183.第28話 3部目 アロウティの暦


翌日。

神代と親父さんは朝方になって、早速ウェルス村へ出発して行った。

蜻蛉返りになってしまう神代には申し訳ないが、僕は首都の神代邸に残る事になった。

執事であるフレディさんから、要件があれば近くの使用人に声をかける様に言われながら、神代邸内にある図書室へ向かった。

図書室に一人残った僕は、来たる家庭教師を待ちながら、自習する事にしたのだ。

尤も、昨晩の内に図書室の使用許可を貰った時に、家庭教師の到着は少し遅れると言われたのだが。

それよりも、夕食がハリーさんと二人だけになる事を異様に心配されたのが引っ掛かった。

ハリーさんの子供…僕にとっての従兄弟は二人居るが、片方は成人して幹部候補生として駐屯地の宿舎で生活しており、もう片方が学生で学園の寮に居る為、この邸には居ない。

名前はロイとメイで、長男と長女の構成。二人の歳はそれほど離れていないらしい。

ロイの方は本人が家に帰ってくるか、僕が駐屯地に用があって会うかくらいしか、挨拶する手段がないが、

メイの方は今年で最高学年になり、まだ学園にいる事から学園に無事入学出来れば会えそうな事は分かった。

…しかし、いくら従兄弟同士でも仲良く出来る保証は何処にも無い。

むしろ、ハリーさんの様子から察するに、煙たがれる未来が見えるのだ。

だが、それは最早気にしていても仕方がない。

僕の出身は変えられるものでもないし、それに対し引け目を感じている訳でもない。

僕自身を認めて貰えないのなら、過度な期待は無駄というものだ。

そうは言っても、認めて貰える材料は提示しなければならない。

その為にも今から予習しておこうという腹づもりで図書室にいるのだ。

学園の授業内容は学園に入らないと把握しきれないらしいが、それとなく授業に引っかかりそうな内容の本を手当たり次第に読んでいく。

久々に羅列する文字をひたすらに読み下す。

神代邸に保管されて居る本の量にも驚くが、その内容も驚くばかりだ。

まず、僕が真っ先に調べたのは現在の年月日だ。

それらが分かるだろう歴史が記録されて居る本を読んでいくと、現在の暦は【ティアナ神歴1390年】。

暦の長さから、歴史の浅さが読み取れて僕は驚愕した。

と同時に、これだけの短さでは今の発展具合が限界なのだろうと理解する。

とはいえ、異世界人の介入があってこれなのだから、遅いとも言えるが。

魔法と言う未知の技術があるにも関わらず、それを積極的に使用して生活や軍備を強化出来ている様には見えないのだ。

良い所、竈門に火をつけたり、水を出したり、火を大きくする為に風を送り込んだり、ちょっとした穴を掘ったり…と言った具合である。

それらを発展させて行くだけでも、相当な技術革新になるはずなのだがなぁ。

ともあれ、僕の生まれた年がティアナ神歴1382年である事が分かった。

後は誕生日だが…流石にこれは自力で特定するのは難しい。

よって、僕は誕生日を特定する事は諦めて、月日名だけ調べた。

まず、この世界での1年は12月分で、一月が統一して30日で、1週間がある7日間のようだ。

歴史書などから見るに、閏年や閏月などは無いらしい。

太陽や月と同等の存在があると言う事は、この世界は地球と同じく惑星系なのだろう。

しかし、その周期にズレはないと今の所思われているらしい。

それとも、知る術がないから閏年が無いだけだろうか?

だとしても、歴史書を読んでいると、春夏秋冬のズレは無い様に見える。

そして、肝心の月日名だが、月名の方が…。


 1月…シムキ

 2月…フラキ

 3月…ミヤキ

 4月…ウアロキ

 5月…サンヨキ

 6月…マミナキ

 7月…フロキ

 8月…タズキ

 9月…ガナキ

10月…カシナキ

11月…シアキ

12月…ミカワキ


となっており、曜日名が…。


日曜…スタティ

月曜…ルアナティ

火曜…ヒューティ

水曜…マウティ

木曜…アロティ

金曜…フィルティ

土曜…リプティ


となっていた。

更に30日分の名前を…と思いながら調べていたのだが、

歴史書を見ていてフと目に入った文章を見て、僕は深い溜息を吐いた。

「ー…「使用されていない事が殆ど」…か…」

口に出して一文読んで苦々しい思いが込み上げる。

どうやら、異世界人がそれぞれのお国言葉で月日を表している為か、

一番通用しやすい月日が使われているらしい。

その殆どが英語や日本語で表されている。

故に、30日分の日名も数字で表されており、それは1や2などと言った、地球人にとっては当たり前の表現だった。

思えば、エヴァンとのやり取りをする時も、僕の鑑定眼に写る情報にも、馴染み深い数字が使われていた。

と言うより、ここまで調べて思ったのは年月日を重要視するのは、貴族や皇族と言った官職に着く人物のみで、平民達には合って無い様なものなのだ。

だから、僕の誕生日も分からないし、今日が何月何日何曜日と言った感覚が無かったのだ。

ウェルス村で過ごしている間、僕も時間は気にしても、年月日までは気にしていなかった。

それがこの世界の平民の感覚なのでは、独自の月日が廃れて異世界人が使用する月日が普及する形になっても仕方がない。

だが、これらの事実を踏まえて思ったのは、ここアロウティで召喚された多くの異世界人の殆どが地球人なのではないか?と言う事だ。

お袋さんの様に、白人至上主義の被害者がいる事や、地球と馴染み深い代物が多い事から、その様に僕は考えた。

しかし、そうなると諸外国ではどうなっているのだろうか?

気になった僕はアロウティの歴史書から一旦外れて、世界情勢が分かる内容の本を探した。

幸いな事に直ぐに見つかり、僕は早速その大して分厚くない本を開いた。

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