第44話 宿の攻防−後−
「ふぅ、こんなもんか!!」
周りを見渡す。
宿に向かう魔物の数はもはやゼロに近い。
俺がパワープレーで押し切りまくり、フェルンがその圧倒的な速さで狩り残しや、危ないとこに援護に行く。
そんな感じで魔物の群れを抑えることができた。
「おつかれさん。落ち着いてきたな。」
「先生!お疲れです!!」
テイチ先生も奮闘していた。
服の至るところが裂けて、所々血も出ていたが、誇らしそうな顔をしていた。
「いや、お前なんだあの力?ヤバかっただろ。Cクラスに居ていい力じゃねぇよお前もフェルンも。………なにより俺たちで守ったんだ。この宿を。生徒たちを。誇っていいぞ?」
「俺も生徒ですけどね!!」
「「ハハハハハハ」」
二人で地面に座り込んで笑う。
「はぁ、こっちも終わったぜ」
やつれた顔の赤髪先生も寄ってきた。
「お疲れ、あの蛇なかなかしぶとかったか?」
「なかなかなんてもんじゃねぇよ。体八分割しても生きかえんだもん。」
「そりゃあスゲェや。」
先生同士で肩を組んで話し合ってる。
後ろを振り返れば、あの蛇が10個くらいに切り分けられていて、口はパッカーンと開けられ、その中に大量の毒があった。
「毒で倒したんですか!?」
「あぁ。俺らで体をズタ切りにしても生きてっから、魔術の使えるやつに思いっきり猛毒入れてもらったんだ。それでも10分くらいピクついてたんだぜ。」
ハハハ笑えねーと言いながら赤髪先生は笑っていた。
宿が守れたことが嬉しく、誇らしいのだろう。
周りを見渡せば、戦ってた先生方やあのパツキン王子達も疲労の色を濃く見せながらも、やってやったという顔で休んでいた。
「もう一回あの群れが来たらどうします!?」
俺は冗談としていった。
「真面目にやばいかもな。みんな疲労困憊。魔力回復ポーションもなくなって、まともに魔法を使えるやつもいないとなると。」
ハハハと笑おうとして、俺は気付く。
ーーーー森の奥から砂煙が立ち上っているのに。
それを目で捉えた直後、大きな音が響いた。
ドーン
ドーン
ドーン
という木たちがなぎ倒される音が。
「なんだ!!何が来るんだ!!」
テイチ先生は再び両手に剣を持ち、構える。
「おいおい、お前が言ったとおりになっちまうかもしれん………」
絶望に等しい声を上げる先生。
それもそうだ。
俺も疲労と恐怖と色んなもので足がすくんで震えてしまっている。
「うそだろ……ここに来て
二つ名として暗黒の守護者を持つそれは、ゴーレムとしての高い物理耐性を持つ厄介なモンスターだ。
そしてその上、光属性を除く、全ての魔法攻撃への耐性を兼ね備える闇属性なので、Aランクモンスターの中でも飛び抜けた強さを持っている。
それを倒すには聖女並の魔力と光属性への適正が必要なのだ。
神の代弁者とか言われる、光属性を持つものは圧倒的に少ない。
それに加えて、聖女並みの魔力量となるとそれはもはや聖女しか倒せないと言っても過言ではない。
「た、確か生徒に聖女がいた!!そいつを呼べ!!」
幸いなことに闇のゴーレムは森の木に阻まれて速度が早くなく、まだまだ距離がある。
今から呼べば間に合うはずだ。
「ーーなんでだ!!なんで駄目なんだよ!!!」
テイチ先生が他の先生に詰め寄っている。
「その、聖女の職を持つ生徒は勇者の職を持つ生徒と二人で最初に逃げましたので、今すぐ呼び戻すというのは……」
「なっ!!」
先生が怒りと驚きに満ちた声を上げる。
「何なんだそいつらは!!!!そんな高い職についていて、まっさきに逃げるんだ!!!Cクラスなのに二人も戦ってるんだぞ!!!!」
剣を思いっきり地面に差し込んで、憤怒の面持ちだ。
俺も拳を握りしめて、静かに怒る。
勇者、聖女、賢者といった職業は特別で、圧倒的な力を持つのだ。
そして、その力を持ったものは助ける義務というものがある。力を振るう義務がある。
なのに、なのに逃げるとは………。
「あぁもういい!俺らだけであれを食い止める!!生徒たちはまだ逃げ切らないのか!!?」
そうだ、他の生徒たちが逃げれていれば俺らもこの宿を捨てて逃げることができる。
そもそもそれが目的で戦っているんだから。
「半分の生徒たちは逃げられていますが、残り半分は未だに宿の裏側にいます。その、道が細くて……」
「クソっ!!!!やるしかねぇのか!!」
赤髪先生がやけくそ気味に地団駄を踏む。
ドーン
再び大きな砂埃が森から上がる。
しかし、今度はそう遠くない。
もう、すぐそこまで暗黒の守護者が来ている。
「そぉいぃぃん!!!!よく聞けぇ!!」
テイチ先生が声を目一杯張り上げて叫ぶ。
「これに勝ったら英雄だ!!国から金も出る!!多分!きっと!おそらく!メイビー!!」
うん。つまりわからないのね。
そんな適当な激励だったが、
「うぉっしゃぁああああ!!!!」
「やってやろぉおぜ!!!!!」
「しゃーねぇーーな!!!!」
他の先生たちはそれにノッて声を上げてくれた。
「僕らも頑張ろうか。」
横を見ると、だいぶ疲れた様子のフェルンが立っていた。
体に無理をしているのだろう。足は子鹿のように震えている。
だが、その瞳は変わらず熱い炎を燃え上がらせていた。
「おう!頑張ろうぜ!!」
俺はフェルンの眼前に手を突き出す。
「うん!」
固く握った手は、ボロボロだった。
ドッカーーーン
一際大きな音に振り返る。
もう後木が十数本の所に砂埃が上がっていた。
「す、すぐそこだ!!」
そう叫んだ直後、
「グ、グハァァァア」
心臓を鷲掴みにされるような威圧感が訪れる。
「こっ、こいつはヤベェな……ハハ」
テイチ先生が漏らした声に完全に同意だ。
ヤバい。
あの蛇や魔物の大群なんかが前座と言われても納得するような、オーラ。
ヤバい、こんなの勝てない。
完全な姿は木に阻まれて見えないが、そう痛感させられる。
「聖女がいてもなんとかなるもんじゃねぇよこれ。シャレになんねぇ…」
あそこまで上がった総員のボルテージは急降下。
「ど、どうしよう…」
フェルンの吐いた弱音に応じるように、バリバリバリィと最後の砦だった木が折られ、ついにその巨体が姿を表した。
木の上から見えていた頭の下には、四角い胴体と、手足が付いている。
全長で10mを超えるかという体は黒光りしていて、まるで漆黒の宝石のようだ。
その足元には無惨に折られた木が散らばり、奥には木が薙ぎ倒され、キレイな道ができている。
「ウガァァァァアアアアア」
という低い唸り声を上げたゴーレムはその右手を振り上げ、
「ウグゥ」
俺らをめがけて下ろした。
『あぁ俺死んだな。』
そう確信した時、視界が黒で一杯になりかけた時ーーーー
ーーーー視界の端に漆黒のマントが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます