91.第12話 4部目 首都アルベロ

翌日。

エヴァンは神国アロウティの首都アルベロに到着した。

高い石壁に囲まれたアルベロには、二箇所に関所が配置されており東門と西門がある。

今回、エヴァンは西南の方から来たため、西門の関所にて入国審査を受けていた。

グレイスフォレストから商人である事を証明する手形を提示し、入国目的と滞在日数を申請する。

荷馬車に積んである品物も調べられ、厳重な審査は30分に渡って行われた。

街の外に並ぶ審査待ちの行列に小一時間並んだ上に、審査が30分も掛かると流石に疲労感が募っていく。

しかし、辛い関門を遂に突破したエヴァンは開放感と共に、初めての首都と言う達成感で一気に気分が良くなる。

街中で荷馬車を引っ張って歩き回る中、時々街の中にも緑があるのを見かけた。

首都アルベロの石壁の外は、完全に砂漠化しており審査待ちしている間は、土埃に塗れて大変であった。

だが、街中には案外緑も見受けられる上、用水路も通っているため、グレイスフォレストとさして変わらないように見えた。

「お。あの家…随分と立派な木がある。しかも豪邸だ。あれは…貴族の家だろうな…」

流石、首都だ。とエヴァンは思う。

首都ともなれば、探すと貴族の家らしき豪邸が点々と存在している。

何せ首都であると同時に王城が望める城下町なのだから。

こうしてエヴァンは、騎士団御用達の武器屋を探し当てるまでの間、観光を楽しんだ。

点在する屋台が出している食べ物は、何やら色取り取りでロールルの宿で食べた夕飯を思い出す。

普段食べているものは色彩豊かでは無いので、エヴァンには異色に見えるものばかりだったのである。

おのぼりさんらしく、色取り取りのおしゃれな食べ物を口にする事を尻込みしながらも昼食を済ませ、ようやっとエヴァンは目的の武器屋に到着した。

店の名前は【オー・イクォーズ】。

名前と言い、堅牢な店の作りと言い、何とも入り難い。

しかし、ここまで来て、引き下がる事は出来ない。

ウェルス村で結果を待つ、ネッドやパーカーたちに良い報せを持って帰るためにも、エヴァンは意を決して打刀を抱え、店の扉を開けた。

「お邪魔しますー…」

店の中に入ると真っ先に武器が並べられた棚が目に入った。

更に見回すと、これでもかと言わんばかりの数々の武器が飾られている。

鑑定眼で見るも、やはり正確な価値はエヴァンには測れない。

しかし、この店の主人ならば、この打刀の正確な価値も測れるに違いない!

そんな希望を並べられた武器の数々を目にしてエヴァンは思った。

すると。

「…同業者が何の用だ」

店の奥から男の声が響く。

薄暗い店内の奥を目を凝らしてみると、椅子に座った中年の男が居た。

その手には剣を持っており、刀身の手入れしている所だったようだ。

男は片目に傷跡を負っているらしく、もう片方の目で鋭くエヴァンを睨みつけている。

その視線で怖気付きそうになったエヴァンだったが、負けまいと男に話しかけた。

「こ、こんにちは…。今日は、その…見て頂きたい品物がありまして、お、お持ちしました…」

「品物ォ?…お前、この店の中のモン見て、良くそんな事言えたな…?」

今にも手にしている剣でエヴァンを斬り付けそうな、緊迫した雰囲気を漂わせる店主。

よっぽど出品している武器に自信を持っているようだ。

それもそのはず。この店は国を守る騎士団に武器を下ろしている店なのだから。

中途半端な武器を持ち込む事は、それ自体がこの店への、延いては騎士団への侮辱に他ならない。

エヴァンは店主の迫力に当てられ、ごくりと生唾を飲み込んだ。

そして、深呼吸し、いつもの商人である自分になろうと気を取り直した。

「いえ、実はですね。お恥ずかしい話、わたくし、グレイスフォレストから来た田舎商人なのですが…普段、日用品しか扱わないもので、武器の鑑定が出来ないのです。ですが、こちらならば分かるのでは?と依頼人から頼まれまして、1日半の距離を馬1頭と荷車で移動してきた所なのです。つきましては、店主殿にこちらの品物を鑑定して頂ければと…」

嘘を得意としないエヴァンは、誠心誠意、事の経緯を店主に説明した。

だが、そこには少しばかりの打算がある。

グレイスフォレストと言う田舎から来たと言う事に加え、長距離を移動してきたと言う情報を元に、少しでも店主が打刀を見る気に出来ないかと考えたのだ。

そして、手に抱えていた打刀の姿をちらりと見せてみる。

見せているのは柄の部分。

テオが木で作った柄材に、柄の先端とつば側にはパーカーが作成した鉄細工が嵌められている。

さぁ、店主はどう出るか?エヴァンは様子を伺った。

すると、店主は眉間に深い皺を刻み込み、エヴァンを睨みつける。

怒らせたか…!?

冷や汗が絶え間なく流れ出てくる状態でエヴァンは、硬直状態で店主を見つめた。

店主はゆっくりと椅子から立ち上がり、エヴァンへ近寄る。

ここまでの旅路で疲れたのだろうか。

エヴァンの膝はガクガクと笑い、立っているのもやっと、と言った状態に陥っている。

こ、殺される…!?

そう思った瞬間に、店主の手がエヴァンへ伸びた!

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