第146話 退屈と運命
「疲れたぁ……」
僕は廊下を歩きながら一人で小さくつぶやく。
新学期ということもあり、いろんな行事とかなんやかんやしていたら一日の殆どが終わっていた。
座って話を聞いているだけだからさ、授業受けているよりも簡単じゃないかと思うんだけどね、これが案外きついものなのだよ。
人の話、それもとびきり興味ないやつを聞かされると、人間退屈になるし眠くなる。
その気持ちをなんとか押し殺して、あぁいかにもちゃんと聞いてますよ感、を出さなきゃいけないんだ。
なかなかに骨が折れる。
「全然進まないな……」
講堂と呼ばれる大きなホールみたいなところから、教室に戻っている途中なのだが。列が全然進まない。
全校生徒が多すぎるからね。渋滞が起きるのもしょうがないといえばしょうがない。
「ふぁぁ……」
僕がのんきにあくびをした、その時だった。
「あっ、すみません」
「こちらこそ、ごめんなさい……ッ!!」
隣の列の女の子にぶつかってしまった。
僕はとっさに謝り、相手の子も謝るが……僕の顔を見るなり何かとんでもないものを見たかのようにフリーズしてしまう。
「あ、あの何か……? 怪我とかしちゃいましたか?」
僕は心配になって尋ねる。
学園の制服を着たその少女は、胸下ほどの青髪を綺麗に編み、薄い水色の瞳の子をしていた。
とても素朴な子だが、何かどこかで見たことが……。
「あ、あ、あの、お名前うかがってもいいでしょうか……!!?」
僕が頭をひねらせていると、息を吹き返した少女はまくしたてるようにそんなことを言った。
「え、別に大丈夫ですよ。レスト、と言います。」
僕は少し不思議に思いながらも、名前ぐらいならと、自分の名を名乗る。
「あなたは?」
そして、そのままの流れで相手の名前を尋ねたのだが……。
「わ、わたしは……あのシ、シア、と言います。」
「ッ!!!!?」
今度は、僕がフリーズする番だった。
そうだ、そうだよ。なんで僕は忘れていたんだ。
この透き通るような青髪に、輝く瞳。
そして何より、今はなき片腕と、それに不似合いな、だけども美しい笑顔。
「覚えて……くれていますか?」
そうどこか不安そうな目で首を傾げた彼女は、惑うことなく、診療所の女神――――
――――シアさんだった。
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