157.第24話 3部目 アロウティ神国の軍事力
「防衛力を増強すると申されましたが、他国に攻め込まれる懸念でもあるのですか?」
「…いや。今、この国に攻め込んだ所で旨味など無いからな…。
それに、他国は何処も海の向こうに存在している。
今の所、国間の行き来は海路しかないから、攻め込もうにもお互い遠すぎる。
…それでも、昔は攻め込んでくる馬鹿も居たが…」
ふむ。確かに砂漠化が進み、管理が厄介になっている国を乗っ取ろうとする変わり者はそう居ないだろう。
その上、諸外国が海の向こうにあるとすれば、仮に戦争が起きたとしても空路が無い以上、海上での戦闘から開始になる。
重火器も無いなら、遠距離からの攻撃は弓矢か投石になり、長期戦になるのは必至。
海上だと落ちている武器を再利用、なんて戦法も使い辛くなる事を考えると補給も絶望的。
仮に海上の戦線を突破し上陸したとしても、物資が心許ない状態での攻め込みは、圧倒的に不利だ。
その上、攻め込んだ土地が砂漠化が進み、碌な物資が無いとなれば…。
うん。この国を攻め込もうと考える事自体が徒労になる。
しかし、いざ戦争を迫られた時、この国が蹂躙されるかもしれないと言う事実もまた存在している。
諸外国の軍事力がどの程度か測れないが、中世時代の軍事力に魔法と言う毛の生えた程度の武力があるだけでは心許ない。
故に神代は軍事力強化のために、新武器を求めて居たのだろう。
だが、それが日本刀と言う前時代の武器では変わらない様な…。
この国で重火器を作れるかも、分からないと言うのに頼る先に不安が残るのはどうした事か。
「…話は分かったが、日本刀が優秀だとしても相手が鉄甲冑では簡単に折れてしまうだろう?
鉄をも切り裂く…などと呼ばれる事もあるが、鉄甲冑に対し振り下ろして斬れるとは…」
そこまで言って、テオ・ミラーではなく前田清として、部下に対して話している事に気が付きハッとした。
「あっ…す、すみません。つい…」
考え込んでいたら、いつの間にか現在の立場を忘れて、口調を崩してしまっていた。
侯爵に対し無礼が過ぎてしまった…。
すると。
「…いや。…中隊長としてお聞き下さい」
そう言って、神代は僕に対して頭を下げた。
僕が敬語で話す事に、神代は違和感を覚えたらしい。
見た目は愛娘そっくりの見た目をした男児にも関わらず、敬語を使われるのがむず痒い…と言うよりは気持ち悪いのだろう。
神代の頼みを聞き入れて、僕はそのままの口調で話し続ける事にした。
「…分かった。2人だけの時は普通に話す事にしようか」
「はい…!中隊長!」
目を輝かせながら嬉しそうにする神代を見て、懐かしさを覚えた。
任務や私事に関わらず、話す時は真剣に聞き入ってくれた若い新兵達の姿を思い出す。
前世で見てきた姿を彷彿とさせる、そんな神代は僕の疑問に対して答えた。
「中隊長がご指摘する通り、甲冑に対し日本刀は不利です。
甲冑を相手にするつもりなら、幅広で重い西洋剣が適切でしょう。
ともなれば、甲冑同士西洋剣同士で戦闘する事は必定となります。
ですが、自分が求めるのは重さと頑丈さではなく、身軽さと正確さなのです」
「身軽さと正確さ?」
「はい。甲冑は鉄の塊で出来ており、素早く動く事はほぼ不可能。
準備にも時間がかかる上、非常事態に於いて対応が遅れるのは目に見えている。
しかし、日本刀、あるいは小型の重火器ならば、素早く動く事が可能となり、生存率も上がるでしょう。
問題は防御面ですが、今の所は最低限の急所を守る防具を身に着けさせ、転換魔法使いには人体強化の魔法を使う様に指示しています。
出来れば、軽い素材で丈夫な防具を作らせたいのですが…そちらは中々…」
ふむ。つまり、神代は戦時中の日本の軍事力を、この国で再現したいのだろう。
それには重火器はどうしても要るし、身軽な防具も欲しい。
だが、どちらも叶う目処が立たないから、せめて西洋剣より軽く、丈夫な日本刀が欲しかったと言った所か。
日本刀の丈夫さは、日本人ならば良く知っているし、そこに信用を置くのは当然の流れだ。
「日本刀は日本刀で、これまでに幾度も名のある武器職人に作らせて来ましたが、どれも出来が悪く…。
ですが!パーカー・スミスと言う男が打った日本刀は、これまでに見て来たどの日本刀よりも、別格に出来が良かった!
いや!ようやっと日本刀と呼べる逸品に出会えたと…!」
熱く語る神代に若い頃の神代が重なって、僕はひっそりと和んだ。
本当に、男は幾つになっても浪漫あるものが好きだなぁ…と。
まぁ、かく言う僕もパーカーの打つ刀には、毎度、胸打たれているが…。
「うん。パーカーは無類の日本刀好きだからね。日本刀を打ちたいが為にウェルス村に移住して来た程だから…」
「それは…廃村寸前だった言う時期にですか…?」
「うん。金を調達しようと思って作った玉鋼に目を付けて来てね。
工具をタダで提供するから、玉鋼を作って欲しいと言う要求を却下して、人手を寄越せと言ったら、本人と本人の息子1人に若者が2人移住して来たんだよ」
「え!?玉鋼!?工具!?一体、どう言う事ですか!?」
次々と投げ込まれる情報に頭が追い付かないと言いたげに、前のめりになって疑問をぶつけてくる神代に、僕はこれまでの苦労話を語った。
その過程で、ウェルス村の現状がどの程度なのかを説明出来たのは幸いだ。
神代が特に気にしたのは、僕の弟妹の存在。
それと天然の温泉が引かれた銭湯がある事だった。
愛娘に会いに行く事もそうだが、見るべき物があると聞いて神代は心なしか嬉しそうにしている。
日本人としては温泉と聞いたら、心が浮き立ってしまうものなぁ。
「ー…そうですか。廃村寸前だった村をそこまで…」
苦労話を語り終えると、神代は顔を顰めた。
益々、親父さんの処置に困ってしまうと言いたげだ。
そんな神代に、僕はここぞとばかりに提案した。
「うん。だから、今、親父さんに居なくなられるのは困るんだ。
神代。もし、親父さんに科す罰に困っているなら、どうだろう。
何らかの目標を提示して、親父さんに…ネッド・ミラーにウェルス村発展の指示を下しては?」
僕の提案を聞き、神代は神妙な顔付きになる。
「…それで私が得する事は?」
廃村寸前だった村を立て直した努力は神代も認めてくれたのだろう。
もはや、罰になるのか?と言う疑問は出て来ない。
ただ、愛娘を誘拐したと思って居た男を、易々と許すのでは侯爵としても父親としても納得出来ない。
ならば、得となる事を求めるのは自然だ。
神代が一番に望むのは愛娘の帰還だろうが…それは叶わない物として僕は答える。
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