34. 第4話 6部目 説教
僕は一息吐いてから、お袋さんに嫌がる理由を問う。
「どうして、そんなに嫌なの?」
「だって…可哀想でしょう?小さい動物を痛めつけるなんて…」
ふむ。普段からのんびり優しいお袋さんらしいと言えば、らしい答えだ。
「うん。そうだね。動物を故意的に痛めつけるのは可哀想だ」
「そうでしょう?」
僕の同意を得られたからか、お袋さんは嬉しそうにしながら毛布の中から顔を出してくれた。
「なら、父ちゃんは故意的に動物を虐める人なのかな?」
「…え?」
思ってもなかった疑問をぶつけられて、お袋さんはきょとんとする。
「どうかな?」
駄目押しにもう一度、問う。
「そっそれは…違うわ…」
僕よりもよっぽど親父さんの事を知っている、お袋さんの口から出た言葉なら、それは真実だろう。
親父さんは不必要な殺生をする人ではない筈だ。
協定を結ぶ以前はキリキリムシを握りつぶすなんて事もしていたが、それも僕たちの食い扶持を確保するための行動である。
「なら、どうして父ちゃんは鳥を狩って来たの?」
「…食べるためでしょう?」
「うん。なら、食べずに肉を腐らせてしまう方が、よっぽど可哀想だと思わない?狩られた鳥も、苦労した父ちゃんも」
僕の言葉1つ1つにお袋さんは複雑そうな顔をしながらも、考えを巡らせている。
「遊びとして、動物を痛めつけるのはいけない事だ。
でも、食べるために命を奪う事は、どんな動物もしている事だよ。
鳥だって虫と言う命を、啄ばんで生きているんだからね」
「そうだけど…」
言わんとしていることは分かるが、理解したく無いと言った風にお袋さんは悩んでいる。
そこに僕は、極単純な質問をお袋さんにしてみた。
「母ちゃんは、肉を食べるのは好き?」
「え?…えぇ。鶏肉は大好きだわ」
戸惑いながらも、好きだと言ってくれたことに安堵する。
「なら、食べようよ。きっと、美味しいよ」
何せ、血抜きは完璧にされているのだ。
鶏肉は血抜きが完全だと臭みがなくなって美味い。逆に不完全だと不味い。
その点で考えれば、あの鶏肉は美味いに違いない。食べなければ損だ。
「大丈夫。ちょっと火を点けてくれれば良いんだ。いつも料理する時みたいにね。そうしたら、あとは僕と父ちゃんで仕込んでおくから」
我ながら悪徳業者みたいな言い方になってしまった事に、笑いがこみ上げて来そうだった。
しかし、そこに嘘偽りは無い。
「……分かったわ」
渋々そう答えて、お袋さんは毛布から出て来てくれた。
そして、台所の一箇所に書いてある魔法陣に向けて、魔法を使い火を点けてくれる。
これが我が家のコンロである。普段使えるのは、お袋さんだけだ。
「ありがとう、母ちゃん!」
「…どういたしまして」
火を点けた後、お袋さんは顔色を悪くさせながら、とっとと奥の部屋へ戻って行ってしまった。
どうやら、目の端に羽を毟られた鳥の肢体を捉えてしまったらしい。
本当に、この手の事はダメな様だ。
うーん…。徐々に慣らしていくしか無いかな。
いつまでも、この調子では養鶏なんて始めようものなら、毎日お袋さんを泣かせる事になりそうである。
そんな事を考えていたら、急に視界がぐわんぐわんと揺れた。
親父さんに勢いよく頭を撫でられている様だ。
「…ありがとな」
「へ?」
一頻り撫でられた後、言われたお礼を僕は不思議に思った。
だが親父さんはそれ以上には何も言わず、鳥の産毛を炙る作業に入ってしまっていた。
怪訝に思ったが一々聞くのも憚られたので、僕も黙って作業に戻る事にした。
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