第45話 テイチの攻防

Sideテイチ先生


◇ ◇ ◇


「クソがっ!!」


そう叫んでも目の前の絶望的な状況は変わらない。


宿での謎の爆発から立て続けの、大蛇襲来、魔物の大軍勢襲来。

その2つを皆の力でなんとか押し返したのに………。


暗黒の守護者と名高い闇のゴーレムGolem of darknessが襲ってくるなんて。


最低でもAランク。へたしたら特Aまで行くかもしれない。


そんな国家を脅かすレベルの化物がこんなところにいるなんて。






ドッカーーーン






一際大きな音がして俺は振り返る。


「おいおいうそだろ」


化物は待ってくれないらしく、もうすぐそこまで砂埃が迫っていた。


かなり高い木の更に上に見えるゴーレムの顔は漆黒で、硬そうだ。


「す、すぐそこだ!!」


マッソの叫び声が聞こえた直後、精神を押しつぶされそうになるような圧倒的圧迫感が襲ってくる。


「こっ、こいつはヤベェな……ハハ」


乾いた笑い声が漏れてしまった。


ヤバい。


俺らが命がけで対処した蛇やあの大群がクソ雑魚に思えてくる。


ヤベェな。


身体ピンピンさせて襲う気満々のAランクモンスターに、すでにボロボロの俺ら。

勝負は火を見るより明らかだ。


「聖女がいてもなんとかなるもんじゃねぇよこれ。シャレになんねぇ…」


赤髪の教師………チヤの言葉通り、人間たちはもう負けだと絶望して、戦うことを諦め始めている。


「ど、どうしよう…」


あんなに頼もしかったフェルンも弱音を吐いている。



バリバリバリィ



俺らとゴーレムを隔てていた木が折られ姿を表したのは、全長10mを超える巨体。


「や、ヤベェ…」


そうつぶやいた声は


「ウガァァァァアアアアア」


という唸り声にかき消された。


「ウグゥ」


その声を合図にするように、ゴーレムは手を俺らに振り下ろした。



『あぁ俺死んだな。』



本能的にそう思ったとき、人々の最後の悲鳴が響き渡ったときーーーー


















ーーーーうちの学校の制服が見えた。






誰だ?


今ここにいる生徒はうちのクラスのマッソとフェルン、あとAクラスの王子様と公爵家の子息だけだ。


しかし、その四人は戦いによって服がぼろぼろだったはずだ。


俺の視界に映った制服はきれいだった。


いなくなってたヒスイか?

いや、あいつは女だ。


じゃあ誰だ?


再びその疑問にたどり着いたとき、俺は思った。






そういえば、あんなにヒスイのことを気にしていたさっきから見ないなぁと。



 ◇ ◇ ◇


Sideレスト



ゴーゴーと風が木々を揺らす中、横幅1mほどの真っ直ぐな道を走る影が一つ。

影の前には雲が浮かび、後ろからは虎型の魔物が追っていた。


「はっ!!ほっ!!」


影は手にもつ剣を振りながら、スピードを落とすことなく道を走り続ける。


「ちょっレスト!!無理しないでよ!!!重かったらおろしてもいいからね!!」


影に背負われている緑髪の少女が肩越しに影を覗き込み、走り出して何度目かの心配する声をかける。


「大丈夫だって!!それより舌噛まないようにね!!?」


影………こと僕。


芯望唯一しんもちゆいち兼レスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファーは緑髪の少女………ヒスイの声に答えながら、襲いかかってくる魔物を斬り伏せる。


そう。僕は道を走りながら、王水雨の魔法を維持し剣を振っていた。


「はぁっ!!!」


「グワァアァァァァアアア‼‼!」


さっきすれ違った魔物が断末魔を上げながら倒れ、数秒後には胴体と頭がお別れしていた。


もらえるものはもらっとけ精神の僕だが、さすがにこの非常事態にいちいち倒した魔物の魔石を回収するなんてことはしない。


………最初はもったいないとか思っていたが…。


話がそれたな。閑話休題。


僕が王水雨の魔法を使いながら剣を振っている理由は、単純明快。

敵が強くなったからである。


最初は本当にザコ敵、多分Fランクとかの魔物しかいなかったのだが、道を進むごとに………というか、時間が経つたびにその中にDくらいの強さの魔物がまじり始め、今は、殆どの敵がDランクぐらいだ。


「チッ!!!」


知能の高い魔物が投げた石を躱し、すぐに剣を叩き込む。


「ギャァオオオ!!」


こんな魔物の断末魔を聞くのも、血しぶきが舞って倒れていくのを目の端で捉えるのも慣れた。


いや慣れていいんか思ったが、まぁ手遅れだろう。


「こっちギリだけど、これ宿は大丈夫か?……ほいっと」


足を止めることなく、もはや魔物の解体作業とかした戦闘を続けながら考える。


僕はなんとか進んでイケてるけど、宿がどうなってるのか気になる。

この事件の元凶………ターシャ先生の話だと、宿にも結構な量のポーションがあるらしいから、魔物がこの道以上に集まってると思うのだが……。


ま、あそこには先生やマッソ、後めっちゃ強いと噂のAランクの生徒たちがたくさんいるみたいだし、余裕かな。


何よりも僕はあの精霊の石碑にたどり着かないと。


僕は自称魂の友達ソウルメイトの筋肉やろうの顔を思い浮かべ、走るスピードを少し速めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る