182.第28話 2部目 贖罪の提案
翌日。
ロールル村を後にし、昼頃に首都アルベロに到着した。
神代邸に一度寄り、荷物を下ろし、僕と神代は首都の国軍駐屯地へ向かった。
駐屯地内に監禁されている親父さんに会いに行く為に。
神代と共に真正面から駐屯地に入り、無言で神代の後をついていくと、
道すがら、それぞれの位の差の関係なく全ての兵士たちが頭を下げていく。
改めて神代の立場の重さを痛感する。神代はこの国の軍事力の要なのだ。
神代は頭を下げられ慣れている様子で、手振りで挨拶を返しながら目的地へ突き進んでいく。
地下への階段を降りると、先行して駐屯地へ来ていたヘンリーさんと合流した。
「ー…ネッドは尋問部屋に移動させました」
「うむ。奴とは、私とテオだけで話す。誰も近寄らせるな」
「了解しました」
神代の指示を受け、ヘンリーさんは敬礼して返事をする。
その後3人で尋問部屋の前まで行き、ヘンリーさんが部屋の扉横で待機する素振りを見せたのを確認してから、僕達は尋問部屋へ入った。
部屋へ入ると、以前侵入した時に見た状況と違い、親父さんは机の足に枷で片腕を繋がれた状態で椅子に座らされていた。
項垂れている様子から、大分憔悴してる事が分かる。
神代が正面の椅子に座ると、ゆっくりと親父さんが首を持ち上げる。
神代が視界に入った瞬間に、親父さんは慌てて自らの意思で頭を下げた。
「旦那様…!」
「…」
ただただ頭を下げる事しか出来ないと言いたげな様子を見て、神代は苦々しい表情で親父さんを見下ろしている。
やはりまだ、飲み込めない部分はあるのだろう。
少しの間沈黙が流れた後、神代が溜息を吐いてから口を開いた。
「顔を上げろ、ネッド」
「……」
神代の言葉に戸惑う様子を見せながら、親父さんは恐る恐る顔を上げた。
そして、神代の側で立っていた僕と目が合う。
「テオ…!?」
神代と共に訪れた事に驚いて、神代の心意を確かめるかの様な目をした。
重苦しい空気の中、神代は再び溜息を吐いてから口を開く。
「ネッド。条件付きでお前を釈放出来るが、聞く気はあるか?」
「…はい?」
理解し難いと言いたげな疑問符に、神代は懇切丁寧に解放条件を説明した。
ウェルス村をグレイスフォレスト以上に大きい街にする事。
その能力が見込めない場合は、お袋さんと離縁し子供達諸共神代家に連れて行かれる事。
僕の知恵を借りずに親父さんの判断の元で、ウェルス村を発展させる事。
以上の条件に加えて、僕が学園へ行く事も話し、僕達は親父さんの返事を待った。
親父さんは心底困惑する表情をしながら、必死に考えを巡らせている。
暫く考えた後で親父さんは問うた。
「ー…旦那様は私を許されるのですか…?」
親父さんにとってはそこが一番の疑問なのだろう。
開口一番に問われた内容に神代は眉を顰めながら言う。
「私の信頼を裏切り、娘を返さず、嘘で真実を捻じ曲げ、娘と孫達の存在を隠蔽しようとしたお前を許すのか、と?」
意地悪く問い返す神代に対し、親父さんは神妙な面持ちで答える。
「…そうです。私は到底許されない事を仕出かしました。
断罪される覚悟は出来て…」
親父さんの言葉を遮る様にして神代が思い切り机を殴った!
怒りを打つける様なけたたましい音は、部屋の外まで響いただろう。
怒りを露わにしながら、神代は親父さんを怒鳴りつけた。
「貴様に与える罰は今、提示した!!それ以外の罰を欲しがると言うことは、受け入れられないと言うのか!?
ウェルス村を存続させろ!娘と孫を不幸にするな!私を認めさせてみろ!
それがお前に課す罰だ!甘んじて受け入れろ!!」
凄まじい迫力の元で告げられる内容は、親父さんの自己断罪の意思を吹き飛ばすには十分だった。
何よりも効いたのは、家族を不幸にするなと言う言葉だろう。
神代に怒鳴られてから、親父さんは顔色を良い方へ変えていった。
覚悟する男の顔へ。
「条件を飲みます。必ずや、贖罪を全うしてみせます」
深々と頭を下げて言う親父さんの姿を見て、神代も落ち着いた様子で再び椅子に座った。
神代は上がった呼吸を整えてから、ウェルス村へ戻った後にすべき事を親父さんに話した。
植林技術を絶やさない為に、ティアナ教会を村へ入れない事。
それに伴い、異界の神の一柱で在られる、クグノチノミコトを祀る神社を創建する事。
そして、村へ戻ったら直ぐにリベラ伯爵に謁見する事。
以上の話を親父さんは少し怪訝そうな顔をしながらも、全て聞き入れてくれた。
僕からも、緑丸くん達との橋渡しはレオンくんに託した事を話し、また畑の警護を受け入れてくれるかを確認して欲しいと頼んだ。
畑の警護を任せる理由も漏らさず話すと、親父さんは直ぐに納得してくれた。
そして、僕が描いた神社の設計図を渡し、神代から渡されたと言う事にして村の大工達に渡して欲しいと頼む。
大方の引き継ぎ作業を終えると、親父さんの方から質問が投げかけれられた。
「ー…テオは学園へ行くとの事ですが、リアム様やハリー様の養子になるのですか?」
「いや。テオにはお前の子供のまま学園へ入学して貰う」
「…”ミラー”のまま、ですか?」
可能なのか?と言う疑問もそうだが、僕が不利な状況で入学すると気付き、親父さんは神妙な顔で再び問う。
対して神代は。
「テオが”神代”を望んでいない事もそうだが、平民が学園へ行く事に意味があるのだ」
僕の頭をぎこちなく撫でながら答える神代を見て、親父さんはどこか安堵する表情を見せる。
だが、直ぐに顔を引き締めて呟く。
「平民が学校へ行く事で生まれる意味…ですか…」
何の意義があるのか賢明に考える様子を見せる親父さん。
答えが出るかどうかを、神代と共に試しに見ていると…。
「……次の平民が入学出来る…?」
自分で言っていて信じ難いと言いたげに辿々しく呟いた内容に、僕は感心した。
やはり、親父さんは日々”長”として成長しているのだ。
「うむ。尤も、今の学園の状態では難しいだろうがな。主に金銭面で、だ。
だが、新しい学校を作る理由としては足り得る。平民にも教育が必要である事と、その有用性をテオに証明させる」
親父さんの成長には神代も感心したのか、懇切丁寧に答えを教えた。
それを聞き親父さんは腑に落ちた様子だったが、同時に不安そうだった。
「なるほど…。しかし、必要と言えど、またテオに無理を強いる事になるとは…」
自分の事を情けない父親だとでも言いたげな親父さんを見て、僕は毅然として答える。
「父ちゃん、それは違うよ。僕は、僕の意思で学園へ行く。やりたい事があるからね」
「やりたい事だと?」
怪訝そうにする親父さんの側まで行き、僕は真っ直ぐ見つめて答える。
「うん。僕は植林技術を魔法で作る。そして、この国に緑を取り戻すんだ」
「!」
僕の答えを聞き、親父さんは目を見張る。
そして、少し逡巡してからふっと微笑んで、拘束されていない手を僕の頭に置いた。
「…なるほどな。お前の考えそうな事だ」
「そうでしょう?」
そう言いながら笑い返すと、親父さんは誇らしそうに笑ってくれた。
暫くぶりの親父さんの笑顔に僕も安堵する。
「本当にお前って奴は…親の俺よりもデカい男だな…」
複雑そうに笑う親父さんに、僕は言う。
「父ちゃんだって、自分で謙遜するより、ずっとずっと懐が深くて大きい男だよ。
そうじゃなきゃ、僕の事も愛してくれなかっただろうし、受け入れてくれなかったでしょう?
それに、ウェルス村の皆は父ちゃんの帰りを待ってるんだよ。
頼れるウェルス村の”村長”をね」
僕の言葉を受け、親父さんは目を見開いて驚く様子を見せた。
そして、眉間に皺を寄せたかと思うと、素早く僕を抱き寄せる。
片腕を拘束されているにも関わらず、親父さんは僕を片腕で抱き締めている。
「お前は本当に…アメリアに似て質の悪い性格しやがって…」
震える声で言われる内容に僕は笑ってしまった。
「ははっ。僕も母ちゃんも、父ちゃんが大好きだからね」
「このっ…馬鹿野郎!」
「いてっ」
最後の最後に照れ隠しの拳骨を喰らったものの、いつも通りの親父さんに戻った様で安心した。
これで、拘束して居る間に親父さんから取った言質は果たされる事だろう。
大丈夫。今の親父さんならば、ウェルス村を発展させていける。
そして、神代を認めさせる文句なしの立派な男となるだろう。
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