95.第13話 1部目 風邪


段々と春の訪れを予感させる今日この頃。

日差しが暖かになってきており、体感で言えば氷点下を下回る気温の時期は過ぎ去ったように思える。

だが、日が落ちるとぐっと寒くなるのでまだまだ油断は出来ない。

「アメリアは今日、家周りするんだったか?」

朝餉を口にしながら、親父さんがお袋さんの予定を確認する。

「えぇ、そのつもりよ。皆、もう随分と調子が良くなって来ている見たいなの」

そう答えてお袋さんは嬉しそうに微笑む。

良い報せを聞いた親父さんもつられて微笑んで言う。

「そうか。やっぱり、テオの言う食事に変えて正解だったか…」

「えぇ、そうみたい。テオの言う様に、保存食は体に悪いのね…ねぇ?テオ」

村全体の食事環境を整えたことが功を奏し、年寄り達の状態は日々良くなって来ているらしい。

その事を大いに喜びたいと思うのだが…僕は何故だかお袋さんの問いかけに直ぐに反応出来なかった。

「テオ…?」

「……え?あ、うん…そう、だね」

再度の呼びかけにやっと反応出来た僕を見て、お袋さんは怪訝そうにしながらじっと僕の顔を見る。

すると。

「…やだ、テオ!あなた、熱を出してるの!?」

「何!?」

僕の異常を察したお袋さんは僕のでこに手を当てて熱を測っている。

お袋さんの言葉を聞き、親父さんも慌てて僕の様子を伺う。

しかし、参ったなぁ…。道理で、朝起きた時に身体がだるいと感じた訳だ…。

ここ最近は昼間は大分暖かくなって来ていたのだが…夜間との気温差に耐えかねたらしい。

いや、むしろ、今まで風邪の1つも引いてこなかった方を奇跡と思うべきだろう。

「……やっぱり、熱っぽいわ。どうしましょう…」

医者の居ないウェルス村では、病気や怪我はご法度である。

そう分かっていた筈なのに、風邪を引き込むとは情けない。

「グレイスフォレストまで連れて行くか?」

当然、グレイスフォレストならば医者の1人や2人は居るだろう。

しかし、徒歩で2時間もある距離を移動するのは、少々無謀である。

親父さんに抱えられて行くにしても、今の僕の体力では厳しそうだ。

第一、わざわざグレイスフォレストまで行かずとも、寝ていれば治る病気だ。

病名は風邪だろうから。

「大丈夫。一日、寝ていれば熱も直ぐ引くから…。

母ちゃん達は、いつも通り過ごしてて良いよ…」

「でも…っ」

いつも通り過ごすと言うことは、僕を家に残して2人は外出すると言うことだ。

そうする事に抵抗を感じるらしいお袋さんは、心配そうな顔で僕を見つめる。

親父さんも同様だ。

「…むしろ、家で1人きりにしてくれた方が、静かに休めるから…。

それに、母ちゃんだってお昼頃になれば帰ってくるでしょう?

ほんの数時間、1人で家に居ても大丈夫だよ。寝てるだけだし…」

「テオ…」

僕の説得を聞いても尚、お袋さんは踏ん切りが付かない様で迷っている。

しかし、親父さんは違った。

「…分かった。お前は家で大人しく寝てろ。アメリア、こいつの言う通りにしてやれ」

「でも……分かったわ。直ぐに帰ってくるからね?」

親父さんは、僕の意思を汲んでくれた上にお袋さんを説得してくれた。

普通の子供ならば、母親が側に居た方が良いだろうが、生憎にも僕は普通の子供ではない。

そこが却って2人を心配させてしまう原因なのだろうが、僕は2人にいつも通りに過ごしてほしいと我儘を言わせて貰った。

年寄り連中の様子を伺うのは必要な事だし、親父さんには変わらず働いて貰わなければ困るからだ。

「うん…2人とも、いってらっしゃい」

こうして、僕は2人を見送り、早速ベッドに横たわった。

横たわると同時に、どっと身体が重くなる感覚が僕を襲い、身体中から発汗し始める。

「はぁ…一昨年よりも、外に出る時間が長かった影響かな…。それとも、人が増えたからかな…」

風邪になった原因をぼんやり考えてみたもの、どれも村の復興には必要な事だったし、なるべくしてなった結果なのだろうと僕は結論付けた。

そして、5日前に旅立ったエヴァンがそろそろ村に来るのではないだろうか?と考えながら、眠りに落ちていくのであった…。

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