第98話 放課後のきのこ

あの後はずっと座学で、そのまま放課後を迎えた。


みんなお待ちかねの放課後だぁっ!!

といってもヒスイはお勉強、マッソとフェルンくんも用事があるって言ってたから、僕は一人ギルドへ向かった。


「今回はどうしようかな……。」


僕はギルドのボードの前でつぶやく。


特別依頼もいいんだけど、今日は無難に普通のやつ受けようかな。

Bランクまではあがったから、特Bまでなら受けられるからね。


今日はスロもフローラたちも連れてきてないし。


「結構すごいな……。」


特Bのところを見ているけど、やっぱり格がちがうというか報酬も難易度も高いな。


うーん、どうしよう………。


少しチャレンジするか、無難に行くか。

悩みどころではある。


「…………えいっ…」


僕は悩みに悩んだ末、少し難しい方の依頼を手に取った。


理由としてはその内容が面白そうなのと、報酬が高いから……

お金はありすぎる分には、困ることなんてないのさ。


「これお願いします。」


僕はいつものお兄さんのところに行って、紙を差し出す。


「かしこまりました。」


お兄さんは頭を下げながらも、素早い手付きで依頼書を処理していく。

す、すごい…………流れるような作業…。


「いってらっしゃいませ。」


ポンと最後にはんこを押したお兄さんが、僕を見上げて笑う。

ぷ………プロだぁ…。


「あ、ありがとうございます!」


僕はお兄さんの技に驚きながらも、そう頭を下げて、受付をあとにした。


 ◇ ◇ ◇


「さぁて、やって参りましたきのこ採集!!!」


スポーツ実況者のようなハイテンションで、僕は叫ぶ。

かなり大きめの声だけど、ここならば遠慮なく出して大丈夫さ。


何故ならば、山だから。

そう、山の中だから。


学園都市から少し離れた、山の中腹辺りを僕は歩いていた。


ウッドモンスターのときの山の隣くらい。

ただ、こっちの方が整備されてるみたいで圧倒的に歩きやすいし、木とかも少なめの印象。


「きのこを一本取ってこい………本当に清々しいほどのシンプルさだよね。」


僕は笑いながら、依頼書の内容を思い浮かべた。


条件は表が青色で裏が金色。


まず表が青色ってところで毒キノコ感がすごい。

そして、裏は金色。


そんな鮮やかな色のきのこが、自然界に生えていていいものなのか。

僕が動物だったら絶対にそんなきのこ食べなくないもん。


「でも、そんな毒キノコがお薬に必須なんだから、世の中わからないよね。」


このきのこ、何でも心臓の病気の特効薬になるらしい。


しかも本当にちょっとでいいから、一本で何百人を救えるというコスパの良さ。


「ふんふふんふふーん」


僕はきのこに思いを馳せながら、鼻歌交じりに山を登っていった。




◇ ◇ ◇




「………………い……」


僕は膝に手をついて、ひねり出すようにつぶやいた。


「………ない……」


山はもう登りきって、今は山頂にいる。

いつもいるはずの魔法学園を上から見下ろすのは、また違った発見があって楽しい。


「…ないんだ……」


だがしかし。

どんなに発見があったとしても、ないものはないんだ……。


「青色のきのこなんてなぁぁあああい!!!!」


なぁぁああい……

なぁあい……

なぁい……


僕は響いていく自分の声を聞きながら頭をかく。


山を登り切るまで2時間。


普通に登ってたら時間がかかりすぎるから、魔法で少し強化をして登った。

そのせいで確かに視認は完璧じゃないのかもしれない。


「でも、それにしても一本もなかったよ……。というか青色のものなんてなかった!!皆、緑とか茶色なの!!!」


僕は荒くなる息をそのままに叫んだ。


「……………帰りはゆっくり行こう…。」


なんか虚しくなってきたから、僕は山を下りることにした。


依頼書に見つけられなくても罰金はなしって書いてあったから、何も見つけられなくても問題はないんだ。


けどそれだと僕、放課後に一人で山に登って叫んだやつになるじゃん?

それはプライドというか、心がやられるからできることならば見つけて帰りたい…。


「ふんふふんふ………ふんふ……ふんふんふふ…」


明らかにテンションの落ちた鼻歌を歌いながら、僕はトボトボと下山していく。


「きのこ………きのこ……きのこ……」


青色のものはないし、きのこ自体も少ない。

たまに群生地みたいなところがあるけど、それ以外はほとんどきのこはない。


あるのは木と草と蔦。

見渡す限りの緑&茶。


もはや清々しいね。


「あっあれは!!!?」


僕は視界の端に丸いフォルムを捉えたので、すぐさま近づく。


「って、赤色か………。」


そのきのこは真っ赤で普通の毒キノコみたいだった。


「青なんだよねぇ……。」


僕は落ち込みながらも、再び下山の道を辿る。


「きーのこ…きのこきーのこ……きーのこきのこきのこ……」


謎リズムのきのこの歌を歌い始めた頃、僕はふと立ち止まった。


なんだろう、この違和感………。

かすかだけど見える光景に違和感を覚えたけど、僕は気のせいかと歩き始めて、


「…………おかしい…」


再び止まった。


やっぱり何かおかしい。

どこからかは分からないけど、圧迫感というか、何かの存在みたいなのを感じるのだ。


「っ!!?」


僕は瞬時に振り返って、辺りを見渡す。


「気のせいじゃないと思うんだけどな………」


周りを見渡してもやはり見えるのは木ばかりなので、勘違いかと僕は前を向きかえって…………


「っ!!!!!」


…………驚愕の声を漏らした。


すぐにバッと後ろに大きく飛び退いて、僕はそれの全身を確認する。


「う、牛?」


そこには、大きな牛が立っていた。


「モォォオオオ!!」


僕がこの子は何なのだろうかと観察していると、牛がのんきな声で吠えた。


「わっ!!」


僕はいきなりのことでびっくりしてしまって、構えてしまう。

……がしかし、牛は何もしないで尻尾を揺らしながらそこに立っていた。


牛の背中は汚れているというか、苔とかが生えていて、まるで映画に出てくる森の守護者とかそんな雰囲気だ。


「なんでそんなに汚れてる…………って!!!」


僕は牛に問いかけようとして、驚きの声をあげた。


「う、うそ…………」


なんと、牛のお腹のあたりに、青色の丸い物がついていたのだ。


「きのこ…?」


僕はそれがまだきのこだと決まったわけではないと自分を抑えつつ、少し牛に近寄ってそれをよく見る。


「やっぱり、きのこだよね………。」


このなめらかな丸みと、絶妙なテカリ具合。

これぞ、正しく僕の思うきのこ像まんまだ。


「ウモォオオオオ……」


僕がまじまじと見ていると、牛が『見てんじゃねぇよ』と言わんばかりに低く唸った。


「あ、すみません。」


僕は頭を下げて一歩距離を取る。


「モォ!」


『ふんっ』と牛が自分の体をかきながら言った。


「あ、あの………良ければでいいんですけど、そちらのきのこ、譲って頂けませんか?」


僕は裏側が金色なのも確認して、このきのこが自分の求めるものだと確信した上で、牛………いや、牛さんにお尋ねする。


ど、どうなる………?


ドキドキしながら僕は牛さんを見た。


「ブモォォ」


牛さんは『えーどうしようかな』と体をかきかきしながらこちらを見る。


「そこをなんとか、宜しくお願いします!」


僕は下が地面なので土下座はできないけど、できるだけ深く頭を下げてお願いした。


「ブォウモォオオ」


牛さんは折れてくれたのか『ちょっとだけ』と、僕の方にお腹を差し出してくれる。


「ありがとうございます!!」


僕は頭を下げながら、その青色のきのこに手を伸ばした。


ポキリ


そんな心地のいい音を立てて青色のきのこが取れる。


「うぉ……すごい………」


取れたきのこの裏側を見て僕はつぶやいた。


本当に金色だ。

しかもピカピカ光ってる…。


「ブモォオオオオ!」


金色に見惚れる僕を一瞥した牛さんが、そう大きく吠えてゆっくりと歩き出す。


「ありがとうございました。」


僕は牛さんに感謝と敬意を評して、深く頭を下げ、牛さんを見送った。


「ブモッ!」


『またな』、そう言い残して牛さんは木々の山に消えていった。


「ありがとう……ございます…。」


僕は再度大きく頭を下げ、家路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る