第72話 愚者の産声
Sideレスト
◇ ◇ ◇
「ぐっ…ふ」
肺に溜まっていた、酸素の無くなった空気を吐き出す。
「ぐぁっ……はぁ……っぷぅ……」
開けた口から変な声が漏れるが、構わず進む。
「こひゅっ……ひゅ……」
ドン
煩い肺や心臓を強烈な刺激で黙らせ、走り続ける。
「や、ヤバイって」
「にげ、逃げろー!!!!」
「む、娘を知らないか!!?」
「炎出てるっ!!」
街の人々は兎に角、外に我が物顔で居座る化物から遠ざかろうと、各々恐怖を紛らわすための感想を叫びながら僕とは反対方向へと向かっていた。
「ひゅぅ………がっ……るょ…」
口を横に広げて精一杯空気を吸い込む。
今の僕にはどれだけ吸っても、酸素が足りないように感じた。
「おっおいお前!!そっちはドラゴンがいるって!!!騎士様や冒険者とか以外立ち入り禁止っ!!!」
街の外へ出ようかというとき、不幸なことにこの非常時でも街の出入りを管理しなければならない、門番さんに止められた。
「ひっ………ふぃう……」
だが、僕は止まらない。
その代わりに少しスピードを落として、大きく生きを吸い込み、振り返らずに叫んだ。
「学園の生徒だからっ!!!!」
それは何の理由にもならないのだが、兎に角なにか叫べば納得…………
「おっおう、それなら仕方な……………くねぇだろ!!!てめぇただの学生じゃねぇか!!!」
…………してもらえなかった。
「お前止まれっ!!おい!!!まじ、報告めんどいんだって!!!てか、死ぬぞ!!!マジ!!」
叫ぶ門番さんの声が小さく聞こえた。
彼の仕事を増やしてしまうのには心痛むが、しょうがない。
それはそれ、これはこれ。
割り切らないとね。
「くっ………こっら……ひぐぅ……」
僕は何が痛くなってきた頭を叩き、その勢いで顔を上げる。
「グゥゥウウウ!!!!!!!」
こうしてたまに嘲笑うような、それでいて何処か悲しげな咆哮をあげるドラゴンが目に入った。
僕には、こいつに立ち向かう使命が…………いや。義務があるんだ。
◇ ◇ ◇
「かかれー!!!」
「一斉に斬りかかれぇ!!!!」
「魔法隊!行くぞ!!!」
「神官はまだか!!!こいつもう死ぬぞ!!」
動乱。狂乱。惑乱。混乱。脳乱。禍乱。錯乱。散乱。治乱。戦乱。争乱。騒乱。大乱。濁乱。内乱。紛乱。兵乱。暴乱。迷乱。壊乱。歴乱。
騎士や冒険者、魔法学園の先生方や、神官といった、所謂この命の危険と隣り合わせの場所にいてもおかしくないような人々が、あっちへ行ったりそっちへ行ったり入り乱れている。
まず、体が金色。
金と言っても綺羅びやかではなく、少しくすんだ金色で、左の角の部分だけは赤色。
次に、翼の部分がない。
いや。正確には有るのだが、無い。そう思ってしまうほどに簡素なのだ。
骨?のような一番上の部分が樹竜の名の通り、木枝で出来ている。
そして、そこから少し浮いたところに忍者の使うくないのような形の美しい宝石が、片方に4.5個ずつあるのみ。
それでどうやって飛んでるのか甚だ疑問であるが、この魔法世界でそんなこと言うのは野暮だろう。
さて、閑話休題。
今僕がいるのはドラゴンから2.30メートル離れたくらいの所。
周りには魔法隊の皆さんがいるが、
そして、ここから更に前に行くと、騎士さんや前衛の冒険者さんたちが
中には大剣を振り下ろしている人もいるのだが、その効果はいまいち。というか、正直無に等しい。
今の
その他の魔法じゃそもそも弾かれるし、剣もさっき言った通り、効果なし。
僕はそこまで考えてから、全体を見ようとして…………止まった。
この狂乱の場で、一組だけ明らかに異なっていたのだ。
「あれは………」
他の冒険者や騎士たちよりも明らかに良い装備をして、動きが洗練されている騎士がいた。
彼が攻撃している右足は、少ないが傷がついていて、血も出ている。
そして、その騎士の少し後ろにいる少女。
ここからじゃ丁度人の影と重なって顔は見えないが、ちょっと見えた銀髪が特徴的だった。
その彼女の周りには薄く虹のような膜がはられていて、そこからなにか凄そうなオーラが出ている。
それの効果かわからないが、魔法隊はポンポンと魔法を撃てているし、前衛の傷もすぐに治癒されている。
「っ!!!」
少女が体を動かすことによって靡く銀髪は、あの王女様を思い浮かばせた。
「グギャァァアァァアアアアアオオオオオオオオ」
「うっ!!!!!」
僕がその少女に見入っていると、
「っ!!!魔法隊!!撃てぇ!!!」
その掛け声でビュンビュンと魔法がドラゴン目掛けて飛んでいくが、大半は躱され、当たっても効果なし。
「ギャゥウウウウ」
こちらの攻撃は効いていないのに、何故か悲鳴のように咆えた
「っ!!!そっちには街が!!!!」
前衛の誰かが叫んだ通り、その炎が向かっているのは未だ人が逃げ切っていない学園都市。
「と、止めろ!!!!」
騎士の一人が叫ぶが、ドラゴンと違い人間は飛べない。
いや、魔法でなら飛べるのだが、もし飛んだとしてもどうやって止めるのかって話。
もうすでに炎はドラゴンと街の端の中間まで来ている。
「や、ヤバい、逃げ、逃げろ……逃げろぉ!!!!死ぬぞ!!!!!!」
その悲痛な叫びが表す通り、この一撃であと数秒でこの伝統的な街が、たくさんの人が、平穏な生活が、日常が、壊されるかのように思えた。
………………………………が、そんな事にはならない。
否、させない。
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