第105話 キュオスティと当たり前な学び

「さて、キュオスティくん。我々に課せられたのは、このヌタワニを瞬時に全て倒すことだ。」


僕は真下の湖を見つめながら、声をかける。


『ガァウ』


もうすぐ下にヌタワニたちがいるので、キュオスティには脳内の方で返事をしてもらう。


「では、行こうぞ!」


僕がそう声をかけると、


『ギャァウ!!』


キュオスティもノリよく返事をしてくれた。


人間と仲良くできないから、ドラゴンに逃げたのかとか言われそうだけど……仕方ない。

友達の数で言えば、人間以外のほうが多いのは事実だから。


「初めに、軽く探索魔法をかけて」


僕はお料理番組のようなテンションで、左手で生み出した魔法を下へと放つ。



「その中からヌタワニらしきものをパパット賢者様に選んでもらい……」


波紋状に広がっていく探索魔法を見ながら、僕は小さな魔物だけを選んだ。


まあ僕がやると何時間もかかるので、そこは賢者様にお願い申し上げて、自動で選んでもった。


「大量の炎の矢を生み出すっと。」


口では簡単に言えるが、実際やってみるのは少し大変だ。


僕は無詠唱でも行けるけど、その分魔力は多少多く使うし、何より精神力を使う。


だから今回は…………まとめてご用意致しました。


僕は両手に魔力を込めて、空中に突き出して、詠唱を始める。


火炎は踊る、優しく強烈に紅く、悲しくそして淋しく淡々と炎矢の群れフロックオブファイアアロウ!!!」


僕の声に合わせて、空には数百本の燃え盛る矢が浮遊した。


そうです。何度も詠唱しなくてダルいのならば、詠唱自体を変えてしまえばいいのです。


脳筋みたいな理論だけど、まあこれがうまく行ったのだから良しとしよう。


「さてと」


僕は、炎の矢の群れたちを本物の矢のように少し下がらせて……


「いっけぇー!!!」


……一斉に降らせた。


上から見たら赤い線が地面へと伸びているように見えてキレイだけど、下で受けるとなるとひとたまりもないだろう。


離れすぎて断末魔さえも聞こえないけど、探索魔法の方では着々と数が減っていくのがわかる。


下は水だから火だと消えてしまうかもしれないと思うかもしれないけど、魔法の火って何故か消えにくいんだよね。


今回は別に火じゃなくても良かったんだけど、なんとなく降らせるなら火かなと思ったので、これにした。


「うわぁ、スゴイ」


水に入ったあともなお燃え続ける矢達は、上から見るとまるで湖そのものが燃えているみたいで神秘的だった。


『ギャオッ!』


「おっけ。まだ少し足りないよね。」


僕はその光景に目を奪われるが、キュオスティの『ちょっと矢の数足りないかもよ!』という声で現実へと帰ってくる。


「おまけっ!!」


僕はさらに追加でもう数百本の矢を生み出して、残っているヌタワニ達に降らせた。






◇ ◇ ◇





「お疲れさまです。」


「お願いします。」


僕はギルドのカウンターで、お兄さんとそんなやり取りをする。


あの後ヌタワニを全部倒して、キュオスティとちょっと遊んだあとに解散した。


「これ、討伐証明です。」


僕は麻袋から、ヌタワニの歯を取り出して見せる。


「確認しますね。」


受け取ったお兄さんは、奥へと戻っていった。


このヌタワニの討伐証明は一匹出すだけで完了する。

それだとサボってしまうと思うかもしれないけど、これでいいのだ。


何故なら、ヌタワニは集団意識が強いため、一匹倒したなら周りのヌタワニが、それを倒したなら更にその周りの…………一匹を倒そうとすると、連鎖的に全部を倒さなきゃいけなくなるから。


僕もこれを聞いたときは、うまく出来てるんだなと感心してしまった。


ヌタワニは人間のことなんて気にしてないと思うから、ヌタワニの生態を鑑みて、この仕組みを考

えたギルドの人がスゴイんだよな。


僕がギルドの人に謎に上から目線な意見を述べていると、


「おまたせしました。」


奥からお兄さんが戻ってきた。


「こちらしっかりとヌタワニのものでした。証明完了ですので、今回の依頼は達成となります。」


にっこり微笑んだお兄さんは、僕の方にヌタワニの歯を差し出しながら言う。


すごい優しいのはわかるんだけど、なんかトゲトゲした歯を差し出しながら笑われると怖くなってしまう。


「ありがとうございます。」


僕は、苦笑しながらそれを受け取った。


「よく討伐できましたね。たくさんいて大変じゃなかったですか?」


書類をスラスラとまとめながら、お兄さんが言う。


「まあ少し苦労しましたけど、知り合いと協力してなんとか。」


僕は、キュオスティのことを思い浮かべながら、そう返した。


「なるほどですね。では、こちらにサインを宜しくお願い致します。」


お兄さんに渡されたペンで、書類の下の方に名前を書いていく。


「ありがとうございます。今回はどちらにお振込みで?」


僕の出した書類に不備がないかを確認しながら、お兄さんが尋ねる。


いつ見ても惚れ惚れするようなマルチタスク、流石です。


「えっと、僕の方でお願いします。」


僕はお兄さんの手際の良さに感動しながら、答えた。


今回は額も大きいような気がするし、シアさんには毎月振り込まれるだろうからね。


「かしこまりました。」


僕は、お手本のような笑みを浮かべて、書類にサインするお兄さんを見ながら、


『報酬額すら確認しないで、難しいのを受けるのはやめよう』


そう、至極当たり前なことを自分に言い聞かせた。

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