150.第23話 2部目 侵入

「入んのは分かったけどさー。この中に軍人がうじゃうじゃ居るんだろ?

そん中、どうやって村長サンの居場所探んの?」

「人がどうやって動いてるかは壁の向こうでも透視出来るから、僕1人なら人の目を掻い潜って建物内に侵入出来ると思うよ」

僕の答えを聞きレオンくんは目を見開いて驚いた。

「はぁ?………あー…なるほど」

しかし、少しして僕の意図する所を理解したらしく呆れ気味に相槌をした。

…僕の目が壁の向こうでも熱源感知出来る様になってしまったのは、レオンくんの我が儘を叶える為だったと言うのに…。

それを忘れられていたとは心外極まるな。

地中の温泉元を見つけるべく、僕は自身の能力である鑑定眼の精度を上げる練習をした。

結果として地中の熱源を視る事が出来る様になった僕の目は、現在も壁向こうに居る人も熱源として見る事が出来ている。

我ながら人並外れた目になってしまったと思うが、今回ばかりはこの目を存分に発揮しようでは無いか。

尤も壁を越える手段を見つけなければ、どうしようもないのだが…。

「ま。そう言う事ならテッちゃん1人の方が良いか。まだチビだし?隠れやすいし?」

そう言いながら、レオンくんは蹲み込んで石壁に手を置いて足元を見ている。

「そうだねぇ。でも、小さいと壁を越えるのは難しいや」

「でも、こう言う穴なら入れるっしょ?」

「…え?」

不思議に思いながらレオンくんを見ると、足元の石壁に子供が通れそうなくらいの穴が開いていた。

…どう見ても、今しがた開けられた穴にしか見えない。

「…レオンくんが開けたの?」

「俺にかかれば、これくらいヨユーだし」

そう言いながらレオンくんは得意げに鼻を吹かす。

まぁ、井戸底から10m近い土の塊を魔法で掘り出す位だ。

子供1人が通る穴を開けるくらい何て事ないのだろう。

「俺はこの近くで待ってるからさ、テッちゃん行ってきなよ。ヘマして捕まんなよー?俺、助けないから」

助けられないの間違いではなかろうか?

「…うん。分かった」

ともかく。

レオンくんが用意してくれた穴を利用して、僕は敷地内に侵入を試みた。

僕が通れるギリギリくらいの穴で、建物の影に隠れている事もあり直ぐ近くまで来ない限り感知出来ない穴だ。

無事に敷地内に侵入した僕は、壁向こうに居るレオンくんに言葉を掛ける。

「1時間くらいで戻るから、それ以上待っても帰って来なかったら捕まったと思って動いてね」

「りょーかーい」

そう言うレオンくんの声が遠のいていく。

施設から離れ、時間になったら戻ってくるつもりなのだろう。

ともあれ、僕は人に見つかる前に早々に行動を開始しなければならない。

僕は鑑定眼を頼りに人を避けながら建物の輪郭に沿って裏側を探った。

建物にも裏口が設けられているのを発見し、そこからの侵入を考え人の出入りを待った。

数分して建物の中から人が出て来たのを見計らい、扉が閉まる直前に建物内に侵入。

侵入して直ぐ近くの鍵のかかってない部屋に入り、そこで建物内に居る人影を鑑定眼で視る。

3階建の軍施設内には、どの階にも人影が有り不用意に出歩けば出会しかねない様子だった。

だが、人影の様子からして親父さんらしき存在は見受けられない。

1階から3階の何処にも居ない…と言う事は。

「…居た…!」

地下を視た僕の目に、明らかに拘束されている人物の姿が映った。

心なしか体温が低い様に見える…。

その人物の周りには3人分の人影が居り、今正に尋問をしていると言った様子が窺えた。

…ともかく。親父さんらしき人物の居場所は掴めた。

僕は地下へ降りるべく人の目を掻い潜りながら階段へ向かう。

地下から人が上がってくる可能性を考えながら、慎重に素早く地下への階段を降りる。

すると。

「……」

地下へ降りると同時に、人声と階段の方へ向かってくる3人分の人影が目に入り、僕は急いで階段下へ潜り込んだ。

「ー…やはり、我々も尋問でなく拷問するべきじゃ?」

聞き捨てならない言葉を聞き、僕は身を潜めながら耳を傾ける。

「団長。あの村から連れてくる間にも散々尋問はしたんですし、そろそろ我々も拷問をして聞き出した方が…」

2人の武装した男が提案をするの聞き、団長と呼ばれた男が憮然として答えた。

「拷問ならば既に旦那様が自らされている。これ以上の拷問は必要無い」

「しかし…」

「旦那様から拷問せよとの指示が下るまで、我らの任務はネッドの…奴の見張りと尋問だ。余計な事は考えるな!」

親父さんの名前が耳に入り、僕は地下に拘束されている人物が親父さんであると確信する。

と同時に、団長の口振りから親父さんの事を知っている様な雰囲気を感じた。

提案を素気無く却下された部下達は、面白くなさそうにしながら言う。

「…そう言って、本当は団長自身がネッド・ミラーを拷問したく無いだけなんじゃないですか?」

「そう言えば、団長とネッド・ミラーで昔の知り合い…ってより、友人だったんでしたっけ?そりゃ、友人相手に拷問はやり辛いですよねぇ?」

部下2人が嫌味ったらしく言ったのに対し、団長は心底怒った様子で言葉を返す。

「旦那様からの指示があれば拷問する。それが俺達の仕事だ。そこに昔の友人である事など関係無い」

言葉の端々から若干の迷いを感じるものの、命令には忠実であるべきと弁えている様子だ。

しかし、部下達には伝わらなかったらしく部下達は更に言った。

「旦那様が団長に気を遣われて拷問の指示を下せないって事は考えられないんですか?

ここは団長自ら拷問して公私の区別が出来ている事を証明して…」

部下の言葉をそこまで聞き、団長は得意げに提案する部下を思い切り殴り付けた。

「公私の区別がつけていないのはどっちだ!?

貴様達は”正義”を盾に人間を拷問して痛めつけたいだけだろう!?

貴様達の憂さを晴らしたいがために、人を拷問するなど容認出来る訳が無い!

一体、何のために貴様達をここまで連れて来たと思ってる!

性根の腐った貴様達を領地に置かず連れてくる事で性根を叩き直す為だ!

立場も弁えずに貴様達の娯楽の為に任務を利用するな!!」

団長の強烈な叱責を受け、部下達は悔しげにしながら口を固く閉ざす。

反省している様子が見られない事から、団長の言い分は間違えていないらしい。

「…どちらにせよ、所用で席を外された旦那様が戻れば、再び拷問されるだろう。今は奴を休ませる必要がある。…死なせては意味がないのだからな」

その言葉で言い争いを締め括り、3人は階段を上って行った。

3人が1階へ上がって行くのを確認した後で、僕は1人、部屋に閉じ込められている親父さんの元へ急いだ。

部屋の前まで来てドアノブを引いたが、当然の様に鍵が掛けられている。

鑑定眼で見える人影から、ぐったりと項垂れている様子が窺える…。

…何とかして鍵を開けなければ…。

何処かに針金の様な物でもあれば…。

と、思いながら周囲の様子を探ろうとした、その時!

「…むぐっ!?」

後ろから男の手が伸びてきて、口を塞がれてしまった!

しまった…!

こんな所で見つかってしまうとは…!!

もう少しで親父さんに会える所だったのに…ここまでか…。

僕は作戦失敗への悔しさに目を閉じた。

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