第117話 夏休み!!?

「おはよう」


「おは!! 優勝おめでとうだぜ!!」


「おはよう。そして、おめでとう」


「かっこよかったよ。」


朝、教室に入って挨拶をすれば、マッソにヒスイにフェルンくんが挨拶を返してくれる。


「武道会も終わってもう本当に夏休みだな!!」


マッソが教室の前のカレンダーを見ながら言った。


「夏休みっていつからなの?」


僕はふと浮かんできた疑問を尋ねる。

確かに入学からかなりの時間が経っているが、夏休みの噂なんて聞いたことがない。


「何言ってるんだ、夏休みは来週から始まるぞ。」


当たり前のようにヒスイが言う。


「「えっ?」」


僕とフェルンくんの驚きの声が重なった。


夏休みが来週から? そんな話聞いてないんだけど……。


「お前ら、ひょっとして知らんかったのか!?」


マッソが僕らの様子に驚いたような顔で言う。


「そんな常識みたいなものなの? 全く聞いてないんだけど。」


「そうだよ! 夏休みなんて先生言ってた?」


僕とフェルンくんは、頭の上にはてなを浮かべて尋ねるが、


「言ってはないけど、普通に常識だと思ってるんだろう。今日の授業で詳しい説明があるって。な?」


「そういえば、表だって話したことはなかったな! 常識だと思ってた!! すまん!!」


ヒスイとマッソのふたりが、ごめんと呟いた。


別に謝ら無くてもいいし、二人が謝るようなことじゃないけど。ちょっと驚いた。

先生も少しくらい触れてくれてもいいと思う。


「というか、この学校行事は多くない? ずっと行事やってるような気がするんだけど。」


入学早々の合宿から始まり、武道会などなど。ずっと行事やっているような気がする。


「学校なんてそんなもんだろ!!」


「魔法学園だし?」


僕の疑問に二人は、これまた当たり前といったような返答をする。


「そういうもん……かなぁ?」


僕は納得できなかったが、異世界出しそういうものかと、自分を無理やり納得させた。


「レストは夏休み何か予定あるのか!? ちなみに俺はない!!」


マッソは腰に手を置いて、なぜか自慢げな表情で言い放つ。


「僕は特にないかな。」


夏休みってことをまず今知ったし、これといった予定はない。

最近行ってなかったし、久しぶりにギルドの大きめのクエストを受けようとは思うが。


「私は前半は何もないが、後半は実家に帰省する予定だ。」


「僕も前半は暇かな。あと後半も暇かな。」


ヒスイとフェルンくんがそれぞれ自分の予定を言っていく。


「あーあぁ!! そういえば、俺も実家に戻らないといけないのすっかり忘れてた!!


ヤッベーという表情でマッソが言う。


貴族にはそういうのもあるのか。

僕も一応魔王爵なんていう貴族だが……まあ、日本生まれの僕にそんなものがあるわけもなく。多分いつも通りギルドに通う生活をするんだと思う。


「授業始めるぞー」


教室の前方から入ってきた先生の言葉で、僕たちの朝の会話は途切れた。


そうか夏休みか。


僕はこの世界に来て初めての大きな休みに、少しだけ心を躍らせた。






◇ ◇ ◇






「えー、今週いっぱいで学校は終わりで、来週から夏休みが始まるぞー」


授業はあっという間に……体感はかなり長かったが、どうにか過ぎて、帰りの会。


教壇に肘を付きながらテイチ先生が、間延びした声で言う。


「先生は休みないから関係ないんだわ。お前らには宿題も出さないから、適当に遊んで楽しんでくれ。」


先生の悲しげな声と反対に、生徒たちは盛り上がる。


夏休みだもんな。長い休暇に喜ぶのはどこの世界でと同じか。


「なんか質問ある?」


はしゃぐ生徒たちを微笑ましい目で見て、テイチ先生が尋ねる。


「ないのね。じゃー帰り。解散っ!!」


誰も手を挙げないのを確認すると、彼は手に持った閻魔帳を机に叩き付けて、ひらひらと片手を振りながら去っていった。


夏休みについての説明。殆どなかったな。

分かったのは、夏休みがあるということと、結構長めということ。


もう少ししたら食物の収穫時期もやってくるし、そういうところに配慮している……のかもしれない。


まぁ、制度の殆どは貴族だから関係ないのかもしれないけど。


「俺らも出かけるか!!?」


他の生徒たちが各々集まって、夏休みの予定を立てているのを見ながら、マッソが言う。


「僕は暇だけど、どこか行きたいところあるの?」


「うーん………ないなっ!!!」


僕が尋ねると、マッソは数秒考えたあとに、清々しい笑みとともにそう答えた。


うん、なんとなく予想はしてたよ。


「やっぱ夏といえば海じゃないか?」


「森もいいよね。」


僕とマッソがどこに行こうかと頭を悩ませていると、やってきたヒスイとフェルンくんがそれぞれ別の案を上げてくれる。


「海、いいよね。」


日本では数えられるほども行ったことないけど、海は好きだ。

ザパーンと波が押し寄せてくるのを見ているだけで、余裕で一日は過ごせる。


「海かぁ、それもいいなっ!!! 炎天下のビーチで学友とともに鍛えあったあとは、こんがりと焼く!! 最高ではないか!!!」


僕の頷きに、マッソが別のベクトルで共感する。


鍛えたあとにこんがり焼くって……それ完全にボディビルダーだと思うんだけど。


「こんがり焼くかどうかはおいておいて、海いいよね。」


「ただ、山も捨てがたい。」


ウンウンと頷くフェルンくんをみて、ヒスイが言う。


確かに、山もいいよね。

直射日光も木々で遮れるし。高いところは涼しそうだし。


「山っ!! 山頂まで皆で競争しながら駆け上がったあとは、森の力を浴びながら、こんがりと焼く!!! 最高ではないか!!!」


マッソも大きく頷いて、ニカッと暑苦しいまでの満面の笑みを浮かべる。


「そんなに焼きたいのかな……。」




こうして、僕らの夏休みが始まった。

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