38. 第5話 1部目 燻製を作って
今世で初めての肉食を体験した次の日。
親父さんと石を組んで小さな炉を作り、鶏肉の燻製を作ってもらう傍、僕は自分用の弓を意気揚々と作成していた。
何しろ、ナイフの使用許可が下りたのだ!
…ただし、大人の目があるところでしか使えない。
それでも、石で削り取るよりもかなり楽である。
弊害があるとすれば…凝りすぎて削りすぎない様にする事くらいだ。
凝り性が無駄に発揮しない様に自制しながらの作業ではあるが、実に楽しい。
前世でも若い頃から、物作りは好きだったし得意で有った。
その質のお陰で、日中戦争後には家業を継げた様なものである。
しみじみと前世の若い頃を思い出しながら、弓を削っていると直ぐ側で燻製焼きをしていた親父さんに声を掛けられた。
「おい、テオ」
何かと顔を向けた瞬間、口の中に何かを捻じ込まれた。
驚きつつ口の中に入ったものの正体を探る。
少し苦味を伴った肉…かな?
もぐもぐと咀嚼し飲み込んでから僕は親父さんに正体を尋ねた。
「今のって燻製?」
「あぁ。どうだ?」
燻製の具合を聞きたいらしい。
ふむ。燻製らしく苦味があり、火も中まで通っている様だった。
ただ…少し物足りない。
それもそのはず。塩水につけて滅菌しただけの肉を燻製してあるのだから。
最低限の燻製の条件しかクリアしていない肉では、物足りなくても仕方がない。
出来れば山椒や香草などを使って、肉に味付けしたかったものだ。
…また森に入って探してみる他ないか。
ともかく。現時点での燻製としては、上出来である。
「うん。美味しかったよ」
「そうか」
僕の答えを聞いた親父さんはふっと笑い、燻製作業に戻った。
セイショクノケイの2羽分の燻製。
もも肉、胸肉、ささみ、せせりなどを燻製にしており、全て合わせて1380gもある。
何しろ、1羽が約2kgほどあったこともあり、肉の量も多いのだ。
野生でこれだけの肉が取れるのだから、養鶏して太らせたらもっと手に入りそうである。
これらの燻製が終わったら、村の年寄りたちの家を訪ねて回るつもりだ。
…昨晩はミラー家で手羽先や手羽元を占領してしまったから、少し罪悪感があるため、なるだけ早く配って回り、この罪悪感をなくしてしまいたい思いもある。
燻製した肉ならば、ある程度は日持ちするはず。
とは言え、夏場に冷蔵庫もない環境で食材を放置するのは危険である。
せめて、冷暗所を作って、その中に保管しておきたいものだ。
土の中で直射日光を浴びない、冷暗所ならば結構保存が効くはず。
だが、その為には地面を掘り返さなければならない。中々に難問である。
冷暗所が用意できる様になるまでは、なるべく早めに燻製肉を食べきって貰う方向で指導するしかないな。
その上、相手は年寄りだ。燻製肉が食い千切れるほどの歯を持っていれば問題ないが、そうでないなら食べやすい方法を教えてやらないといけない。
燻製肉をスープにしてしまい、湯で柔らかくしてから食べて貰うのが一番簡単だろう。
つくづく、最低限の食器と土鍋が村に残っていて良かったと安心する。
それも大分古くなってきていて、いい加減にはてなの茶碗と化してきている物もあるため、追い追いこれも解決していきたい。
現段階では衣食住の、食を何とかしているところなのである。
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