

パーカーや親父さんから聞いてからと言う物、ずっと疑問だった。

何故、数々の異世界人が転移して来ていながら、アロウティ神国に最も必要な植林技術が伝わっていないのか?

その疑問を、今日、ここで、晴らす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る