173.第26話 8部目 テオの決意


断言された言葉を怪訝に思ったが、ここでその話を持ち出すと言う事は何らかの考えを持っての事だろう。

僕は神代に問う。

「何故だ?貴族の手が色濃く入っているだろう学園に行く事で得られる物は?」

僕の質問に対して神代は懇切丁寧に説明する。

「学園では10歳となった子供…中等部2年から魔法を教え始めます。

植林は何十年とならないと成果が上げられない事業です。

しかし、それでは間に合わない所まで砂漠化は進んでいます。

ですが、この世界にしかない技術を使い、植林を効率化する手段を講じられれば…!」

「つまり、木の成長を早める魔法を作り出す。それをするには、学園へ行き、魔法の仕組みをしっかり学ぶ必要がある」

「はい」

魔法をしっかり教えられる環境は学園にしかない、となれば行かない選択はない。

本当に木の成長を早めるなどと言った、人道を外れる様な魔法を作り出せるか?と言う疑問が浮かばないでもないが…。

既に人の道を外れた様な能力を持つ僕には説得力がない疑問だな。

しかし…。

「利益は分かった。だが、どうやって?」

神代家の養子となって、学園へ行く気はないとハッキリ断ったにも関わらず、神代が推している言う事は何か別の策があるらしい。

僕の問いに神代は神妙な面持ちで答える。

「今、次男のハリーと、執事のフレディに事の次第を進めよと命じて、中隊長が入学出来る様、手筈を整えさせています。

レッドウッド学園は、貴族の子供しか入れないと言われていますが、実の所、入学条件にその様な項目はないのです」

「何だって?」

入学条件に”貴族の子供であること”が無い?

なら、何故貴族の子供しか学園へ入学出来ないのか。

「大まかに説明しますと。

1、入学費、授業料を確実に支払える事。

2、入学試験で合格点を取る事。

3、満6歳以上である事。

以上が入学の条件であり、貴族の子供である事とは何処にも記載されてないのです。

ただ、多額の入学費や授業料に加え、学園が提示する試験内容に合格出来なければ入学出来ないと言う条件から、

実質的に平民の子供が入学出来ないため、「学園は貴族の物」と言われ続けているのです」

なるほど。確かに神代の説明通りであるなら、貴族の子供と言うよりは、学園が提示する条件を飲める親が貴族にしか居ないから、結果貴族の子供しか学園へ行かないのか。

ともなれば、要は金とそれ相応の実力が伴っていれば、平民であろうと学園が入学を拒否出来る理由は無いと言う事か。

尤も、風紀が乱れるだの、貴族の子供でないと入学出来ないと暗黙の了解があるだのと言いくるめられる可能性はあるが。

しかし、幸いな事に僕はこの国の軍務大臣であり侯爵である神代の孫の一人だ。

その侯爵の後ろ盾を持って、僕自身が実力を示す事が出来れば学園に入る事が出来るのだろう。

「入学の条件自体は難しく無い事は理解したよ。問題は僕自身の実力って事かな」

入学費用は神代家から出すつもりなのだろうが、それは奨学金とでも思っておくとしよう。

「それについてもご心配なく。中隊長には今年の後期に中途入学して頂く手筈ですので、それまでの期間が4ヶ月ほどあります。

その間に初等部1、2、3年の授業内容を網羅して頂きます。

そのための人材も呼び寄せる様に取り計らっております」

出かける前に何もかも用意させる手筈を整えてたと言う訳か。

これらの口ぶりからするに、僕が学園への入学を断った時から考えていた様に思える。

つまり、諦めていなかったんだな。

ここまで用意されたら、是が非でも行かなければ。

たった今掲げた決意を叶える為にも。

腹が決まった僕は一度深呼吸してから、いつもの調子で言う。

「そうか。うん、それは有難い話だけど…4ヶ月とはまた厳しい期間だねぇ」

「中隊長なら問題にもなりませんとも!初等部の授業内容など、せいぜい尋常小学校6年までですので!」

「半世紀以上も前に学んだ事に期待されてもねぇ…」

調子を合わせてくれた事は有り難いが、余分な期待を掛けられている気がするなぁ。

すると。

「中隊長。どうか、この国を救って下さい。どうか…」

おそらく、神代が言っているのは、植林の事だけではない。

皇太孫殿下の事も含まれている。

未来のアロウティ神国を背負う事となる皇太孫殿下が愚鈍では、僕が幾ら尽力しても徒労に終わる。

…つまり、皇太孫殿下がまともになる事が僕の義務を果たす上で尤も障害にならないと言う事だ。

なら、やるしかないだろうな。

深々と下げられた頭を見て、僕はしゃがみ込んで神代の顔を覗き込んで言う。

「僕だけじゃ無理だよ。お前の力も存分に借りるからね。覚悟しておくんだよ?」

「…はいっ!」

上等兵の頃から変わらない真っ直ぐな目で、神代は僕の言葉に応えてくれた。

神代もこの国を守ろうとしている。でなければ、日本刀とそれを打てる鍛冶職人など探していない。

ならば、僕達の気持ちの行き先は同じだ。

アロウティ神国を守る。

国土を、人々を、異世界から放たれた凶弾から守るのだ。

それが例え、自ら抱え込んだ爆弾でも。

それを排除しなければ、アロウティ神国に未来は無い。

こうして、僕は強い決意を持って【クラーク・レッドウッド学園】への入学を決めるのだった。




第26話

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