短編 十五夜の満月を異世界で

「スゴイですよ!!!まんまるですっ!!」


日付の境目が近づいてくるような真夜中。

こんな夜遅くにリリア様から『月が綺麗です!』と連れ出された僕は、彼女と二人で空を見上げていた。


「満月ですね。」


すすきに囲まれたところで、隣りに腰掛けたリリア様へと返答する。


「スゴイですっ!!!こんなに綺麗なの初めてみましたよ!!!」


興奮のあまり立ち上がったリリア様が、ピョンピョン飛び跳ねながら、月を指差す。


手を伸ばせば届きそうなくらい月が大きく見えていて、とても美しい。


「日本では、中秋の名月とかですね。」


僕はお尻越しにすすきの感触を感じながら、そんなことをつぶやいた。


「え……?日本って何処ですか?」


あっ…………やべっ……やらかした……。

言ってから後悔しても、遅いというもの。


「あっ、あぁ、何でもないですよっ!!」


そうやって、全力でごまかしてみても……


「…………?」


リリア様は何それといった感じに、月から僕へと視線を移して首を傾げている。


「ほら、月綺麗ですよ!!あそこなんて、模様がありますっ!!!!」


僕は全力でそのことから話題をそらそうと、立ち上がって月をアピールしてみた。


「…………なんか、誤魔化された気が……。」


そう言いながらもリリア様は、再び月へとその視線を移してくれる。


……ふぅ、何とかやりきった……。

なんで彼女といるときに限って、あんなことを言ってしまったのか。


確かに時期的には秋だし、満月だから気持ちはわからなくはないのだけど………って、自分自身なんだもん分かって当然だよな。


「うわぁ、ホントウニキレイダナァ」


僕はまだ若干疑問符を浮かべているリリア様の横に立って、棒読み気味に月の感想を述べる。


「……………………」


それは逆効果だったのか、リリア様はじとーっとした目を僕へと向けた。


いやぁ、月綺麗だなぁ。

あれっ、リリア様はなんで僕なんか見てるんだろっ。

あはっ、僕ってそんなにカッコいいかなぁ。

うわぁ、照れちゃうよぉ。







なんだろう、自分で虚しくなってきた……。


「私、ちょっと前までは、こうやって大切な人と月を見てはしゃぐなんて、できないと思っていました。」


地面に体育座りしたリリア様が突然、なんでもないことのようにつぶやいた。


「…………」


僕はなんて言えばいいのかわからず、ただ小さく頷く。


「ねぇ、レストさん」


真っ白なワンピースを着たリリア様が、膝の上に顎をのせて、こちらを覗いてくる。


「は、はい」


その言葉の続きが、知りたいような……知りたくないような。そんな気持ちのまま、僕は息を呑んだ。


「私、本当に感謝してるんですよ。」


その囁きとともにーーーー








ーーーー秋風が通り過ぎ、美しい銀髪が宙を舞う


「はい」


僕は嬉しいような、あの方法救い方で本当に良かったのか……少し不安になるような、複雑な感情の中、二文字だけの返事をした。


「…………あなたは……何でそんなに優しいんですか…?」


そう、僕を見つめた彼女の瞳は、不安げに潤んでいた。


「……それは…………」


僕は、自分の中でもまだ答えが出ていないようで…………案外簡単な答えが直ぐに見つかりそうなその質問と、彼女の視線から逃げるように、目を伏せた。


「それは?」


歯切れの悪い僕の言葉に、より一層瞳を潤ませたリリア様が、不安げにつぶやく。


「それはーーーー」


僕は、いくら考えても、最後はそこに帰着するその答えを。

少し恥ずかしいけれど、素直に彼女へと告げる。










「ーーーーリリア様だからですよ」




その答えを聞いた、リリア様の頬が赤く見えたのは…………中秋の満月のせいではないと思う。














 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


2021年9月21日は、十五夜です!!

そしてなんと、8年ぶりに満月と重なるということで、突発で短編を上げてみました!!!!


本編とは全く関係のない、作者が『月一緒に見る人いないな……レストとリリアに見せるか』って思いつきで生まれたお話なので、生暖かい目で見守ってやってください。

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