第17話 予想外

「じゃあさ、俺と遊ばない?楽しいよ〜!」


「嫌です。これから予定があるので!」


お兄さんの誘いに露骨に嫌な顔を浮かべた緑髪少女、さぁこれからどうなるんだ!


おっとここでDQN嫌がる少女の手を強引にとり、強めなエスコートを始める!


「やめてって言ってるでしょ!?離して下さい!」

「ほらほら、楽しいから。ちょっとだけ来てよ。」


少女は大きく息を吸っている!

ここで言うのか?あのセリフを!


炎は踊る優しく強く赤く悲しくそして切なく淡々と炎の矢ファイアアロウ!」


「「へ?」」


予想外の言葉に僕とDQNの声が重なる。


放たれた炎の矢で燃え上がるDQN。可哀想という感情はない。


でも意外だな、てっきりここは僕が助けなきゃいけないと思っていたが。


「で、そこにいる方はどうしますか?焼かれますか?」


これって絶対僕のことだよね?

僕は出ていくことが出来ず、壁に張り付き直す。


「出てくる気はない……ですか。」


緑髪女の子はそのまま奥に行ってしまった。


「ふぅ、危なかった。」


僕は汚れた服をパンパンと叩き、魔法を解除する。


「出ていってやればいいのに。」


フローラの言葉は無視だ。無視!


「あれ?」


僕は落ちている紙束を拾う。


「これ彼女のだよな?」


拾った以上届けなきゃだが、めんどくさいな。そう思いながら僕は紙面を見る。


「なっ!」


そこにはここ異世界にはあるはずがない数式が書かれていた。


なんでここに余弦定理なんてものがあるんだ?


僕は紙束をめくる。

多少違うが、そこには僕の知っている数学の定理が所々にあった。


「この世界で誰かが見つけたのか、それとも……。」


僕は緑髪の子が去っていった道を見つめ、思う。


「寒っ。」


◇ ◇ ◇


あの後噴水広場に戻り、反射の魔法で姿を消して、一夜を明かした。


もうしたくない。春とはいえ、夜は寒かった。


フローラ親子とスロが寄り添ってくれたので心は暖かかった。心は。


『君、こっちの事とかわかるの?』


魔王は僕の持つ試験詳細が書かれた紙を指して言う。


そこにはこう書かれている。


試験内容

 筆記試験:論文 基礎知識

 実技試験:剣術 魔術


「実技は問題ないとして、論文と基礎知識ってのがなぁ。」


論文は魔法について書かなきゃいけないらしい。

基礎知識はその名の通り基礎の知識。はっきり言って僕は何一つ知らない。


『しょうがないな。私が助けてあげるよ。この街に図書館とかないの?』


僕は拾った街の地図を見る。


王立図書館


「あるみたいだよ?」


『じゃあそこに行こう!』


ハイテンションな魔王に呆れ気味のフローラがついていく。


「ほれ、お主もこんか。」


「あぁ。」


僕も彼らとともに歩き出す。

仲間っていいね。


◇ ◇ ◇


「うわ、おっきい!」


王立図書館は学園の近くにあった。

見た目はでっかい豆腐のような長方形。実用性重視なのだろう。


中に入ると等間隔な本棚が一面にあり、所々に人がいる。


二階に上がると勉強ができるようなスペースがあった。


僕は魔王に言われた本を取り、席につく。


『まずは歴史から行こう。普通ここから全部なぞるのは無理………なのだが、君は例外だ。完全記憶なんて便利なものがあるんだ、そこにある本を読めば覚えられるだろう。』


そっか!僕には魔法というチートがあるんだ。


僕は言われた通りに完全記憶を発動させ、本を開く。


感覚としたら、本の内容が完璧に覚えられるのではなく、いつでも本が見れると言ったほうがいいだろう。


ハドルト王のときに起こった大戦は?という問にそれに該当する本のページがそのまま頭に浮かぶのだ。


ちなみに答えは『ナンデヤ・ネンの戦い』。


めくるだけとはいえ、広辞苑くらいの厚さの本を10数冊めくるのだ、時間はかかる。


一時間ほどで歴史を終えて、魔法に取り掛かる。


 ◇ ◇ ◇


「ふぁぁ〜。眠くなってきたよ。」


『我慢せい。』


僕は今日いっぱい使って基礎知識を覚えることができた。


今思えば賢者様があるのだが…………まぁ、自分の実力でやることに意味があるとかないとかだから。


夜になり、外に出なきゃいけないかと思ったが、なんでも夜しか図書館に来れない研究者の人のために図書館は無休らしい。


日本だったらブラックブラック漆黒超ブラックだ。


まぁ、おかげで僕は寝床を確保できたのだが。


「問題は論文だよね?」


『そうだな。こればかりは時間が足りない。』


入試まで5日と迫っているが、僕は何一つ書くことができていない。


そこでふと、あの緑髪の少女の落とした紙束を思い出し、手に取る。


「これも論文だよね?落とし主がいたらわたさないと………だけど……。」


その時、僕の視界には緑の髪の毛がうつった。


僕は声を失う。


座っている机の対角線に座った女の子は、どう見ても街で襲われていた子だ。


「あっあの!」


いきなり大きな声を出した僕に彼女は不審な視線を向ける。


「あの、この論文あなたのですよね?」


「えぇ、そうです………これをどこで?」


僕から渡された論文を見て少女は、一変僕に怪しむ視線を向ける。


「いや、拾いまして。………それよりも!すごい研究ですね!?」


僕は、話題を変えようと論文の中身について語る。


「少し読ませてもらいましたけど、魔法を使って瞬間移動するなんてよく思いつきましたね!」


「……あなたは笑わないのですか?」


あれ?これ地雷踏んじゃったかな?

少女は僕にどこか悲しげな声で言う。


「いや、笑いはしません。たしかに所々間違ってはいましたけど………。」


彼女の書いた論文はざっくりいうと、


【世界は目には見えない小さな粒でできている。魔法は魔素という粒に何らかの力を加えることでその効果を表す。そして、普通の粒と魔素をくっつけ色んなことをすると均一に混ざり2つに別れる。両方を離れた場所に転送し、その片方に全く無関係な粒を色んなことして混ぜる。すると、もう片方の粒にも無関係な粒が混ざっている。そしてこれを使うと物を他の場所に送ることが出来る。そしてそれを人間に使うことも理論上可能である。つまり、瞬間移動が出来る。】


ということだ。


元の世界にもこれと似た考えで量子のもつれというものがあった。25kmの転送にも成功したのだとか。


まぁ、元の世界でやると一つならできるがそれをたくさん。人体のような複雑なものにすると位置関係とかの問題があってうまく行かず、それができても自転とか公転とかの問題があるので人間はできないというものだった。


それが彼女の論文だと魔素があるおかげでうまくいくらしい。


まぁ、魔法ってものがあるんだそれに科学を足したら案外できるのかもね。


「えっ、あれが理解できたんですか?」


彼女は心底意外という顔で僕を見る。


「魔法の専門用語が出てるとことかはさっぱりだけど、計算式とか物理法則のところなら。」


一応高校生なんで。本業ですよ。


「じゃあ、この計算はできますか!?」


彼女は鼻息荒めに紙の一部分を指した。


「あぁ、ここですか。」


そこは僕も読んでいて疑問に思ったところだ。

高度な積分が使われているのだが、多分間違っている。


「ええっと多分ここで使いたいのは、体積あたりの力だと思うけど、これだと面積あたりの力を求めちゃってますよ。」


「あぁ、そうでしたか!そんな初歩的な!ではここは?」


次は質量についてだ。


「えっとここで仮定したNがここでは………」


「なるほど!ではここをN³として……」


「それだと熱力が前と後で変わってしまうから………」


「なるほどです!!!」

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