第6話 VSオーガ
「グルルルル」
唸るような音を出しながらこちらを伺う赤い巨体、オーガだ。
全部で3匹………じゃなくて4匹。
前に出ている3匹の後ろでこちらを値踏みするように見ている周りより小さな一体。
あいつは………強い。
僕は感覚でそう思う。
前の3匹は棍棒のようなざっぱな武器を持っているが、後ろの奴は日本刀のような刀を持っている。
「「「グワァァ!!」」」
3匹が同時にこちらへ走ってくる。
「ふーーー」
僕は息を吐き、震える足を拳で殴りつける。
怯えるな!
前を向け!
剣を取り、相手を倒すんだ!
オーガはそんな僕のことなんて知らず、どんどんと近づいてくる。
ゴブリンなんかとは違う明らかな
気を抜けば。いや、気を抜かなくても殺される。
そんな、恐怖が嘲笑いながら僕に寄り添ってくる。
僕は耐えきれず後ろに下がり、振り返る。
「っッッ!」
僕の目には見えた。否、見てしまった。
震えながら怯えた顔をしながらただ見ているだけの、時間が経つのを待っているだけの弱い、
「駄目だっ!」
僕は手に持つ剣で太ももを斬りつける。
ポタポタと赤い血が滴り落ちる。
不思議と痛みはない。
まだ震えはあり、怖さもある。
でも、その怖さは死への怖さではない。
何もできずただ
そう、何もできずに
「グウォォォ!!」
10m程のところで僕を仕留めようと声を上げるオーガに僕は握りしめ直した剣を向け、吠える。
「攻めの型ぁァア!!!」
オーガの振るう棍棒をステップで避け、剣を胸に目掛け振るう。
「グォォォ!」
僕に切られたオーガが血を流し他の2匹の後ろへと倒れこむ。
「「グゥぉぉぉオ!!」」
2匹は仲間を傷つけられた怒りからか、隙が出来るのを顧みず、大きく振りかぶって僕に目掛けて棍棒を振り下ろす。
「ゴブリン流、攻めの型。二連続。」
僕は剣を横薙ぎに振り、血を落としてからそうつぶやき、2匹に同時に肉薄する。
ブシュゥ
僕が振った剣に捉えられた2匹は血を吹きながら地面に倒れる。
僕は勝っても対して喜ばず、屍の奥に見える
「グルゥ!」
小さなオーガは手にする大きな剣を構え僕を見据える。
その目には先程のような見下した余裕の色はなく、本気が見えた。
「さあ、戦いを始めようか。」
いつかのゴブリンにかけた言葉を僕はオーガに投げる。
ここからが本当の
◇ ◇ ◇
「
「
僕はオーガの剣技を真似ようと完全記憶の魔法を使い、強化系の魔法をかけ全力を開放した上に
「
剣を燃やす。
このオーガには本気を出しても勝てるかわからない。そう感覚でもわかるし、賢者様も警告を鳴らしていた。
ビュン
オーガが溜め無しで放った剣を咄嗟に左に避ける。
姿勢を立て直す暇も与えられず二発目が僕の首をめがけ迫る。
僕は地面を転がり不安定な姿勢から飛びかかる。
「攻めの型!」
オーガは剣技を放ち終わり、無防備だった。
いける!
そう思ったのも束の間、オーガはあざ笑うような顔をして余裕そうに僕の剣を跳ね返す。
「クソッ!」
僕はオーガからの突きに空中で守りの型を取る。
「グォゥ」
剣先の勢いを殺しきれずお腹に力がかかり、血を吐きながら地面にへばりつく。
僕は地面をへばりオーガから距離を取る。
そして体を起こした時、目に映るオーガの構えに驚愕する。
オーガはこれで終わりというように、剣を後ろに引き、構えていた。
これは僕でもわかる、日本で武芸としてあった抜刀術。その姿勢だ!
このままだと
僕は感覚的にそうわかった。
避けるようとしても多分間に合わないだろう。
そう思った僕は体を捻り、剣の刺さる場所を心臓からずらす。
「グハァァ」
痛みが急激に体に襲いかかる。
が、狙い通り剣は僕の肩の辺りに刺さっていた。
僕は痛みを紛らわすように地面を思いっきり踏みつけ、構えを取る。
「ゴブリン流、感覚の型ぁァア!」
「グヮ?」
オーガは肩に剣が刺さったまま反撃しようとしている僕を疑問に思ったのか一歩後ろに下がるが、
「もう遅い!」
僕は屈めた足を一気に伸ばすことで生まれた、圧倒的な速さでオーガに肉薄する。
咄嗟にオーガは自身の剣を取ろうとするが、そこに剣はない。
そう、僕の肩に刺さったままなのだ。
「グワァァ………」
オーガは僕を見つめて、ふいに優しい顔をする。
辺りを束の間の静寂が支配し、その後
「グウゥアァァァァ!!!」
というオーガの断末魔と血が吹き出す音が聞こえる。
僕は肩の剣を抜き、自分の剣を薙いで血を払って鞘に収める。
オーガに近寄ると、彼は僕の剣の炎で燃えていた。
「強かったよ。ありがとう、そしてごめんな。」
僕は手を合わせ、他の3体にも火を放つ。
「勝ったぁ……。」
燻る4つの焔を最後に、眠りについた。
◇ ◇ ◇
僕は深い意識の渦の中にいた。
そこには何もなくただ、自分が存在しているのは判る。
「ぐっ、あが………がぁあ!」
頭の中に不意に激痛が走る。
僕は激痛の中、ただ意識を保とうと踏ん張る。
「な、治った?」
いきなり痛みが消えた頭を押さえる。
…………………そこには、僕のものではない記憶があった。
僕はよくわからないが、その記憶を辿ってみる。
その記憶の中で僕はこの森にいた。
何をするでもなくただ、スライムくんと戯れて遊んでいる。
剣を振ることもなく、魔法を磨くわけでもなくただ遊んでいる。
僕はその記憶を見て素直にいいなと思った。
誰とも関わる事なく、信頼の置けるスライムくんとこのままここで生きていく。
ゴブリンやオーガなどの脅威は来るだろうが、僕の力なら跳ね返せる。
それはさっき証明したんだ。
でも…………だからこそ、僕は続く記憶に戦慄した。
僕の目の前には、赤井がいた。
しかも、一人ではなくクラスメイトと大量の騎士のような人とともに。
『おま……な…こ……す。い……い…わけな……か。い…………殺す…。』
僕は
殺す。
たしかにハッキリそう言っていた。
記憶の中で僕はその言葉に対してゴブリンの剣を抜き、魔法を左手で出して勝ち誇っていた。
対して赤井はそんな僕を見下すように顔を歪める。
そこからの記憶、僕は見たくもなかった。
結果なら分かっている。
あの僕では勝てない。
多分記憶の中の僕は、オーガを倒したことで調子に乗り、剣を振ることを止め、魔法を使うことを拒んだ。
いや、慢心していた。自分の力に。
今まで誰かに押し付けられていた。
その分、手に入れた力に僕は傲慢になっていた。
大して訓練していない帰宅部の僕に対して、赤井は柔道部の主将だし、どこで教えて貰ったのか分からないが剣術を使えていた。
ただ、その赤井の剣技も客観的に見れば今の僕よりは上手いが、後ろにいた騎士の人たちよりは鍛錬が足りない気がした。
僕は………そんな赤井にも及んでいなかったんだ。
そこまで考えたところで、僕の頭には再び激痛が走る。
「グッ………アッ……ハァ」
僕は激痛が収まるとともに急激な眠気に襲われて、意識を手放した。
◇ ◇ ◇
「グッはぁ、はぁ……!」
僕は勢いよく起き上がる。
「ゆっ夢………なのか?」
夢を見てる感覚に近かった。
でも…………あれは夢として放っておくにはあまりにも現実的過ぎた。
「強く…………ならないと。」
僕はこの世界に来て何度目かわからない覚悟をした。
ぼーっとなんてしていられない!
僕は立ち上がり、未だに怯えているスライムくんを一撫でしてから、剣を取る。
今まで使ってたゴブリンの短剣は腰に挿して、僕はオーガが使ってた日本刀らしきものを手に取る。
刃の長さが70cm弱、しなった刀身と、この黒と銀の見た目。
間違いなく日本刀だ。
「
僕は刃こぼれやサビを魔法で直し、剣を振るう。
ビュウンと
僕の体に丁度いい長さだ。
僕はこの剣と共に素振りを開始する。
「違う!もっと強かったはず」
未だに僕の目に焼き付いているオーガの剣技、いや、あの技はオーガというよりこの刀を手にしていた彼の技だ。
その証拠に最後に見せた後ろに刀身を大きく引く技は、日本刀専用の抜刀術だ。
賢者様が言うに、普通の剣技ならゴブリン流のほうが使い勝手がいいらしい。
なので今回行う鍛錬は二つだけだ。
一つ、空中の僕に向かって放った剣での突き。
ゴブリン流の中に突きの技はないので、是非とも習得しておきたい。
二つ、奥技のようなあの最後の抜刀術。
僕は咄嗟に体をずらしたので死ななかったが、あの圧倒的な速さは普通ならまず避けられない。
それに…………気づいたら切られていて、一撃で終わらせる神速の技って……カッコいいじゃん!
「ふぅーーーーー」
僕は全身から力を抜き、剣の鍔に手を当てる。
そして、一瞬で全神経に力を加える。
体はいきなり0から100の負荷がかかったことで、まるで何かに押されたように前方に急加速して動く。
そして、その速さに合わせて剣を振るう。
……………シュン
少しの間をおいて刀が振られる音が聞こえる。
音をも切り裂く音速超えの剣だ。
340m/sを超えているのだ。
「でも、こんなんじゃない。」
あの時オーガが放った一撃はこれよりも圧倒的に速かった。
それは、世界一速い物質
「ひかり………か」
その速度を越えようとするくらいに。
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