あの手この手で頑張るリリア様

「パッキーって知ってますか?」


ある日のお昼下がり。

リリア様が突然尋ねてきた。


「分かりません。」


パッキーってなんだろうか。

語感は可愛い感じで、お菓子みたいだけど。


「こういうやつなんですけど。」


リリア様は、どこからか細長い小袋を取り出して、その中身を見せて言う。


「え?ポ○キー?」


僕はそれを見た瞬間、そんな言葉を漏らしてしまう。

だって、銀色の細長い袋から、チョコのついた小麦色の棒が出てくるんだもん。


持てるようにしただけチョコがかかってないのとかも、そっくりポ○キーだ。


「いや、パッキーです。」


リリア様は首を振って強く否定する。


「あ、はい。」


その圧に押されて、それ以上は追求できない。

なんか、絶対にポ○キーと認めないという確固たる意志が感じられる。


「これを使ったゲームとかは?」


リリア様は、手に持ったポッ……パッキーを振りながら尋ねる。


「分かりませんね。」


そもそもポ○キーを食べたことがあまりないし、パッキーに至っては初対面だ。


「そうですか、レストさん。」


何故か嬉しそうに微笑んだ彼女は、僕を見つめて名前を呼ぶ。


「はい?」


いきなり面と向かって名前を呼ばれると、ちょっと戸惑ってしまう。

不思議に思っていると、リリア様は微笑みながら、


「ちょっと目をつぶってください。」


そう言った。


「え?なんでまた……」


ちょっと前にもこんなことがあったような気がしなくもない。

いきなり目を瞑れなんて言われても……。


まぁ、一応つむっておくか。


僕は怖くなりながらも目を閉じた。


「いいからいいから」


そうつぶやきながら、リリア様はどこからか取り出した布らしきもので、僕の目を覆う。


ヤバい、また怖くなってきた。


「見えますか?」


リリア様は楽しげな声で尋ねる。


「いや、真っ暗です。」


目を開けても見えるのは黒い布地のみ。

うっすら光は分かるけど、何があるかとかは完全にわからない。


「オッケーです。じゃあ口を開けてください。」


「え?あ、はい……」


僕は目を開けようとして、止まる。

今、口っていった?


何故に目隠しをされて状況で口を開けなければならないのだろうか。


ものすごく苦い液体とか、南の方の虫とか、世界で一番まずい飴とか食べさせられたりするのだろうか。


「だ、大丈夫ですよね……?」


僕は確認のためそう尋ねてから、ゆっくりと口を開けた。


べ、別に異変はないな……。


「じゃあ、今から何を食べてるのか当てるゲームをしてもらいます!」


ビクビクする僕に、リリア様はやはり楽しげに告げる。


何を食べてるのか当てるゲーム。

あれか、格付けみたいなのでやってるやつか。


僕もそこまで繊細というわけでもないが、ある程度は分かると自負している。


「分かりました。」


僕が頷くとすぐにリリア様が、


「じゃあ第一問! これなんでしょう?」


そう言って、僕の口に何かを運んだ。


うーんと、なんかサクサクしていて、それでいてほんのりと甘い。

ちょっと口の中の水分が持ってかれる感じもある。


これは、分かったんじゃないか?


意外と簡単……かも?


「クッキーですか?」


僕は若干の不安と確かな自信とともに答えた。

これは結構自信あるぞ。


「正解です! 普通のクッキーですね。」


リリア様が拍手しながら言う。


いやぁ良かった。ここを外したらこれ以降お菓子食べれないところだった。


「じゃあ次行きますね。」


あっ、まだ続くのか。

正直クッキーでも不安があったから、西洋菓子とか出てきたら分からないと思う……。


「第2問! これは何でしょう?」


そう言って運ばれてきたのは、硬いもの。


うーんと、甘いけどほんのりと苦味があって、この硬くて噛んでる感触があって、それでいて溶けるの……。


これも分かったのでは?

甘いお菓子といえばコレと言った、有名なやつだよね?


「チョコレート?」


僕はクッキーよりは不安だけど、まだ五分五分くらいの自信で答えた。


「正解ですね! こちらのシンプルなチョコレートです。すごいですね連続正解ですよ!」


「結構簡単じゃありません?」


拍手するリリア様に、僕は言う。

まだ最初だから簡単なのか、僕が相手だから優しくしてくれてるのか分からないけど、さすがの僕でもこのくらいは分かるよ。


「次はちょっと難しいかも。では、第3問!これは何でしょう?」


元気に言い放って、また僕の口に何かを運ぶリリア様。


これは…………なんだ?


クッキーとかチョコレートとかと違って、中身が詰まってないふわふわな感じ。

けど、食べごたえはあってしっかり甘い。


あとは、何かの果物の風味がするけど……何かわからない。


うーん、これは全く自信がないけど、これかな?


僕は知ってる知識の中で、最も近しいものを言うことにした。


「マフィン?」


このふわふわ感。マフィンだと思うんだけど……。


「残念! 正解はマドレーヌです!! 惜しかったですねー。」


あぁ、マドレーヌか。

聞いたことはある。じゃああの果実の風味はオレンジかな?


いやぁ、聞いたことも食べたことも多分あるんだけど、いざとなると出てこないや。


「じゃあラスト。行きますね。ちょっと待ってて下さい。」


「はい。」


ここまで3問中、2問正解。

どうせなら、最後も正解して半分以上正解を目指したい。


「よいしょっと。オッケー、準備完了です。では、これなんでしょう?」


なんかガタッというものを動かすような音がした気がする。


けど、リリア様は気にせずに進めてるし、気のせいかな?


そんなことを思う僕の口に、さいごの問題となるお菓子が運ばれる。


「…………?」


細くて、硬い。そしてこの外側の感じと、コーティングされてる感じ。


これは簡単では?

アレだよね? は行で始まるアレ。


「ポッ……」


「これは最後まで食べてくだはいね」


僕が答えようとすると、リリア様がそう言う。

なんかいつもより滑舌が悪いような、なにか咥えてるような感じがしたけど、気のせいかな?


「え? あ、はい。」


僕は不思議に思いつつも、それを食べていく。

サクサクとしていて普通に美味しい。


僕がどんどんと食べ進めて、もうそろそろで食べ終わるかなというところで、


『んぅ……』


そんな湿った声がした。


…………?


僕はすぐ近くで聞こえたその声に驚いて目を開けてしまう。


その瞬間、タイミングが良いのか悪いのか。運が良いのか悪いのか。


ひらりと、僕の目にかかっていた目隠しが取れて、


「っ!!?」


すぐそこ、本当に目と鼻の先にいるリリア様と目があった。


彼女は驚いたような顔をしたあと、一度恥ずかしそうに目を伏せると。


「分かりましたか……?」


そう、いたずらっぽく微笑んでみせた。


「え、あっ、えっと、ポッキー……ですか?」


僕は至近距離に迫った彼女の顔や、香ってくる香り、ほのかに感じる体温など、色んなもので頭がこんがらがって、そう答えてしまう。


「違いますよ。パッキーです。」


僕の答えを聞いたリリア様は、もう一本パッキーを取り出してそれを顔の横で持ちながら、満面の笑みを浮かべてみせた。

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