第18話 論文
自己紹介も無しに僕らは科学を通して語り合った。
主に魔法系は彼女が、計算しているので間違ったところや矛盾点を僕が指摘し、完成する一歩手前の間違いを多く抱えた論文は直されていった。
自分の論文書けとか言わないの!
楽しいからいいの。決して何も思い浮かばないから現実逃避してるとかじゃないの!!
「あとはここだけですね。」
「ああ、そうだね!」
最後の最後に残ったのは論文の最後に出てくる最大の難問、数式や理論で書かれた事を魔法陣や詠唱に変換するということ。
詳しいことはわからないが、魔素に色々するところの色々がこれらしい。
「理論的には通常の収納魔法の魔法陣に物質に与える力とベクトルを書けばいいんだけど………」
そこで彼女は僕を見て言う。
「収納魔法使えます?」
「あぁ、使えますけど?」
「ほんと!じゃあゆっくり発動して下さい!!」
お互いに深夜テンションで会話をする僕らを数少ない他の客は迷惑そうに見つめる。
ゴメンナサイ。
「
僕は、できるだけゆっくりと魔力をつぎ込む。
「いいよ、いいよ!もうちょっと!」
彼女は僕の前に現れた魔法陣を丁寧にスケッチしていく。
「ありがとう!!えっと、ここにこうして……」
彼女は紙面の魔法陣に書かれている図形や文字にバツをつけ、代わりの文字を描いていく。
「前に言ってた質量保存のなんとかをもう一回教えて下さい。」
「分かった。」
僕は少しでも彼女の助けになるならと、丁寧に教える。
「じゃあ、ここをこうして………。うーーん?」
どうやら手詰まりのようだ。
『おい。』
そこで久しぶりの魔王の声が頭に響く。
『そこの部分だが、フィット・エスカルべ・カナリヌカ・ポリゴンにしてみて。』
ポリゴン?恐竜みたいだな。
よくわからないが、彼女に言ってみる。
「そこを、フィット・エスカルべ・カナリヌカ・ポリゴンにしてみて下さい。」
「なっ!!」
彼女はその言葉に驚愕の表情を浮かべる。
「本当だ!そうするとここの部分が保持されたままここがこうなってこうなる!!」
ここしか出てきてないが、なんかうまくいくのだろう。
ここだけの話、僕は彼女の研究の内容をあまり理解していない。
ただ、計算式の間違いを正しただけで彼女が後は全部やっていたのだ。
「ここが直ったなら………これで出来た!!」
彼女は、魔法陣の書いた紙を僕に見せつけてくるが、よくわからない。
「これで終わりですか?」
そう聞くと、彼女は横に首を振る。
「いや、この魔法陣を詠唱に変換しないといけないのですよ。」
そう言うと彼女はまた紙に何かを書き始める。
「楽しいか?」
ふと、それまで黙っていたフローラが言う。
「うん、とっても!!」
僕がそう答えると彼女はそうかといって眠り始めた。
なんなんだ?
「でっ出来た!!これで完璧だ!!」
少女が紙を持ってジャンプする。
ギロ
周りから見られて彼女は少し恥ずかしそうに僕に紙を渡す。
「これを詠唱してみて下さい!あぁ、言うときは行きたい場所を思い描いて!」
僕は書いてある通りに読む。
「夢は夢、遠き世界の果てまでも。消え去る日々に灯る煌めき。遥か昔の向こう側。
ヒュン
少しの時間の後、僕は目を開く。
「やった!やりましたよ!!」
僕は目の前の彼女に抱きつく。
「そっそうですね。できました!」
彼女は少し恥ずかしがりながらも、抱きしめ返してくれた。
僕は机を挟んで向こう側、彼女の目の前に移動することができたのだ。
「いや、良かったですね!」
僕が微笑むと、彼女は微笑み返しながらも、ある事を言う。
「いまって、何日です?」
えっと、僕は考えるがわからない。
『5月の22、月の日だが?』
この世界では一週間を7日として、一ヶ月4週間。つまり28日とし、12ヶ月。336日で一年としている。
とまぁ、それはおいておいて。
僕が魔王に言われた通りに伝えると、彼女の顔はみるみる青くなっていく。
「どうしました?」
「今日、魔法学園の入試の日だ!」
へ?
へ?
彼女はそう叫ぶと、出来上がったばかりの論文の末尾にサラサラと筆記体のような文字で名前を書き、僕にペンを押し付ける。
「何ですか?」
「何ですか?じゃなくて!名前を書いて下さいよ!!」
彼女は怒ったような顔で僕に言う。
「いや、いいですよ。貴方の論文ですよね?」
「そんなこと言ってないで早くしてください!!」
僕は言われるがまま論文にサインする。
えっとレストっと。
「じゃあ、私はこれで!今日受験なんです!」
荷物をまとめ走り去ろうとする彼女を僕は止める。
「ちょっとまって!僕も一緒に行きます。僕も受験生なんです!」
僕は荷物を……まとめるようなものはないが。スロを抱いて走り出す。
図書館を走り抜け、すぐ近くの魔法大学へと走る。
「あなたも受験生だったんですね!じゃあこの論文は二人の共作ということで出しましょう!!」
「いいんですか?というか二人でできるんですか?」
僕としたら論文の項目はもう諦めたつもりだった。
「いいんですというか、それじゃなきゃ納得できません!あなたのおかげで出来たんですから!」
叫び合う僕らはやがて魔法学園へたどり着く。
あの怖い門番さんは今日はいなかった。
「すみません!受験会場はどこですか!?」
前見たときよりはいくらか良くなった顔色のお姉さんに彼女は尋ねる。
「受験番号の頭文字はなんですか?」
「えっと……Jです!」
二人が僕の方を向くので僕も言う。
「Jです。」
「お二人共Jですので、ここを右手に行った突き当りの教室ですね。」
「ありがとうございます!!」
彼女はそう言うと、僕の手を引いて廊下を進んでいく。
なにはともあれ、僕は受験することができそうだ。
◇ ◇ ◇
部屋の中に入るとぎっちりと並べられた椅子に1000人位の人たちがお行儀よく座っていた。
「早く席につけー!」
僕は試験官の声に自分の番号がはられた椅子を探す。
「9996.9997.9998.9999。」
あった!
僕が席につくとほぼ同時に試験管じゃなくて、試験官が問題を配布する。
「配られた試験札は机の端におけ。試験時間は250分。トイレに行きたかったら言えよ。じゃあ全員に配られたら音鳴らすからそしたら開始な。」
僕は廊下側の一番うしろだ。試験問題が配られるのは最後。
僕のところまで行き渡ったのを見て試験官は
「じゃあ始め!!」
といい、ピーという音がなった。
前方黒板にはタイマーらしきものが貼り付けられている。
さて、問題だが本を全暗記した僕にしたらこんなもの屁でもない。
が、ここで目立ちたくない系主人公は何故か満点をとってしまうのだ。
アホか?目立ちたくないとかカッコつけておいて、なに満点取ってんだよ!史上最高得点で入学とかやめとけって!
ゴホン。失礼。
僕はそんなへまは犯さない。いい感じに平均点を狙うのだ。
多分この試験問題は難しいのだろう。参考書の端っこに書いてあるコラムみたいなやつからも出題してくるタイプのテストだ。
でもって、入学して来るのもかなりのエリートだろう。ズバリ、僕が狙う点数は7割5分。それぐらいが平均点だろう。
僕は適度に間違えつつ、試験問題を解いていった。
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