第46話 もう一回走るドン
レスト視点
◇ ◇ ◇
「うわぁ、でっけーーー」
襲いかかってくる魔物をバッタバッタとなぎ倒して進むこと三千里………とまではいかなくてもまぁまぁな距離を駆け抜けて、やっと宿が見えてきた。
「すっげぇぇな」
10m超えの超大型ゴーレムが宿に向かって走っている。
「真っ黒じゃん。」
ゴーレムって言ったらだいたいグレーとか銀色とかを思い浮かべると思うが、このゴーレムはまっくろくろ。日本のブラック企業ぐらい黒い。
「ガウオーーーーン!!!!」
「あっぶ!」
僕が会社で寝ずに働く会社員たちのことを思い浮かべて苦笑していたら、後ろの虎が吠えた。
最初は近かった距離も、今では数十メートル開いている。
「ウガァァァァアアアアア」
虎に持っていった目線を宿の方に戻す。
目を離しているうちにだいぶ宿に接近したゴーレムは、低い唸り声を上げて先生たちを威嚇した。
あっ!マッソとフェルンもいるじゃん。ふたりとも逃げずに戦ったんだ!
てか、生徒4人だけ?
赤井とかは?
勇者だとかなんだとか強いんじゃなかったの?
………まぁ、奴らが誰かのために戦うとかするわけないよな。
「よいしょ。はい着きました……って寝てる?」
先生たちがゴーレムに気を取られてる間に、宿の前にヒスイを下ろす。僕の背中で寝ちゃったみたいだ。
わかるよ。バスとかに乗るとあの微妙な揺れですんごく眠くなるよね。
「ウグゥ」
「ん?」
なんか虎よりもかわいい唸り声が聞こえたので振り返ると、ゴーレムが右手を振り上げて、先生たちを潰そうとしていた。
できれば僕はちょっかい出さずに先生たちだけで対処してほしかったけど、迫ってくるゴーレムの腕に震えてる姿を見るに、無理そうだ。
「
棒読み気味に呟いて、僕はゴーレムと先生たちの間に体を滑り込ませた。
「っ!!いったぁ!!」
体を間に入れたはいいものの、ゴーレムなだけあってその腕は固く重く、受け止めている僕の腕が折れそうだ。
このゴーレム物理無効とか持ってそう。
そんなことを思いながら、ゴーレムの腕を蹴って一時離脱する。
「ガゥゥゥゥ!!!」
「はいはい分かってますって」
山の奥から響いた虎の鳴き声に言い返す。
ったく、浮気してるわけじゃないっちゅうねん。
まぁ、できるだけ早く終わらそう。
光?光の魔法がいいの?
賢者様曰く、このゴーレムにはすごい強い光の魔法が効くらしい。
真っ黒な見た目的に効きそうだもんね。
「
狙いをちゃんと定めて、光の王級魔法魔力マシマシを放つ。
「ウグゥゥゥウウウウ」
無数の光の糸がゴーレムに絡みついてその動きを封じた後、束になった糸がレーザーの用にゴーレムのお腹らへんを貫く。
「グギャァッァァァァァッァァアアアアアア!!!!!!」
真っ黒ゴーレムは断末魔を上げて死んだ。
「ふぅこれで一件落ty…」
「アゥゥゥァァァァアアアア!!!!!!」
距離を10mくらいまで詰めてきた虎が僕の声を遮る。
分かってました。分かってましたとも。
こんな
「レ、レストお前どうし…」
「あぁごめん今話してる時間無いから、また今度!!!」
なんか言おうとしたマッソを黙らせ、僕は手足をコキコキ鳴らして柔軟をする。
「ゥァァァァァゥゥゥウウウ!!!!」
もうそこまで迫った虎に押されるようにして走り出す。
「ウガァァァアア!!」
追いかけてくる虎さんは、随分ご立腹の様子。
まぁ、いきなり起こされて煽ってきた少年を何キロも追いかけてるんだもの怒りたくもなるよな。
宿で時間を食ったので僕と虎との距離もリセットされてる。
もう一回遊べるドンって感じ?
この場合出来れば遊びたくないのだが。
「まぁ魔物が出ないだけ距離もあくか。」
僕の減速の理由だった雑魚退治をしなくていいから、精霊の遺跡に着く頃にはかなり距離があいてると思う。
多分。
ってか、遺跡についても精霊さんが契約してくれるかなんだよね。
精霊の王さんでしょ?
しかも前回の契約者には裏切られて封印までされている。
そんな状況で契約したいとか思うかね?
僕だったら封印解いてもらって後はバイバイってやるよ絶対。
今回はこのしつこいストーカーこと虎の悪魔さんを倒すために力をくれればいいだけだから、どうにか説得して倒すまでは力を貸してもらうって契約に持っていきたいなぁ。
精霊王の契約者とか面倒そうだし?
一回きりのフラットな関係。
うんうん。素晴らしいじゃないか。
こっちはこのバケモンを倒せて嬉しい。
あっちは封印から開放されて嬉しい。
まさにwin winの関係。
「っと!やべ」
考えながら走ると良くないね。
ちょっと出てる木の根っこにつまずいて転んでしまった。
「アァァァアアアアア!!!!」
うわぁ、虎さんがここがチャンスだとばかりに突進してきてるよ。
これピンチかも。
「よいしょ」
すぐに体制を立て直して走り出す。
「ガァウウウウ!!」
今ので大幅に距離が縮んじゃった。
これもしかするともしかする距離だよ。
あっちが手を伸ばしたら届いちゃいそう。
「遺跡まであと………」
探索魔法を目一杯の範囲で使う。
丁度2キロ位のところに遺跡の反応あり。
そこまで頑張るか。
「ふんっ!!」
少し落ちてきたペースをまた走り出した頃まで引き上げた。
◇ ◇ ◇
周りに咲く青い花が淡い光を放つ中、花畑の主は考える。
今日は一ヶ月ぶりの満月の日。
いつもと同じように遺跡の周りには花と木しかなく、風が木々を揺らす音と虫たちの鳴き声だけが響いている。
今回の満月、花畑の主には若干の勝算があった。
昼に訪ねてきた少年たち。
彼らは皆面白かった。
一人は、エルフの王の匂いがするのに人間の血の匂いもした。
もう一人は、甞て我々精霊王と敵対した魔族の匂いがした。
そして、最後の一人。
彼は何故か魔の王の匂いと、賢き者の匂い、神の獣の匂いがした。
そして何より、この世界ではない世界の匂いがした。
花畑の主は思う。
もし、誰か人間が自分を開放したのなら喜んで契約してやろう。
己のすべての力を貸し与えようと。
そしてーーーー
ーーーー
そうだ。
来るんだ少年。
恐ろしい敵への対抗手段として我を欲するのだ。
そして安直に、何も考えず契約を結べ。
それが、お前とこの世界の最後だから。
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