第19話 実技試験

最初の一時間で終わり、あとはポケーっとして過ごし、休憩を挟んで次は論文だ。


何でもその論文の素晴らしさをプレゼンするらしい。共作の場合は二人でやれと。


僕はあの緑髪の子を探す。


たしかこの教室だった気が………。


「論文行きましょう。」


僕はかけられた声に後ろを振り返る。


そこにはニッコリとした緑髪の少女。あぁ、これ結構前からいたのかな?


「そうだね。」


と、返し僕らは外に出て次の試験会場へ向かう。


「あなたは基本黙っていて計算の所で質問があったら答えて、最後に実演してくれればいいです。あとは私が言いますので。」


ほえー、僕は立ってるだけでいいの?

論文もほぼ彼女が作ったしなんか悪いな。


僕は少し罪悪感を感じつつ試験部屋へ入る。


「受験番号J-7286番、ヒスイです。」


おじさん達の視線が僕に一斉に向くので、


「試験会場J-9999番、レストです。」


華麗に挨拶してお辞儀した。これで僕の役目は終わったも同然だ。


緑髪の少女ーーーヒスイさんが、論文を指差し、説明している。


魔力熱伝導がどうとか、やれ魔素は効率的ななんとか法則が適用されるとかよくわからんが、おじさんたちのうけはいいらしい。


「そして、これを使えば瞬間移動が可能になるのです!!」


ヒスイさんが大きな声でいうとおじさんたちは面白いくらいざわつく。


「以上で発表を終わりにします………と言いたいところですが、今回この魔法が完成しておりますので、実際に見ていただきたく思います。」


「「おぉっ!!」」


ヒスイさんのその声におじさんたちは大熱狂だ。


「じゃあ、レスト君お願いします。」


「はっはい。」


僕は、部屋の端に立ち詠唱する。


「夢は夢、遠き世界の果てまでも。消え去る日々に灯る煌めき。遥か昔の向こう側。移動ムーブ。」


やはり、なれない感覚だがちゃんと部屋のもう片方の端へと転移できている。


「これは大発明だぞ!」

「いや、でも……」


おじさんたちの評価は概ねいい感じだ。


「では失礼致しました。」


僕は華麗に立ち去っていくヒスイに続きお辞儀をして部屋を出る。


「うまく行きましたね!?」


「そうだね。でも、何から何まで任せていてすみません。」


「いや、そんなこと無いですよ!!」


今日の試験はこれで終わり。

実技は明日らしい。


「私は宿に行きますが、どうします?」


「僕も宿に行きます。」


「そうですか!また明日。」


僕は彼女に手を振り、宿………もとい図書館に行く。


『いい子じゃん?』


「いや。あんな顔して裏切ってくるかも知れないし、命がかかっている場面で自分の身を捨ててまで僕を守ろうとしてくれないだろう?」


『何というか、嫌な方に捻くれてるよね?』


僕は人の少ない図書館の端の椅子に座り反射の魔法で見えないようにしてから眠る。


「横になって寝れるようになりたいな。」


「そうだね。寮に入るとかにもお金だよね。」


「冒険者にでもなるか?」


「やっぱあるのね冒険者。というか、魔王に攻められてないの?」


「お前さんが魔王だろ?」


「そうなんだけど。ほら、ローズドの後魔大陸を治めてると思われる方の魔王。」


「ややこしいな。でも、多分この街の感じを見るに攻められてはないのだろう。攻める理由もないしな。」


「無いの?」


「魔大陸はこっちより広いし、土地に困ってはないだろうし、労働力もたりているし、ちゃんとまつりごとも回っている………はずだ。まぁ、正式な魔王はここにいるのだがな。」


「へぇ。誰彼構わず侵攻してるんだと思ってたよ。」


「それはどこの戦闘狂だよ。そんな非効率的なことはしないよ。」


僕らの夜は、月と共に更けていった。


 ◇ ◇ ◇


チュンチュン


「ほれ、朝じゃぞ。起きろ。」


「んん………。」


僕はフローラに服を引っ張られて重い瞼を開ける。


「お風呂………入りたい。」


僕はそこまで潔癖症じゃないので、数日は大丈夫なんだが、一週間弱入ってないのは気持ち悪い。


「風呂か………金を払うか川に行くかの二択だな。」


「僕なら、森があればシャワーに入れるけど。」


「王都は外に出ればすぐ森じゃなかったか?」


「まじ?」


僕は、外に出てストレッチをする。


やっぱり、横になって寝ないと肩と腰が痛い。


「森に行くか。」


まだ眠そうなスロを頭に乗せ、門に向かう。


「おまえ、金払えよ!!」

「っせ!つけといてくれよ。嫁に逃げられたんだよ!!」


あらあら、酒に酔った兵士さんが叱られてる。

嫁さんに逃げられたのね。それはご愁傷さまです。


「おはようございます。」


「おはよー」


門番さんに一応挨拶をして外に出る。

春だから冷えるな。


僕はローブを体に寄せて森を歩く。


「このへんでいいかな?景色に化けて姿を隠せ交わって見えなくなる反射ミラー。」


大き目の木の影で服を脱ぐ。


水を与えよ哀しさで包むウォーター火を与えよ優しさで包む着火ティンダー。」


スロに薬草食べてもらって出た泡で体を洗い、頭を洗う。


スロやフローラ親子も洗って………。


「ニル気持ちいいか?」


こくんと頷いてくれた。うぅーーかわいい。


「やっぱり、お風呂だよね。」


日本人の心大事。


 ◇ ◇ ◇ 



「目的は………って朝の坊主か。身分証明書だせ。」


街に戻ろうとすると、門番さんに止められた。


What is a ミブンショウメイショ?


「えっと………もってないっす。」


「はいよ。この紙渡すから、冒険者ギルド行って来い。それで証明になるから。」


「ありがとうございます。」


黄色の紙を貰って中に入る。これから入試があるし、その後かな?


『ふぁぁぁ………おはよ。学園行くの?』


「うん。今日は実技試験ってやつ。」


『あぁ。やり過ぎないようにね?』


魔王は僕をなんだと思ってるんだ?


「僕はそこらへんの馬鹿じゃないから、ちょうど平均点を狙うんだよ。」


『さいですか。』


その後も話を続けていたら、学園についた。


「実技試験の会場はこちらでーーす!」


あのやつれ顔のお姉さんがハキハキとそう言って腕を回している。


ちゃんと寝れたのかな?


「おはよう。」


ん?振り返ると緑髪の少女。もとい、ヒスイさんがいた。


「おはようございます。」


………。話が続かない。

無言のまま会場につく。


「じゃあ、私はこっちで。」


「うっ、うん。頑張ってください。」


小さめに手を振り、女子の列に並ぶヒスイさんを見送る。


さて。僕もこっちの列に並んでっと。


「えー、本日お集まりの皆さん。おはよう。俺は実技試験の責任者であるニードだ。これから女子陣は魔法試験。男子陣は剣術試験となる。じゃあ、各自おのれの実力を最大限発揮するように。解散!!」


眠そうなおじさん………かろうじてお兄さんがそう言うと、列が進みだした。


どれ?僕は体を右にずらし、最前列を見る。


受験生同士で戦うのかと思ったが、試験官の男と数分打ち合って終わりらしい。


僕はかなり早めに並んだので、すぐ順番が来そうだ。


「はい受験番号を言って。」


「J-9999です。」


「はーい。準備できたら言って。」


僕は呼吸を整え、剣を抜く。


「へぇー、曲剣ね。じゃあ始めるよ。最初はそちらでどうぞ。」


「はい。」


僕は腰を低くし、さっき抜いた剣を再度しまう。


「ほぅ。」


そうつぶやく試験官に目掛け体を動かす。


「抜刀」


「っ!君速いね。」


僕は7割位の力で行ったのだが、らくらく受け止められた。この試験官、強いな。

でも、魔王もB級の上位っていってたし僕よりも強い人がたくさんいるんだろう。


「じゃあこっちから行くね。」


なんの変哲もない袈裟斬りを受け流す。


「オッケ。もう良いよ。魔法試験の方に並んでね。」


「ありがとうございました。」


周りと比べて早かった気がするが、緊張してたのだろう。


さて、問題は魔法試験だ。剣術はすこしの手加減というか、ただの加減で良かったが、魔法の方はこの世界の基準がわからないからな。


「ん!」


魔法試験待ちの列から背伸びをして前を見る。


ちょうど、女子が終わり男子の最初の人が始めたところだった。


あれは、中級魔法か?でも、魔力密度が低いな。あれじゃ半分位魔力を無駄にしてる。


今度は初級魔法。でも、練度が高い。これならさっきの中級魔法よりも強いんじゃないか?


今度は上級、しかも密度が高い。あの人強いな。


中級、中級、初級、上級、中級、中級………。


途中まで見た感じ、中級魔法が平均値かな?

少し余裕を持って中級魔法で密度高めにしよう。


「はい次。」


僕は呼ばれて前に出る。


「受験番号言って。」


「J-9999です。」


「はい。じゃああの的に向かって出来るだけの魔法撃ってね。」


僕は右手を構える。


「へぇ、杖なしか。」


土でいいかな?


土は護り大切な人石は駆ける話したくて誰にも知られずに離したくない人石礫ストーンショット!」


放たれた拳位の石が的に当たる。


「よし終わり。」


「ありがとうございました。」


僕はお辞儀をして会場をあとにする。


「明日に結果発表があるから。」


出口付近のお姉さんにそう言われた。

随分結果が出るのが早いんだな。

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