第145話 幸せの終わり――新学期
「あぁ……学校だ……」
僕は通学路を歩きながら、小さく吐き捨てる。
本当に、望みというのはすぐに打ちくだされるものだ。
確かにわかっていた、確定した未来だった。
わかっていたのだけど……わからないようにしていた。
そうさ、そうなのさ。
夏休みは……終わるのさ。
そもそもこのお休みは田舎で人手が足りない時期だから、生徒を一時的に故郷に返したり、先生たちの休養のためにあるわけで。
それすなわち、時間が経てばいつか終わりが来るということ。
「はぁ……学校自体は嫌じゃないけど、休みが終わるのが嫌だ」
『なに屁理屈みたいなこと言ってるのさ』
僕が小さく呟いた愚痴に、魔王様が軽く笑って答える。
「嫌じゃない?」
魔王だって、働くのが嫌になったりするでしょう。王様って辛そうだし。
『私魔王だし、休みたきゃ好きに休めるし。』
そうだった、コイツはそういうやつだった……。
「ずるいぞニート」
僕は暑い日差しにイヤイヤしながら、魔王に野次を飛ばす。
『失敬な、こちとら一国の王様だぞ?』
「それで言ったら僕もじゃない?」
現在の魔王というのは、何故か知らないが僕ということになっているのだ。
『あっ、そうだった。まぁ、学校ならではの楽しみもあるでしょう。』
ちょうど魔王がそう口にしたときだった、向こう側に大きく手をふる人が見えた。
「レストー!!!!!!!」
「マッソ!!」
僕も手をふり返し、小走りで駆け寄る。
手をふっていたのは筋肉達磨こと、僕の友達マッソ。
トレーニング子爵家の息子で、本名はマッソー・トレーニング。
名前からして“熱い”男だ。
「久しぶりだな!!!! 元気だったか!!?」
彼は夏休みまえよりも幾分か厚くなった胸板を張りながら、僕の背を叩く。
「うん、マッソは……見るからに元気だね」
「もちろんだ!!! 夏は楽しいからな!!!」
ニカッと笑い、親指を立てて見せるマッソ。
相変わらずの様子で、なんか安心する。
何があっても彼だけはこのテンションだから、ある意味落ち着くのかもしれない。
「二人とも、久しぶりだ!!」
「久しぶりー!」
僕とマッソが談笑をしながら歩いていると、後ろからそんな声がした。
「おぉ、ヒスイにフェルン!! 久しぶりだ!!!」
「ふたりとも、久しぶり!」
振り返れば、ヒスイにフェルンくんが手をあげて笑っていた。
ヒスイは本名、ヒスイ・アオ・ラストレア。
子爵家の三女で、『碧の神童』というあだ名が有名……らしい少女だ。
そして、フェルンくんは、その名の通りフェルンくん。エルフの可愛らしい顔立ちとその笑顔が素敵な少年だ。
ふたりとも僕のお友達である。
「一緒に行こうぜ!!」
「うん!」
「行こう」
こうして、僕たちは四人で新学期を迎えたのだった。
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