☆5,000達成記念SS!!

文化祭で女装喫茶、男装喫茶

「文化祭?」


僕は朝登校して、なんか普段とは違う空気が漂う教室で、マッソに聞き返した。


「そうだ。文化祭だっ!!」


マッソは当たり前と言ったような表情で言い放つ。


「うちの学園そんな行事あるの?」


そんなこと聞いたことないし、こっちの世界にそんな文化があることも初耳だ。


「無い!!けど、作った!!!」


「はい?」


堂々と腕を組んで言い放つマッソに、僕は意味がわからないと聞き返す。

どういうこと?無いのに作ったって?


神の力作者権力で、作った!!」


マッソは謎にサムズアップしながら、ドヤ顔をする。


「…………何も言うまい。」


権力怖し。


「で、いつなの?」


事前に何も言われていないのだから、せめて一週間位は猶予があるのかな。

何を出すとか、色々決めることもあるだろうし。


「今日!!」


マッソは、やはり当たり前と言いたげな顔で言い放つ。


「はい?」


「そんな長々と書けないってお告げで、今日だ!!!」


全然理解が追いつかない僕に、彼は笑って言う。


「…………何も言うまい。」


お告げ怖し。


「で、何やるの?」


即日できるものって限られているから。

飲食系とかお化け屋敷みたいな展示系も無理だろうし。

本当に、何をやるのかな。


「それは、ヒスイから発表がある!」


マッソは、隣で立っていたヒスイを指さして、自分は用済みとばかりに一歩下がった。


ヒスイはにっこりとした愛顔で一歩踏み出すと。


「ズバリ!女装&男装喫茶だ!!!!」


僕を指さして、大きな声で叫ぶ。


「…………僕帰っていい?」


僕はこの二人が敵ならばと、隣りに座っているフェルンくんに尋ねる。


「僕もちょっと予定を思い出したよ。」


彼も苦笑い気味にそう冗談めいて言う。


「みなまで言うな!!!ほら、頑張れ!!」


マッソはふんと筋肉を見せながら叫ぶ。

うわぁ、いつ見てもすごい筋肉。


「マッソはいいの?」


女の子の男装についてはよくわからないけど、彼に至っては男なわけだし女装に少しくらいは抵抗があるのではないだろうか。


「恥ずかしさなど、日々の鍛錬の成果を見せつけられると思えばなんのその!!」


マッソは一瞬も考えずに、手を後ろにそらして腕の筋肉を見せつけながら、謎に自信満々に言う。


「すげぇ、脳筋だぁ」


僕はもはや脳死で感想を述べる。

なぜ、彼はそこまでまっすぐにいられるのか。本当に、尊敬するよ()


「ほら、衣装は用意してるから。ね?」


ヒスイは身を乗り出して、手にひらひらのスカートを持って言う。


「ね?じゃなくてさ……他の皆はどうなのよ」


僕は、女装とか男装とか他のクラスメイトも嫌がるのではと淡い期待抱きながら周りを見渡した。


「おまwwもっと可愛くしろよ!」


「お前こそどこのブスだよ!!!」


男の子たちが教室の真ん中で、お互いを見ながら笑い合っている。


「ちょっとスカートの履き方違う!!」


「お前だって、ネクタイってのはそうしめるんじゃねんだよ!」


「「うるさいっ!」」


カップルと思われる男女が、文句を言いながらもお互いの間違っているところを直し合っている。


「…………何でみんな乗り気なの?」


クラスを見渡しても、普通にみんなこの状況に適応して着替えてるんだけど。


「ほら、文化祭だし?」


ヒスイは多分と首を傾げながら言う。


「でも、普通ならないんだよね。」


「まぁそうだな。」


僕の問に、マッソが頷いた。


「…………意味がわからないよ。」


本当に、いい意味でも悪い意味でも、ノリが良すぎると言うかフッ軽というか……。


「まぁまぁ、着替えてきなよ。事前のかわいさ予想では、レストとフェルンが堂々たる一位だったんだから。」


ヒスイは聞きたいような聞きたくないような情報を言いながら、僕らに衣装を押し付ける。


「うわぁ、なにその全く嬉しくない一位」


「不名誉まであるよ……。けど……そんな言うなら着ても……いいよ」


苦笑いする僕にフェルンくんは同調しながらも……何故か少し乗り気な態度を見せる。


「ふぉぇ?まさかの裏切り?」


フェルンくんはこっち側だと思っていたのに。


「いや、こんな機会なんて無いし……。」


彼は恥ずかしそうにしながらも、僕を見てそう言う。


「はぁ、こんな機会ばっかりだったんだけどなぁ。」


僕と女装は切っても切り離せない運命なのか。

そんな運命どこの誰が作ったんだ。


「けどまぁ。しょうがないか。」


ここまで着てまだ粘っていてもしょうがないので、僕は仕方なく妥協することにした。

まぁ、こうやって周りが温かい中やるのは、ちょっとほんのちょっとだけ抵抗も少ないし。


「よっしゃぁ!これもって、さぁ行った行った!!」


ヒスイは言質を取ったと言わんばかりにガッツポーズをすると、さっき渡そうとしていた衣装を引っ込めて体の後ろからまた別の衣装を取り出すと、僕とフェルンくんにそれぞれ渡した。


「え、ちょこれって……」


「え?これは……」


僕らはそれを確認して、抗議の声をあげようとするが……




………


……








「うぅ、一生の不覚……」


「こんなのあんまりだぁ……」


僕とフェルンくんは、ほぼ同じタイミングで更衣室から出た。

そしてそのまま、何も言わずに教室に戻る。


ガラガラガラ


いつもよりも大きめな音を立てて、扉が開く。


「……………」


そして、数秒間の沈黙の後。


「うわぁかわいい!!」


「うそ!!すごい!!」


「うぉぉ予想以上だぜ!!」


「写真写真!!」


「おま、写真ってなんだよ!!?」


「あっ、メタ発言…………」


「かわいい!!」


「俺、天使を見つけた」


「おいやめろ気持ち悪い」


「すごぉい!!」


そんな絶叫の嵐に襲われた。


「フェルン君。」


僕は、歓喜する教室をみて隣のフェルンくんに話しかけた。


「なに?」


「僕、今すんごい後悔に苛まれているんだけど。」


自分では見えないが、多分僕はいまものすごい無の顔をしているだろう。

そして、それはフェルン君も同じだ。


「奇遇だね。僕もだよ。」


僕達はお互いに見合って、


「「あはははは……あはは……はは…………」」


そんな力のない声で笑いあった。


まさか、こっちにきてメイド服を着ることになるなんて……。


しかも、なまじメイドという職業が確立され現存している異世界だ。

服のクオリティーが違う。


日本のコスプレ用で見る実用性のないひらひらのやつじゃなくて、しっかりと動きやすく。なおかつ見た目も良くするような工夫が凝らされた一品。


何で僕がメイド服の解説をしなければならないのか。


「いいぞ、超似合ってる!!!」


そう声をかけてきたマッソもちゃっかりとメイド服を着ているのだが……。


「マッソは、すごいパツパツだね。」


もう張り裂けそうなほどにパッツパツだ。

メイド服のお胸の部分に詰まるのは、夢でも希望でもメロンでもなく。圧倒的な筋肉。


「そうだろそうだろ!!」


彼にとってパツパツは褒め言葉のようで、実に誇らしげに胸を張って見せる。


「はーいじゃあ、お客さん入りますよ。」


僕とフェルンくんとマッソで談笑をしていると、そんな声が響いた。


お客さん?

まさか、本当にお客さんを入れるというのだろうか。


いや普通に何の練習もしていないし、教室そのままなのだけど……。


「男子は教室の机と椅子を端に寄せて、そこにあるテーブルを並べて。女子は、私について道具を取ってこよう!」


女の子の所謂委員長的な人の指示のもと動く。


「真面目に喫茶するのかな?」


僕は椅子を運びながらフェルンくんに尋ねる。


「多分?」


彼も首を傾げて笑っていた。


僕らは何も知らされていない。というか、文化祭だってのも今日始めて知ったし。

まぁ、いいんだけど。


「うぉぉぉおおお!!!!」


僕はマッソが両手一杯に机と椅子を持って運ぶのを見ながら、笑った。









「ってことで開店でーす!!」


「「「いらっしゃいませー!!」」」


皆の掛け声に合わせて、人が入ってくる。


突如?行われた文化祭なので、外部からのお客さんはなく学園内での観覧のみ許可されている。


なので人数は多くない……が、それでも。女装男装喫茶に来る人は多いみたいだ。


たしかにこの非現実感はいいけど、そこまでか?


普通に可愛い女の子がメイド服着て、カッコイイ男の子が執事服着たほうが映えると思うのだが。


「僕達は見てればいいのかな?」


「いいんじゃない?」


よく知らされていないが、女の子たちが仕切ってくれているので、自分達に役目はないと僕らは端っこに寄っていた……のだが。


「レスト君フェルン君ホール入って!!!」


…………呼ばれてしまった。


いや良くない?


マッソがその圧倒的な筋肉を見せつけながらテキパキと配膳しているし、男子は紅茶とクッキー作り。女子は接客と、もう各々仕事があるんだから。


そこにわざわざ僕らが行かなくても……。


そんな反論をする勇気もなく。


「行くか……」


「うん、行こうか……」


同じような諦めの顔をするフェルン君とともに、接客へと向かった。





◇ ◇ ◇




「お待たせいたしました。熱いのでお気をつけ下さい。」


教えられたとおりのセリフとともに、紅茶を出す。


「冷ましてくれないのですか?」


僕の初めての接客の相手となるお客様が、微笑みを浮かべながら言う。


「…………王女殿下、お辞め下さい。」


リリア様。わざわざ指名してまで来ないでくださいよ……。


「いやぁ、メイドの扱いには慣れていますから。」


彼女は心底楽しそうにおどけて笑う。


「似合ってますよ。とっても。」


僕の服をぐるっと見渡して、とってものところを強調してリリア様が言う。


「本当に、何でこんな事になったのか。」


「いいじゃないですか。文化祭ですし。」


天を仰ぐ僕に、彼女は笑って見せる。


「……文化祭がなにかは?」


「知りませんよ。」


ですよねー


至極当然とばかりに言い放つリリア様。

もう、なんか。楽しそうでなによりです。


「…………ごゆっくりどうぞ。」


僕は元気無くつぶやくと、次なる接客にむけてとぼとぼ歩いていった。


「ご注文の品お届けに参りましたぁっ!!!!!!」


マッソはあれだね。今日も元気だね!





◇ ◇ ◇





「お疲れ様」


結局、夕方まで接客をして疲れ果てた放課後。

フェルンくんが紅茶を差し出して、労いの言葉をかけてくれた。


まだ着替えていないので、彼も僕もメイド服のままだ。


普段から可愛い感じだけど、メイド服を着たら余計に女の子のように見えてしまう。


…………この感覚を僕も抱かれているのか


そう思うと、なんとなく分かるような気がしなくもない。


「フェルンくんだけが癒やしだよ……。」


僕は紅茶を受け取って口に運ぶ。

うん、疲れてるからかすごく美味しいよ。


「楽しかった?」


フェルンくんが開いたの窓に手を置いて尋ねた。


「まぁね。」


いろいろ解せないところもあったけど、全体を通して楽しかったのは事実だ。

僕がつぶやいてすぐに、


「おーい!!打ち上げで打ち上げるぞっ!!!」


教室の入口からマッソが叫んだ。

打ち上げって言えば、あれかお疲れ会的なやつ。


「はーい!!行こうか。」


フェルンくんが返事をして、僕に微笑んだ。


「うん。」


僕も笑い返して、彼とともにマッソのもとに向かった。


「メイド服で行くのか!?」


教室から一歩踏み出したところで、マッソが首を傾げて尋ねた。


「あっ、着替えるの忘れてた……」


僕もフェルンくんもメイド服のままじゃん。

半日ずっと着ていたからか、慣れてしまって違和感がなかった。


「まぁ学園の外に行かねぇしいいだろ!!」


「似合ってるぞ」


マッソと、その隣のヒスイがサムズアップして笑う。


「「…………はぁ」」


僕はフェルンくんと向き合って、ため息を一回つくと、


「しょうがないな」


「仕方ないね」


そう言って再び歩き出した。

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