第147話 シアの現在

「お、覚えて……います……」


僕は驚きながら答えた。


覚えている……と、いうか忘れられるわけがない。


良い意味でも悪い意味でも僕を変えた出来事だし、これからどんなに時間が経とうと忘れることができないであろう出来事だから。


「えへへ、良かった」


そう笑った彼女は、あのときと全くといっていいほど変わっていなかった。服が制服になっていること意外は。


「学校、通えたんですね」


僕は彼女の姿を見て、つぶやく。


その言葉に、彼女は一瞬固まって……腹の底からおかしいと言わんばかりに顔を崩した。


「はい、通えましたよ。誰かさんのおかげで。」


彼女はどうしたのかと首を傾げる僕に、とても楽しげに微笑みながら告げる。


「ナームさんは元気で?」


僕の恩人でもある彼は元気なのだろうかと尋ねた。


「えぇ、相変わらず」


出たお腹は引っ込まないですけど、そう言ってシアさんは笑う。


その姿が、あまりにも普通の少女のようで、まるでそのことを何も気にしていないようなので、僕はつい、変なことを口走ってしまう。


「怪我は、大丈夫ですか」


その瞬間、その場に一瞬の沈黙が訪れた。


僕がやってしまったとシアさんの顔を見るが……彼女は怒るでもなく悲しむでもなく、なぜかとても嬉しそうに微笑わらっていた。


「はい、全然」


そういった彼女に嘘はないようで、僕はどこか安心した。


『それは良かった』


僕がそう口にしようとしたその時、


「前進むぞ〜!!!」


前方から先生の大きな声が聞こえた。


僕はハッとして前を見る。

生徒の列が徐々に動き始めたところだった。


「惜しいですけど、お別れですね。」


僕はそう言って前へ進もうとするが……不意に服の袖を引っ張られて止まる。


振り返ると、うつむいたシアさんが僕の袖を持っていた。


どうしたのかと僕が顔を覗き込もうとすると、彼女はおもむろに顔を上げ、


「また、会えますよね……?」


そう、わずかに瞳を潤ませながら尋ねてきた。


ッ!!!!!


僕は彼女の姿に息を呑んだ。


なぜなら、こちらを見上げる彼女がいつかのリリア様に重なって見えたから。


瞬きをしてもう一度見れば、そこにいるのは紛れもないシアさん本人。


気のせい……かな?


僕は不思議な気分になりながらも、答える。


「えぇ、もちろん」


彼女は僕の答えに、満足そうに微笑んで、


「じゃあまた!!!」


そう言って、去っていった。


「また」


僕はその背中を見ながら、小さな声でつぶやいた。


過去は変えられない。けど、未来は変えられる。


その言葉に間違いはないのだと、思いながら。

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