89.第12話 2部目 無防備
鑑定眼で見た所、それはチーズだった。
しかし、この村は乳牛などを飼える環境なのだろうか?
何処から仕入れているのだろうか?
と、商人らしい疑問を浮かべるエヴァンを察してか、リョウは言った。
「自家製チーズだ。赤ワ…葡萄酒に合うだろ?」
「じ、自家製!?これはリョウさんがお造りになられたのですか!?」
とんでも無い事を聞いたとばかりにエヴァンは目を剥いてリョウを見上げた。
必要以上に驚かれたリョウはバツが悪そうにしながら、エヴァンが座ってる隣の席に腰を掛けた。
「敬語じゃなくて良い。見た感じ、あんた、俺と歳変わんなさそうだし。それと、そのチーズはヤギ…ギィヤの乳で作ってある。ギィヤならこの辺りでも飼えるんでな」
気難しそうに見えたリョウだったが、どうやら気さくな青年らしくエヴァンとも気兼ねなく話したい様子だ。
だが、エヴァンには不思議だった。
幾ら見てもリョウがエヴァンと歳が近い様には見えない。
むしろ、10歳ほど下の様に見えて仕方がないのだ。
ともかく、気さくに話して良いと言われたので、エヴァンは気兼ねなくそうする事にした。
「はぁー…ロールルの料理が美味いと評判だったのは、君のような料理人が居たからだったのか。珍しくて美味い料理!いや、噂に違わぬ物を見せて貰って得をしたよ」
「まぁ、普段オートミールが主食のあんたらからしたら、そうだろうよ…」
呆れる様に言うリョウの言葉の所々はエヴァンには理解し難かった。
だが、リョウの話は興味深かったため、エヴァンはさっきまで食べていた料理について聞く事にした。
「そうそう。この料理、今まで食べた事の無い食感と味で驚いたよ。一体、これは何て言う料理なんだい?」
「え?うーん…んな事初めて聞かれたな…。ウチの連中は”美味い美味い”しか言わねぇし…」
そう言いながらリョウは目を泳がせた。心なしか嬉しそうにしている。
これまで作る料理に対して、ここまでの興味を持たれた事は無かったのだろう。
「わたしは是非とも聞きたい!聞かせて貰いたい!」
駄目押しのように説明を求めるエヴァンに、リョウは躊躇いながらも答えた。
「……【ニョッキのジェノベーゼ】。ニョッキってのは小麦粉丸めて茹でたやつ。ジェノベーゼってのは、その緑色のソース。ジバルってハーブあんだろ?それと、塩、山椒、植物の油で混ぜてあんだよ。肉は豚ベーコンの角切り」
さらさらと答えられた料理の説明にエヴァンは目を回した。
初めて聞く言葉ばかりで頭が追いつかないのだ。
「ほ、ほぉ~…そ、それは凄い…」
「…分かってねぇだろ、あんた」
しかし、懇切丁寧にどれがどうやって出来ているか説明してくれたため、どれほどに手間のかかった料理かは伝わった。
その後、エヴァンはリョウと談笑しながら、葡萄酒と自家製チーズを食した。
リョウの作った自家製チーズは、グレイスフォレストで作っているチーズより少し酸味があり癖があったものの、とても美味しかった。
チーズならばお土産に持って帰れるだろうか?と考えたエヴァンは、早速リョウに買わせてくれないかと交渉した。
すると、リョウは行商の帰りに寄ったら買わせてやっても良いと答える。
それを聞いたエヴァンは喜んで帰りも宿を利用させて貰うと返事をし、約束を取り付けるのであった。
「ー…で、あんた。首都まで何しに行くんだよ?」
会話の途中、リョウが突然そんな事を聞いてきた。
しかし、先ほどから首都に行商に行くと言ってるにも関わらず、この質問は一体どう言う事だろう?とエヴァンは首を傾げる。
「え?何って行商に…」
「じゃなくて。近くの町の行き来しかして来なかった商人が、首都に何を売り買いしに行くんだよって話」
リョウにそこまで言われ、ようやっと質問の意図を理解したエヴァンは、懇意にしてくれている取引相手から、とある物を預かり、その鑑定をしに行くのだと素直に答える。
そこまで聞いたリョウは、答えの内容自体よりも、エヴァンがぺらぺらと話してしまった事に不安を覚えた。
こんな調子で首都まで行くのかよ?途中で盗賊に襲われたりしねぇだろうな…。
と、今日会ったばかりのエヴァンの身を案じたものの、明日の昼には着くんだと聞いてからは、まぁ大丈夫か。とホッと息を吐くのだった。
しかし、鑑定眼を持っているらしいエヴァンが、わざわざ首都まで行って鑑定して貰おうなんて、どう言う事だろうか?と疑問が頭を過ぎった。
「あんた、普段は何を売り買いしてんの?」
「わたしは日用品が専門でねぇ。武器や防具の知識はからっきしなのよ」
おいおい…。
リョウの質問に対して必要以上に答えたエヴァンがまた心配になってくる。
その答え方じゃ首都に鑑定しに行く代物は武器か防具です。って言ってるようなもんじゃねぇか…。
うっかり頭を抱えそうになる程のエヴァンの警戒心のなさに、田舎者っぷりが発揮されていて見事に不安を煽ってくる。
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