126.第18話 6部目 代わりの足掛かり

「レオン!お前がどうして家に居る!?休憩時間はとっくに終わってるんだぞ!」

「うっわ!村長サンじゃん!ビビったー!」

怒髪天な様子の親父さんが怒鳴りながらレオンくんに詰め寄る。

どうやら、サボタージュしたレオンくんを探していた様で息が切れている。

もしや、僕に声をかけた時点で休憩時間は終わっていたのか?

…だとするなら、僕から状況説明と弁明をせねばならないな。

「父ちゃん父ちゃん。レオンくんを家に呼んだのは僕なんだ。だから、レオンくんばかりを責めないで」

「あぁ!?何だって、こんなクズを家に呼び込んだ!?」

「うわー、村長サン、ひでぇの!俺とテッちゃんは秘密を打ち明けたマブダチなのにー!」

「黙れ!お前みたいなクズがテオに近付く……は?」

あぁ…。僕から話せば、少しは怒りを抑えられたかもしれないのに…。

…レオンくんはどうも、親父さんを怒らせたい節があるようだなぁ。

「レオンくん…僕から説明するから、ちょっと…ね?」

そう言いながら、僕は口に指を当てた。

するとレオンくんは両肩を一瞬竦めてから、口にチャックをする仕草をしてそっぽを向く。

「…どういう事だ、テオ」

そう聞く親父さんの目に殺意が宿っている。

勿論、僕に向けた物ではないのだろうが…実に恐ろしい。

「冬眠から起きてきた緑丸くんと外で話し込んでしまっていた所を、レオンくんに見られてしまったんだ。

言い訳も通用しない状況になってしまったから、僕が転生者である事をレオンくんに打ち明けた。

その上で、黙っておいて欲しいとお願いして聞き入れて貰った所だよ」

僕の説明を聞いていく度に親父さんの顔が強張っていく。

今にも怒鳴り散らして暴れ出しそうなくらいの怒りを必死に抑えつけている。

「その代わり、風呂作って貰う約束だけどねー」

そこへ黙っていてくれると態度で示した筈のレオンくんが、嫌なタイミングで約束の内容を口にしてしまった。

そしてその行動は当然の様に、親父さんの苛立ちを最大限に引き出してしまった!

親父さんは物も言わずにレオンくんの襟首を締め上げる!

「お前が…お前がテオを脅したのか!?」

「ぐっ…!ちょっ…!テッちゃん!この暴走鬼人止めて!!」

「…父ちゃんが怒る様に、態々口出したんだから自業自得じゃないかな?」

「テ、テッちゃんもひでぇ!」

「黙れ!このクズが!お前にテオを罵倒する権利は無い!!」

とは言え、怒りで何も見えなくなっている親父さんをこのままにしておく訳にはいかない。

しかし、僕が何を言っても聞き入れてくれそうに無いほどに怒り狂っている…。

果たして間に入って、止めてくれるだろうか…?

そう思いながら、止める手立てを考えていると。

「ネッド。落ち着いて、ね?2人が話してる間、私はずっと此処に居たの。

レオンくんはテオを脅してないし、テオも嫌々話してた訳じゃないわ」

「アメリア…!お前まで、こいつの味方を…!」

「私はいつでも貴方とテオの味方よ?テオが決めて、レオンくんに打ち明けたの。そのテオの話をもっと聞いてあげて?お願い…」

「…~っ!」

お袋さんに静かに諭された親父さんは、悔しそうにしながらレオンくんを突き放した。

うーむ…。やはりお袋さんは我が家でも最強だなぁ…。

ともかく、これでマトモに話し合いが出来そうだ。

少しの冷静さを取り戻した親父さんに、僕は改めて事の経緯を話し、銭湯の建設をしたい事を言った。

何もレオンくんだけが特別扱いを受けるのではなく、村全体で共有出来る物を建てたいのだと言う事を全面に押し出し親父さんを説得する。

話を聞いて行く内に完全に冷静さを取り戻した親父さんは、僕の提案を聞き言った。

「ー…話は分かったが…そんなに必要なものか?その…セントウって奴は…」

「これだから、日頃水浴びしてる原始人は…」

「レオンくんは、お口にチャックしたんじゃなかったかな?」

親父さんの疑問を聞き、空かさず煽り文句を言おうとしたレオンくんに、僕はにこやかに聞く。

僕の意図する所を理解したのか、レオンくんはもう一度口にチャックをする仕草をしてから縮こまった。

「えぇっと…銭湯の有用性についてだよね?」

「お、おう…」

何故か親父さんまで窮屈そうな反応を見せたが、僕は体を清潔に保つ事で病気を予防出来る事を説明した。

「僕がこの前、熱を出して寝込んだ事があったでしょう?

あれは多分、ここ最近の朝晩の気温差と、人が増えた事で体が耐え兼ねたからだと思うんだ。

気温差はともかく、人が増えれば雑菌も増えるし、雑菌が増えればそれだけ病気になる可能性も高くなる。

でも、暖かいお湯で雑菌を洗い流す事が出来れば、格段に病気の脅威から身を守れる筈。

体温を適度に保つだけで、かなり違うしね」

「そういえば…おばばが言ってたわ。熱湯で大抵の悪いものは死ぬって…」

僕の説明を側で聞いていたお袋さんが言った。

…親父さんの足の傷を縫う際に、縫針を熱湯につけた時の事を思い出しての事だろう。

おばばは元々産婆だし、そう言った知識がぼんやりでも普通の人より有るようだ。

「うん、正にそれだよ。まぁ風呂はそこまでの熱湯にする必要はないけどね」

「…そうか。風呂に入れば医者も必要なくなるのか?」

「そこまでの効力は無いよ。ただ、予防だけは出来る。でも、とても大切な事だよ」

僕の説明を聞き、親父さんは村長の顔をして考え込み出した。

暫くしてから親父さんは決心して口を開く。

「分かった。作ってみろ」

「ありがとう、父ちゃん!」

建設許可を貰った僕が空かさずお礼を言うと、幾らか親父さんの表情が和らぐ。

しかし、次の瞬間には真面目な表情に戻った。

「だが…テオ、お前1人じゃ流石に作れないだろ?俺は…手伝えないぞ?」

無理もない。村長としての仕事や、村のあちこちで盗賊団の彼らが働いているのを監視しなければならないのだ。

幾らなんでも銭湯建設にまで、親父さんを駆り出すのは働かせ過ぎだ。

「うん。だから、父ちゃんにお願いがあるんだけど…」

「あ?何だ?」

願いの内容を聞く前に、願いを聞き入れる体勢になる親父さんを見て、僕は満面の笑みで言った。

「レオンくんを僕に貸してくれないかな?」

「…あぁ!?」

突拍子もない事を言われ、親父さんは受け入れ難そうに声を上げた。

親父さんがレオンくんと僕を一緒に居させたく無いのは理解出来る。

親ならば子供を危機に晒した張本人と居させたく無いと思うのは当然だ。

しかし、これは親父さんの苦労を取り除く事にもなるから、受け入れて貰いたい。

「レオンくんには僕の秘密がバレちゃったけど、逆に言えば気兼ねなく一緒に行動出来る相手が出来たとも言えるんだ。父ちゃんみたいにね。

父ちゃんが村長として忙しくなってきたから、僕の行動に制限が掛かっちゃってやりたくても出来ない事が増えてきちゃったし、丁度良いと思うんだけど…」

正直な所を話すと親父さんは言い返し辛そうにしながらも反論してきた。

「そ、それはそうだが!よりにもよって、こいつと…!」

「レオンくんには拘束魔法も掛かってるし、僕に危害が及ぶ事は無いよ。

そもそも、風呂を作りたいって言い出したのはレオンくんだし、働いて貰って何ぼだと思うよ?」

「えっ」

僕の言葉を聞いて、今まで黙っていたレオンくんが驚いた様子で声を上げた。

恐らく僕がレオンくんの心意を偽った事に対する驚きだろう。

だが、これ位の嘘は許容して貰わなければ困る。

一々、親父さんを怒らせ話の進みを遅らせたのだから。

更に言えば、働かざるもの食うべからずと言う言葉がある様に、レオンくんが銭湯作りに参加しないのなら、銭湯に入る資格はない。

一番に欲しているのはレオンくんであり、言い出しっぺはレオンくんなのだから。

僕の秘密を握ったとは言え、レオンくんが言った様に僕の秘密をバラしたとしてもレオンくんが得する事はないのだ。

精々、僕を困まらせるだけ。

「一緒に頑張ろうね!レオンくん!」

「…ぉ、おー!」

力なく拳を突き上げ同意したレオンくんを見て、親父さんも観念した様で僕とレオンくんの同行を許してくれた。

僕は自由に行動出来る切符を手に入れ心底喜んだ。

その様子を見た緑丸くんが、後々になって僕を化物だと言ったのは別の話である。




第18話 完

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