158.第24話 4部目 神代が出す3つの条件
「神代が望む日本刀が確保出来る事。それに追随して利益を得られる事…の2つが重要だろう。
それに付随して、愛娘の笑顔を守れる事…くらいかな?」
これで納得出来ないなら、もっと何か付け足さなければならないが…。
「…アメリアが笑う、か…。…親としては、それこそが一番の得ですな」
どうやら杞憂だったようだ。
神代は困った様に微笑んで応えてくれた。
「良かった」
こうして、穏便に話が終わったと思いきや…。
「ですが、条件があります」
「条件…」
そう切り出して、神代が提示した条件は以下の通りだ。
1、テオの知恵を借りずに、ネッド自身の判断でウェルス村を発展させる。
2、目標は住人の数がグレイスフォレストと並ぶ、あるいは超えるほどにする。
3、目標が達せないと神代が判断した場合、アメリアと子供達は神代家に引き取り、ネッドとは離縁。一切の接触を禁ずる。
…以上の3つが神代が求める条件だ。
1については僕も思って居た事だから良しとして、2の必要な住人数が中々に厳しい。
現在のウェルス村の住人数は20数名に対し、グレイスフォレストの住人数はざっと見積もって2000人以上。
その程度の人数、あるいは以上となれば何十年の期間が必要になるだろうな…。
だが、例え何十年もの期間が必要になるとしても、そもそも親父さんに村長の才が無く、人口を増やす事が不可能だと判断されれば、そこまでなのだ。
その恐怖とも向き合っていかないといけないのだと考えると、同じ期間投獄される方が気が楽かもしれないなぁ…。
だが、ウェルス村には親父さんが必要なのだ。甘んじて、その罰を受けて貰おう。
それに目標が達成出来なかったら、家族と引き離され放逐されると知れば、親父さんも全身全霊で取り組むだろうし大丈夫だろう。
「…しかし、そうなると神代からすれば、僕の存在が気掛かりになるよねぇ…」
「と、言いますと?」
「だって、僕が親父さんに知恵を貸してないって証明が出来ないじゃ無いか。
それとも、何か策でもあるのかい?」
僕の問いに神代は少し黙り込んでから、口を開いた。
「中隊長には、私の息子の養子になって貰い、成人するまで学園に行くと言うのはどうですか?」
その提案を聞いて、僕は衝撃を受けた。
行けないと分かっていた、学園に行けるかも知れない事に。
だが…。
「…養子?」
「はい。先程、私と一緒に居た次男のハリーの養子にです。
そうすれば、中隊長も学園に入学出来ます。尤も、中途入学と言う形にはなってしまいますが…。
”星の子”と呼ばれた中隊長ならば、少しの遅れなど問題ないでしょう!」
そう言いながら、何故か神代は自慢げに胸を張った。
「”星の子”とは…また酷く懐かしい呼称を…」
星の子とは…。
陸軍幼年学校の生徒が呼ばれて居た名前である。
帽子に星形の印が付けられて居た事から付いた呼称だ。
後々に襟章にも星が誂えられる様になったが、僕が幼年学校を卒業したのは、それよりも前だった。
ただ、襟章に星形が追加される以前より、幼年学校出身者は星の子、または星の生徒と呼称され、軍人の中でも一目置かれる存在だったのだ。
何しろ、幼年学校に入るには先ず親が軍人である事、あるいは軍役中に戦死している事…が条件だからだ。
僕の父親が、元は職業軍人だったのだが足を負傷して退役した人だった。
入学資格の条件を持っていた僕は、尋常小学校を卒業後、有無を言わさずに父親に幼年学校へと叩き込まれたのだ。
結果として、陸軍士官学校も卒業し軍人となった青年時代だった訳である…。
「何を仰いますか!中隊長殿は、ただの星の子にあらず!
星の子の中でも大変優秀な成績を残されたじゃありませんか!」
「僕より優秀な士官は大勢居たよ」
「次席で卒業された方が、そんな嫌味を言わないで下さい!」
…と言う様な事を、前世でも散々言われたんだったなぁ。
軍人としての僕が、優秀だと言われるのは甚だ不本意だ。
砲兵部隊の中隊長に任命されたのも、僕としては不本意だったんだけどなぁ…。
…何て事を言ってしまっては、神代含めかつての部下達にガッカリされそうだから、この事実は今世でも墓場まで持っていく事にしよう。
「前世はそうでも今世がそうとは限らないよ。教育体制も内容も大違いだろうしね」
「いえ!中隊長ならば首席卒業も夢じゃありません!むしろ余裕でしょう!」
うーん…。神代のこの信頼は何処から来るのか…。
いや、それよりも問題なのは。
「そう言って貰えて光栄だけどね…。僕は貴族の子として学園に行くのは嫌だな」
「…え!?」
まさか、拒絶されるとは思って居なかったと言いたげな声に僕は続けて言う。
「僕は、”ミラー”と言う性を捨ててまで…2人の子供で無くなってまで、学園に行きたいとは思わない。
この国の事や、世界の事が知れるかもしれない学園には興味はあるけど、2人の子供で無くなるくらいなら、成人してから自分の足で確かめて回るつもりだよ」
「そ、そんな!中隊長ほどの方が学園に行かないとは…勿体無い!!
中隊長ならば、あのお調子者を矯正する事も…!」
「お調子者?」
突然出て来た単語を怪訝に思い聞き返すと、神代はハッとした。
「あ…いえ…その…」
話す事を躊躇している神代。
口籠もり、いつまで経っても話さない為、僕は見切りを付けた。
「…とにかく、学園に行く話は断らせて貰うよ。僕の方で他の方法を考えて…」
「ま、待ってください!」
話を切り上げようとした僕を見て慌てた神代が、迷う素振りを見せながらも話し始めた。
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R03/02/24 21:30
更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
以後、同じことが無いよう気をつけますので、今後ともよろしくお願い致します。
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