5. 第1話 5部目 6歳児に2時間はキツイです

翌日。

お袋さんが持たせてくれた麦握りを持ち、僕と親父さんは森の奥へ入って行く。

さて、ここで問題。

タバコとは、一体どうやって作られるのか?

この場合のタバコとは、人の手が加えられる前の状態の植物の事を指す。

植物の状態のタバコは、熱帯地方の多年草植物であり日当たりの良い場所で育つ。

つまり、該当する場所を探し回れば見つかる可能性が高いと言う事だ。

以上の事を親父さんに伝えると、親父さんは森の奥へ向かって歩き出した。

僕はその後ろを付いて行きながら周囲の植物に目を向けて鑑定眼を養う。

そこで思ったのは、この世界の植物や動物はちょっとずつ名前が違う。

キリキリムシも見た目はカミキリムシそのものだったが、微妙に名前が違ったように、樹木や植物らの名前も違うのだ。

ヌクギと言う名前のクヌギそっくりの木に、ギスと言うスギの木にそっくりの木…。

こう言う例が、森のそこら中に存在しており頭を捻るばかりだ。

何故こうも、アナグラム的な名前ばかりが溢れているのだろう?

こうなってくると、僕たちが探している植物のタバコも名前を変えて存在しているかもしれない。

少し、注意して見る必要がありそうだ。

村を出発し、森の中をひたすら歩いて2時間。

親父さんは疲れた様子を一切見せず、どんどんと歩いて行く。

僕はと言うと、流石に子供の体に2時間の競歩は堪えて来ている。

段々と親父さんとの距離が開いて行くのを必死になって走って追いつくも、直ぐに離されてしまう。

何とか付いて行きたい。この程度で弱音を吐くのは嫌だ。

しかし疲労が限界を迎え、足が縺れ盛大に転んでしまった。

「ふぎゃっ」

両手を地面に付けたものの、見事に顔から地面に飛び込んでしまい、

鼻の頭を擦り切ったらしく、ジリジリと痛みが広がる。

起き上がらなければ。親父さんに置いていかれてしまう。

ブルブルと震える両腕に、何とか力を込めて起き上がろうとした瞬間。

世界が突如、明るくなった。

それまで見ていた世界よりも遥かに高い位置で視界が広がっている。

何が起きたのか一瞬理解出来なかったが、手元に親父さんの頭があるのを見て

親父さんに肩車されたのだと理解した。

「馬鹿野郎。歩けないなら、歩けないって言え」

そう言いながら、親父さんは更に森の奥へ歩いて行く。

「ご、ごめんなさい…」

「あぁ?何に謝ってんだ」

付いて行けなかった事に申し訳なさを感じて出た言葉に対し、親父さんは心から怪訝と言った様子で返して来た。

「付いて行けなくて、おや…父ちゃんに迷惑かけたから…」

「はぁ?子供の分際で大人に付いて行こうなんて、生意気なこと言うな」

いやぁ、口が悪い。本当に親父さんは口が悪い。

しかし、これは親父さんなりの気遣いのつもりらしいから困ったものだ。

「…まぁ、付いて行けない事も言わずに、自力で歩いてた事を詫びるってんなら聞いてやる」

と、この様に、自分の言葉を振り返った上で、言葉を付け足すのは毎度の事。

こんな風に言われては、口が悪い事を怒る事も出来ない。

「ははっ。うん。生意気言ってごめんなさい」

実に不器用な言い方しか出来ない、良くも悪くも素直な人だと思うと笑わずにはいられなかった。

本当に良い人の息子に生まれたな、とつくづく思う。

前世の年齢を足せば、僕の方が遥かに年上ではあるが、それでも彼は僕の親に違いない。

尊敬し、愛せる親の元へ来れたのは、僕の今世で喜ばしい事の1つだ。

「おう。それより、お前、タバコ探せ。タバコ」

照れ隠しからか、親父さんは素っ気なく僕に指示を下す。

言われた僕は、親父さんの視線の先の風景を見て息を飲んだ。

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